>"
  


Vol.0175 「生活編」 〜エンドレス鍋〜

日本で大学生だった頃、台湾からの留学生だった女性の先輩・陳さんに、「何もないけど食べてって」と夕食に誘われたことがありました。誘われるがままにいただいたのが、それまでの生涯で最高においしかったお鍋でした。土鍋に入ったそれは、私の中でのお鍋の概念を根底からくつがえすような、ごった煮でした。「ちゃんこ鍋をギュッと小さくしたようなもの」、とでも言えばいいのでしょうか?とにかく、ありとあらゆる具が少しずつながら、これでもか、これでもかと入っている魔法の鍋でした。

他にもゼミ生が来ていたので、女ばかりで鍋を囲んでワイワイやりました。ほぼ食べ尽くした後でも私はあまりのおいしさにコンロを離れられず、いじいじと鍋底をつついていました。すると陳さんがいかにも興味なさ気に、「みことさん、それ好き?良かったら全部食べてってくれない?ちょうど新しいのに作りかえようかと思ってたから・・・」と、言いました。「作りかえる?」と言葉の意味を理解しかねていると、それを察した陳さんが、「3週間くらい前に作った鍋なの。ちょっと飽きてたんだ〜」と、サラッと言ったのです。「3週間前の鍋ぇぇ????」 こちらはそれこそ、目が点に。

詳細を聞いてみると、3週間前に鍋を作り、その後は毎日のように新しい具を足して、今日まで来ているということなのです!一度作ったスープがいくら毎日火を通しているとはいえ、そんなにもつとは知りませんでした。「なるほど〜。この深〜いダシは今まで煮込んだすべてのものの旨みなのか〜」と思うと、一滴でもムダにできない気がして、私はとうとう、「鍋を洗う手間が省けた」と陳さんに感謝されるほど、スッカラカンに平らげてしまいました。

以来20年間、あの鍋は私の中でいつか挑戦してみたい憧れでした。その間、北京出張で「羊のしゃぶしゃぶ」や激辛の「四川鍋」を食し、台湾や香港では陳さんの鍋に最も近い有名な「火鍋」を、シンガポールやマレーシアでも「火鍋」の東南アジア版「スチームボート」を数限りなく試し、タイでは有名レストラン「コカ」に駆けつけ、中華鍋奉行としての舌を磨いてきました。そして迎えた2003年冬。鍋を守るには万全な専業主婦としての体勢を整え、いよいよ「エンドレス鍋」に挑戦です!夫は出張で不在がち。訳のわからないものを試すには絶好のタイミング!

初日:鮭、バターを入れてコクのある石狩鍋風に。でもスープはこってりさせず、豆腐や中華式イカ団子、ほうれん草などの具を選んで子供には味噌汁代わりに(塩分が抜けて骨まで柔らかくなった鮭は翌日の弁当の具にも)。好物の大根はたっぷりと。2日目:ほうれん草と鮭を全部片付け、残った大根にさつま揚げ、結んだ白滝を加え、ちょっとおでん風に。少なくなったスープに水を加えしょう油で味を付け直したため味噌っぽさはほとんどなし(さつま揚げは弁当行き)。3日目:別鍋にスープだけ小分けして、玉ねぎ、ネギ、豆腐、豚肉、キムチ、味噌を入れて韓国風豆腐鍋に。

以下はランダムに。かなり中身をさらった後のx日目:別茹でするのが面倒なので電子レンジで5分チンしたジャガイモや牛筋、ゆで卵を加え、味を濃い目、スープを少な目にして煮込み風に。弁当にも重宝。x日目:再びスープを薄めにして別鍋を作り、青野菜やシメジ、わかめ、もやしなど軽い具にごま油や固形スープの素など加え、中華風スープに。溶き卵を落としたら鍋からは遠い存在に。x日目:中国人がよくやる、魚のあらや小ぶりな魚を布製の袋に入れてコトコト煮てみます。これはスープだけいただくものなので具はなし。でも見た目が寂しかったらネギやゴマを散らしても。

x日目:魚の味と臭いが残っているので、ここで一気にブイヤベースへ。タラ、イカ、海老、ムール貝に大ぶりなジャガイモを加え、ブイヤベースの素も少し足してそれっぽく。ただし、ぐつぐつ煮られない具なので食べ切れる量に。x日目:ここまで闇鍋になってきた以上、何でもありの正統「火鍋」で出直しです。薄切りの肉・魚はもとより、各種臓物、ソーセージ、つくねなど何でも入れ、青野菜も数種類を切らずに豪快に入れます。春雨などでボリュームを持たせるのもアリ。x日目:味が中立に戻ったところで、餅など入れてちゃんこ風に。翌日は味噌やコーンを足して、再び石狩風で、初日に戻ります。

とまぁ、こんな感じで回していくと、鍋、スープ、煮物の代用品として、毎日使い回せます。そのため鍋ごとテーブルに載る日はほとんどなく、ダシ代わりに使って中身だけをおかずの一品にします。どれも味がしみているので冷めてもおいしく(特に大根、ジャガイモ、卵!)、弁当に使える具を欠かさずに入れると更に使い勝手がよくなります。別鍋にすれば味の付け替えも可能で、大人向けのキムチ鍋や、キャベツたっぷりのモツ鍋っていうのもイケそうです。最後に麺やご飯を入れておしまいにできるのも別鍋ならでは。鍋の寿命は鍋奉行のアイデアとメンテ次第、この冬の手軽な完全食として一鍋いかがですか?

***********************************************************************************

「マヨネーズ」 「火鍋」は中華系がいるところならどこでも食べられるので、ニュージーランドに行ってからも楽しめるでしょう。肉・魚介類・野菜・豆腐たっぷりの完全食です。すり身で作った海老・牛肉・イカ団子、干ししいたけと豚肉、海老と豚肉などのコンビ系団子など、たくさんの種類の魚肉団子がプカプカ浮いています。餃子風の包み物もガンガン入れ、一般的な「魚餃子」以外にも団子同様にたくさんの種類があります。そして日本にはない「豚血」。その名もズバリ豚の血を凝固させ、豆腐のようにサイコロ状に切ったもので歯にシコシコくる食感は捨てがたく、貧血気味の人にはレバーどころではない効用が・・。タレは酢、しょう油、油、チリ、スパイス各種、XO醤等を混ぜ、各自お好みでどうぞ。

西蘭みこと