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Vol.0170 「NZ・生活編」 〜壊れた風景 その2〜

深く質を追求しなければ、今ほど生活費に占める「食」が、割安だったことがあったでしょうか?例えばハンバーガー。私が日本で大学生だった約20年前、ハンバーガーはかなり割高な食べ物でした。一つが約200円でポテトや飲み物をつけたら500円前後になり、そこらの定食と変わらない値段でした。当時、私のアルバイトの時給は800円(それでも悪くない方でした)。安くない上にたいした満腹感を得られるわけでもないハンバーガーは私にとって中途半端な食べ物でしたが、時間がない時にはずい分お世話になり、「この利便性を買ってるんだ」と割り切っていました。

それが最近では59円にまで値下がりする局面もあり、にわかには同じ食べ物であることが信じられませんでした。食品は日進月歩の技術革新で大幅に価格を引き下げられる工業製品とは違います。それが3分の1以下にまで値下がりしたということは、コスト削減などの企業努力を超えたものではないかと思います。一つの商品が体裁だけを維持しながらそっくり中身を変えてしまったと考える方が自然ではないでしょうか?一つのハンバーガーが本当に安全でおいしければ、59円である必要はありません。その代わり、消費者はその価値に対して相応の対価を支払うべきです。「安いから」と言って2個も3個も買って、残したり、はなはだしくは捨てたりしていたのを、1つだけおいしくいただくという態度に改める必要があるでしょう。

しかし、一度59円を経験してしまうと、人は80円でも割高に感じるものです。消費者とは欲張りで、永遠に満足しない人たちです。彼らが「59円」に固執すれば、企業はそれを維持するために「材料の国際調達」と称して、世界中で最も安い食材を積極的に選ぶことになります。企業活動が営利目的である以上、当然の経営判断です。しかし、調達された世界で最も低価格帯の食材が、どんなものなのかは消費者には知るすべがありません。

「安い食べ物=危険な食べ物」ということは、もちろん一概に言えません。各国の物価や農業生産性の違いなどから、割安な輸入品を通じて価格を下げることは十分可能です。しかし、「危険な食べ物」が往々にして、生産コストの引き下げを追求していく過程で生じることを考えると、「安さ」を求めれば、ある程度の「危険」を併せ呑まざるを得ないのが現実ではないでしょうか。

効率を求めて遺伝子組み換えに踏み切れば、虫食い葉など1枚もない、そのまま店頭に並べられる商品価値の高い野菜を早く出荷することができるようになるでしょう。安定した大量供給が価格低下を実現させ、消費者に「こんなに新鮮でこんなに安い」と、喜んで財布の紐を開かせることができるのです。こうして私たちは自分たちが口にしているものが何なのかを見失っていきます。

身近なところで、先月こんなことがありました。サンドイッチチェーン「日本サブウェイ」のサンドイッチに使われていた輸入冷凍パン生地に、厚生労働省の安全性審査を受けていない遺伝子組み換え微生物由来の酵素が使用されていたことが判明したのです。問題商品はすぐに販売停止となりました。サブウェイが商社を通じてパン生地を買い付けていた輸入元はなんとニュージーランドでした。NZで遺伝子組み換え作物が解禁されたのは、先月30日のこと。この事件はその前に発覚しています。

NZでの報道によれば、問題酵素の原料は輸入品だったようですが、消費者どころか、生産者と消費者の間に立つ加工業者ですら材料が何でできているのかわからない状態なのです。となれば、私たち消費者が口にしているものの由来を知るなど至難の技です。こうして、家庭では組み換え作物の解禁か否か以前に、組み換え食品がじりじりに食卓をよじ登り、解禁後の田園では組み換え作物とそうでない作物がお互いに種子を飛ばし合って理論上の棲み分けの壁を軽々と越え、その狭間ではすべてに耐性を持った化け物のような雑草が繁り始め・・・と、見慣れた風景は内側から崩壊していくのかもしれません。

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「マヨネーズ」 奇しくも日本マクドナルドは1971年の創業以来初めてとなる、希望退職者約146人を募るリストラに踏み切りました。デフレの象徴だった「59円バーガー」戦略が裏目に出た結果です。リストラ費用が響くこともあり、今年度も36億円の最終損失を計上する見通しで、2期連続の赤字決算となります。激安バーガーはダイエーの「価格破壊」同様、導入当初はセンセーショナルでしたが、価格だけで消費者をつなぎとめて置ける期間は残酷なほど短く、その間に業界の旗手たちは屋台骨がかしぐほど体力を消耗してしまったようです。

「お客さまは神様」とばかりに消費者が経済活動に君臨し、「安くおいしく」と尽きることのない貪欲に身を任せていけば、企業は業界内での生き残りをかけてそれに応えていくことになります。欲を先読みした「消費喚起」なる戦略で、実際にはニーズがないのにもかかわらず、それを掘り起こしたり、不要なものを押し付けてきたりもします。こうした企業活動が"株主"という、"一消費者"でもある人々の利害に捧げられているとしたら、問題はもっと根深いものになります。このからくりはまた改めてお話したいと思います。

遺伝子組み換えジャガイモ、組み換えニンジン、組み換え玉ネギに、留めのクローン牛で、「さ〜、今日はみんなが大好きなカレーよ♪」と、子どもたちを喜ばせる日が永遠に来ませんように。

西蘭みこと

(写真は出雲大社付近の八百屋の店先に山積みになっていたニュージーランド産玉ネギ)