>"
  


Vol.0156 「NZ編」 〜珊瑚と嵐と白いリボン〜

ニュージーランド北島最南端のウェリントンから、車で1時間ほどのフェザーストンに住む6才の女の子、コーラル・エレン・バロウズが行方不明になったのは9月9日のことでした。彼女は8才の兄・ストームとともに、その日の朝、生徒数60人の小学校に、継父の運転する車で送られ、そのまま行方がわからなくなってしまいました。帰りのスクールバスに乗っていなかったのを心配した母親が午後4時に学校を訪ね、彼女が登校していないことがわかって事件が発覚したのです。

同世代の子を持つ親として、遠く香港にいてさえ他人事とは思えず、思わず連日の報道記事をつぶさに読んでしまいました。同時に、「"コーラルとストーム"、"珊瑚と嵐"だなんて、なんて個性的で可愛い名前なんだろう!」と思いました。西洋社会にありがちな聖人たちの名を拝した洗礼名ではなく、大自然からの雄大かつチャーミングな名前には、さぞや両親の思い入れがたくさん詰まっているのでしょう。しかし、そのうちの珊瑚が見当たらなくなってしまったのです。

人口2000人の小さな町で人々の反応は驚くほど迅速でした。同日の午後5時15分には警察の本格的な捜索活動が始まり、町を挙げての大規模捜索が夜中まで続きました。しかし、その日は終日あいにくの大雨で、ヘリコプターの利用に支障がでるほどの悪天候でした。しかも、今の時期は冬の終わりで、夜中には気温は摂氏4度にまで下がります。6才の女の子がいなくなる日としては、最悪でした。ウェリントンから応援の警察官が送り込まれ、捜索に駆けつけた一般市民のボランティアは、警察が振り分けに頭を悩ますほどの人数となりました。しかし、コーラルは見つからず、遺留品さえ発見されませんでした。

牧場ばかりが広がる小さな町で起きた少女失踪事件。舞台設定としては推理小説並みでしたが、筋書きはそれほど緻密なものではなく、捜索が難航している割には早々と容疑者が浮かんでいました。それは継父です。彼はコーラルとストームの二人を学校で下ろしたと主張していましたが、コーラルと一緒だったはずのストームの話(8才ともなれば十分状況が説明できるはず)が一切報じられず、学校関係者、父兄の誰一人としてコーラルを見ていないなど、妙でした。大雨の朝の登校時間であれば、他の父兄も車で子供を送ってきたり、担当の先生が迎えに出ていたりするはずですが、誰もコーラルを目にしていないのです。

警察は当初、継父の名前の公表さえ拒んでいました(後に他の家族同様に公表)、最後にコーラルを目撃した大人として、彼には最初から疑いの目が向けられていたようです。しかも彼は失業中で、麻薬がらみで警察から取り調べを受けてもいました。事件の7週間前には彼とコーラルの母との間に息子・リュークが生まれ、家族には大きな変化が起きていました。報道では、学校に行きたがらないコーラルと継父の間で言い争いがあったとも伝えられています。

継父は事件後、捜索活動に参加していたものの事件発生から2日目の11日に別件逮捕され、筋書きは読めたも同然でした。逮捕はコーラルのスクールバッグが学校から2キロの地点で発見された翌日でした。彼は獄中からコーラルの母である妻に電話を入れ無実を主張し、彼女はそれを信じたそうです。しかし、小さなコーラルは見つからないままでした。その間も、ダムの水位を下げての湖底捜索、当日のコーラルの服装を完全に再現したものの公表、町の人間ばかりか、事件当日にこの町の高速道路を通過したドライバーや町を訪れている観光客への協力の呼びかけなど、懸命な捜索が続けられていました。

こうした中で、コーラルの家族、警察、捜索に加わったボランティアなど、大勢の人が白いリボンをつけていました。これは子供への暴力に対する反対を表したもので、家族がつけ始めたのをきっかけに、あっという間に町中に広がり、多くの人が「コーラルが見つかるまで外さない」と言って、四六時中つけていました。たった6才の、誰からも愛されていた愛くるしい少女が、理不尽な力の前でその姿を消さざるを得なかったこと事態、犯人と理由にかかわらず、許されざることでした。小さな町はコーラルにより一つになり、彼女を知る人も知らない人も手に手を取り合い、見えない暴力に対し立ち上がったのです。

14日にはコーラルの家族が完全に立ち退くかたちで自宅への家宅捜索が行われ、継父への容疑は決定的なものになりました。別件逮捕での拘留期限が目前に迫っていたからです。17日には別件での拘留期間が長引くことになり、警察は大きな賭けに出ました。そして、事件は発生から10日目に当たる19日、最悪の結末を迎えました。ルアマハンガ川の河口近く、釣り人以外訪れる人もいないオノケ湖畔の寂しい場所で、コーラルが発見されたのです。悲しい小さなむくろとなって・・・。(つづく)

<Coral, forever. 写真はNZヘラルド(インターネット版)より>

***********************************************************************************

「マヨネーズ」 今日は新中国建国記念日に当たる国慶節で香港は休日です。その代わり、97年の返還まで祝日だったエリザベス女王の誕生日がなくなりました。返還後の香港は急速に中国化しています。その端的な例が北京語(いわゆる中国語)の習得です。ビジネスの多くが中国相手であることから、先方に合わせて優位に立とうという訳です。香港では方言の広東語が使われているので、イタリア語を話す人がラテン語を習うようなものです。

他にも新移民と言われる、中国からの移住者が彼らのライフスタイルを持ち込んでいることも挙げられます。「本土風味」と銘打った、昔懐かしい庶民的なレストランが多数お目見えしています。こうして両者の文化、経済、生活は血肉のレベルまで一体化し、植民地だった過去は、早くも歴史の一ページにならんとしているようです。

西蘭みこと