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Vol.0183 「生活編」 〜ガラスの方舟、再び〜

"ガラスのボートが来た。最近、誰かを不意に見送るたびにそんな想いが胸を過ぎります。身の回りの人がはっきりとした行き先も知れず、ポツリポツリといなくなるのです。それは往々にして突然に、時には去って行く本人たちも予期せぬかたちで起こります。私はそれをガラスのボートのお迎えだと思うようになりました。他人には見えない透き通る舟が、ある日、目の前に止まってしかるべき人たちを迎えに来るのです。喜んで乗り込む人、不承不承乗る人、あまりの唐突さにいったんは迎えを拒み、最終的に諦めて乗っていく人・・・・いろいろな人を見送りました。"

これは、昨年元旦に配信した「西蘭花通信」〜ガラスの方舟〜の一節です。一昨年は景気が悪化し失業率が上がったこともあり、人が香港を離れる傾向が顕著でした。外国人であれば本国に帰る人もいましたが、それでも一部の人や多くの香港人は中国に職を求めて北に向かいました。こうした流れを広東語では、文字通りに「北上」(パッション)と呼んでいます。昨年は新型肺炎(SARS)の影響で、香港のみならず発生源の中国や飛び火した台湾も含め大中華圏全体がパニックに陥り、景気や失業率が更に悪化したにもかかわらず「北上」の流れが滞る局面もありました。しかし、安定を取り戻すやいなや、再び"ヒト・モノ・カネ・情報"が太い流れとなって北に向かい始めました。

そんな中で西蘭家だけは、ぽつねんと「南下」を目指しつつガラスのボートを待ち続ける1年を送りました。しかし、舟は来ませんでした。私は〜ガラスの方舟〜の中で、"「もしかしたら私達には迎えは来ないのかも・・・」とも思っています。"と、したためてもいます。"それよりも新しい海に自らの力で漕ぎ出すための周到な準備を始め、家族が心を一つにし、どんな悪天候の中でも希望を捨てず、新しい約束の土地を探す長い旅に出るための、ガラスの舟を仕立てる時期が来たのかもしれません。"と記し、機会は与えられるのではなく自分たちで創り出していくものという、現実的な2003年の姿を予想してもいました。

その意味では、元旦にイメージしていた通りの1年となりました。移住申請や自身の退職という周到な準備を実現させ、SARS回避のためとは言え、家族の絆は別居を通してむしろ強くなり、移住に向けての一家の心積もりはより強固なものになりました。ニュージーランドの移民政策が自分達を含めた希望者にとり、刻一刻と厳しいものになっていく中でさえ、一国としては正しい方向に向かっていることを確信しつつ、心構えも身構えも整えてきたつもりです。舟がほぼできあがったという実感もあります。ただし進水することなく新しい年を迎えてしまいました。

これは「移民局から返事が来なかった」という現実以外の何物でもないはずですが、なぜか私の心の中では、自分のせいであるような気がしてなりません。寝ても冷めても「NZ♪」、認可されたら夜逃げ同然にスッ飛んで行くつもりで鼻息荒く待機していたはずですが、これはひょっとすると表向きの、自分で理想とする姿でしかなかったのかもしれません。実際は、日本滞在中には「二度とないであろう日本暮らしを子供に満喫してもらいたい」、香港に戻ってからは「最後の香港生活を家族でとことん楽しもう」と、目線だけは常にしかるべき方向に向いていながら、"全身全霊を傾けて"という状態にまで行ってなかったことを白状せざるを得ません。心のどこかで、「今、認可が下りたらどうしよう?」という、かすかな気迷いがあったのです。

心にこうしたちょっとしたスキがある限り、私達の舟は水漏れを起こす可能性のある不完全なものなのです。それを目ざとく見つけ出した幸運の女神が私達に微笑むことはありませんでした。しかし、チャンスには前髪しかありません。女神の姿を遠くに捉えたら、私達にこれ以上の猶予や迷いは許されません。何としても前髪をつかんでものにしなくてはならないのです。今年はきっと行きます。1年前に感じていた"そろそろ私達にもここを去る日が近づいてきたようです"という実感は今でも強く残っています。

思いつく限りの準備と、直接的には関係なくともお世話になった香港への精一杯の恩返しを模索しつつ、ここでの残りの日々を生きてみたいと思います。その中で、家族の気持ちが更に固まってくれば、この時間は決して無駄にならないどころか、新生活のスタートに向けた貴重なレッスンとなることでしょう。一日たりと無為に過ごせる日はありません。"遠い地平線や冬晴れの空の高みに目をやりながら、いつどこからやってくるとも知れないガラスの舟に目を凝らしながら"、最後の日々を駆け抜けて行こうと思っています。

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「マヨネーズ」  一年の計は元旦にあり!大きな転換の年となることを見越した西蘭一家の2004年の目標は? 善(6歳):「5キロ走れるようになる」(他にも「オールブラックスに入る」と「コックになる」というのがあったのですが、年内達成はどう考えても難しそうなので見送り)、温(9歳):「つまらないことで善とケンカしないでママに迷惑かけない」、「やらなきゃいけないことをやる」、「ピアノを練習する」、タカ(37歳):「ピアノの持ち曲を6曲に」、「仕事の死守」、みこと(41歳):「どこでもクルマで行けるようになる」、「10キロを軽く走れるようになる」、「睡眠を5時間以上とる」、「香港と子供のためになるボランティアをする」。そして、一家の目標は、も・ち・ろ・ん「年内にNZに移住する!」。

まったくのドテ勘ですが、私がクルマにスイスイ乗れるようになった頃行けそうな気がします。移住したら夫は空前絶後の出張族となりそうなので、その間の移動はすべて私次第に・・・。どうもこの辺の負担が、何かのブレーキになっていそうな予感がします。当るも八卦、当らぬも八卦!後は見てのお楽しみ??? 今年もよろしくお願いしま〜す♪

西蘭みこと