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Vol.0164 「NZ・生活編」 〜3ナイ生活〜

ビデオデッキ、冷蔵庫、ファックス、洗濯機、ルームランプ・・・家の中をざっと見渡しただけでも、何らかの故障があるか、完全に耐用年数を超えている家電製品がどれだけあることか。ビデオデッキは音が出るものの映像が出ないし、冷蔵庫は物を載せるプラスチックの棚に続々とひびが入り、重いものを載せられずにただの巨大な箱にならんとしているし、ファックスは受信こそできても送信ができないという片肺状態。洗濯機は酷使に次ぐ酷使で突然不調になるのを騙し騙し使っています。

買い替えの時機を逸しているのは家電製品ばかりではありません。リネン類はここ1、2年一度も買っていないので、ネコの爪で時々できるシーツのかぎ裂きは見ないことにしています。ソファーの爪とぎ跡も同様です。その他にも、4人家族なのに割ってしまって3枚しかない食器が多数あり、ガラスのコップも客人でもない限り、てんてんばらばらなものを使っています。子供の制服や靴は数もサイズも限界ラインで、スクールバッグもくたびれて色あせており、普通だったら買い換えないと可哀そうなところです。

私に至っては、「最後にまともな服や靴、ハンドバッグを買ったのはいつだったろう?」というほど、カジュアルウェア以外の出費がなくなりました。一生使う覚悟を決めた漢方化粧品に出会ったのを機に、1年半前から完全にノーメークとなり、以前は毎月何万円にもなった化粧品代が、漢方化粧品代以外ほぼゼロになりました。それ以外で個人的に買うものはほとんどなく、忙しさにかまけて今のところ触る時間もないビーズの「大人買い」も、最近ではすっかり鳴りを潜めています。

元々、物を「持たナイ、買わナイ、欲しがらナイ」の"3ナイ"夫は相変わらずのマイペース。TシャツといいYシャツといい、私が洗濯の時に間引かない限り、襟が擦り切れていても綺麗に洗ってあったり、アイロンがけがしてあったりさえすれば、平気で着てしまいます。マレーシアのランカウイやモーリシャスで買ったTシャツをたたみながら、「確か最後に行ったのは98年と99年・・・」と、苦笑いしてしまうほどの物持ちの良さ。後は分厚く頑丈なラグビージャージがあれば事足りています。

このような生活は、"資本主義の権化"、"スーパー消費都市"香港における外国人世帯としては、かなりしみったれたものです。ただし、目的があるので引け目には感じません。その目的とは、すなわちニュージーランド移住です。海外引越を控え、少しでも物を「持たナイ、買わナイ、欲しがらナイ」ことで、この道ン十年の夫の生活信条を図らずも踏襲することになり、家族の中で「3ナイ」が定着してきています。

そうなると、なければないでけっこう済むものです。温の冬服の制服である長ズボンがつんつるてんになってしまったので、仕方なく買いに行こうとしたら、ある香港人ママが珍しくハンドバックを提げている私を目ざとく見つけ、「古着で良ければあるけど」と、声をかけてくれました。彼女の長男はこの9月から中学生になったばかり。さっそくもらってきたら、サイズもピッタリ!温は仲良しのお下がりというのも嬉しかったようで、次の日から履き始めました。善の分も温の古着を詰め、裾上げをしてセーフ!

ほころんで羽が出てくるようになった羽枕を繕い、他の物もゴムを入れ替えたり、ボタンを付け替えたりして延命できるようなら、何でもします。自分の服も何かが気に入らなくてタンスの肥やしになっていたものを引っ張り出し、直せるものはプロに頼んででも直して復活させています。気に入って買った服なので思い通りになれば、それなりに活躍してくれるものです。食品やトイレタリーは買い置きしておいたものや人からのいただき物をせっせと使い、お金の節約と持ち物の圧縮を励行しています。

初めの頃こそ、「今はがまんしても、NZに行ったら、アレを買ってコレを揃えて・・」と、自分を騙し騙し励ましていましたが、今やここまで削って暮らせることに自信と満足を覚えています。どこかで「キウイはパンとサラダで暮らしているのに、立派な家にクルーザー、別荘まで持ってる」と書いてあったのを読みましたが、私の心情はすでにそれに近いものです。好きなこと、自分にとって本当に価値のあることにお金と時間をかけ、他のことは極力シンプルに済ますことが、今の気分にとても合っているのです。

ある読者の方から、キウイのご主人の90歳を目前に他界されたおばあさまの話として、「とっても温かい祖母でした。大きなソファーの中で、スタンドの明かりに照らされた靴下の穴を縫いながら"物は大事に使うんだよ。"と語りかけてくれた笑顔は忘れられません」、というメールをいただいたことがあります。その穏やかで満ち足りた情景はなんと豊かなことでしょう!以来、「3ナイ」生活への自己満足に誇りが加わり、物がないことを前向きに考えながら、日常生活の不ぞろいを愉しむようになりました。

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「マヨネーズ」 生活の見直しは食べ物にまで及び、西蘭家の夕食はお手伝いさんがいた頃より一品減りました。しかし、ちょうど食べ切れる量でもあるので残り物が出なくなり、準備も後片付けも多少は楽になっているはずです。食べ過ぎないことは飽食への戒めになり、理想とされる割にはなかなかできない「腹八分目」の実行にもなります。もちろん、労せずしてダイエットにもなるでしょう。「足りなかったらどうしよう?」という発想を捨て、翌日のお弁当で復活のチャンスがあるもの、煮物やスープ以外は4人分をきっちり作るようにしています。この結果、余った分にラップをかけて冷蔵庫で保存し、けっきょく食べないで数日後に捨てるという悪循環がめっきり減りました。

西蘭みこと