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Vol.0143 「NZ・生活編」 〜偉大なる隣人〜

最近、個人的にオーストラリアが気になって仕方ありません。「すわ、移住先変更か?」というような話ではないのですが、なれるかどうかもわからないのに未来のニュージーランド市民として、早くも隣国に関心を寄せ始めたというところでしょうか?私はそもそも、ハワード首相の米中べったりの政策が好きではありませんでした。南半球の主要国として、北半球のルールに囚われない、独自の路線を行って欲しかったし、そうするに足る実力もあると踏んでいたので、あまりにあっさり擦り寄っていく姿には感心していませんでした。

特に今年に入ってからはイラクへの派兵にいち早く名乗りを上げ、あれだけの国内世論の反対を尻目にそれを既成事実化してしまったことには、少なからず失望していました。そのうち、いつ開戦してもおかしくなくなってきた3月初旬、思いもかけないメールを受け取りました。それは「ニュージーランド☆タイムス」管理人のこにしまなぶ氏が発行しているメールマガジン、「ファームレター」でした。

そこで紹介されていた「ミュータント・メッセージ」(マルロ・モーガン著、小沢瑞穂訳、角川文庫)という本は、先住民のアボリジニについての実話で、私に全く新しいオーストラリアの断面を教えてくれました。それまでのアボリジニに対する私の知識と言ったら、@ブーメランで狩をし、A入植してきた白人に追いやられて砂漠の民となり辺境に追いやられ、BNZのマオリのように白人社会と融和する方向ではなく、接点を作らない方向で独自路線をとり、C壁画でも有名なように高度な独自の芸術を持ち、D21世紀を迎えるにあたり政府は彼らとの不幸な過去を清算するために莫大な保障金を支払ったと、そのすべてを書き出せるほどわずかなものでした。

ところが、メルマガの中で紹介されている彼らは人間同士でテレパシーの交信ができ、私たちが認識している人類の中で最も高度な能力を備えているのではないだろうかと思われる予期せぬ人々でした。彼らは自らが望むように、非常に神に近いところで心豊かに暮らしているようなのです。物質的な貧しさは、彼らが欲していない以上、勝手に「貧困」というレッテルを貼ること自体が傲慢なことだということもわかりました。「こんな人たちが地球上に存在するなんて!」、私はメルマガを読み終わり、"大変なことを知ってしまった"というより、"大変なことを知らなかった"自分に気がつきました。

4月に日本へ行くやいなや真っ先にこの本を買い求め、同じ著者によるもう一冊の「永遠からのメッセージ」も手に入れました。いずれも目からうろこどころか、開眼と言いたいほど感動するものでした。オーストラリアにはなんて素晴らしい民族がいるのか!そして、その素晴らしさのどれほど多くがすでに失われてしまったのか!それを知れば知るほど愕然とする思いでした。「ミュータント・メッセージ」に出てくる「真実の人」族はすでに子孫を残さないことに決めてしまい、「最年少の仲間が絶えるときが、この生粋部族の最期となるだろう」と言明しており、この広い宇宙でどこか他の場所へ移る意向のようです。この本については「ファームレター」が余すところなくその魅力を伝えているので、ぜひそちらをご参照ください。「永遠からのメッセージ」については、いつか改めてお話したいと思います。

6月には、オーストラリア映画「裸足の1500マイル」を観ました。これもアボリジニの話で、白人との混血児を誘拐同然でアボリジニから隔離し、白人と婚姻させることで色の黒い子が増えることを防ぎ、何世代もかけて肌の黒さを白人と見まごうほど白くしていこうという途方もない計画に関する実話です。内容は隔離施設を脱走した3人の女の子が1500マイル(2,400キロ!)を歩いて故郷に帰るという壮絶なもので、途中で容赦ない追っ手が何度も迫り、灼熱の砂漠を歩き、一人が騙されて二人とはぐれるなど悲惨な思いをし、最後にとうとう母親の元に帰りつくというストーリーです。

英語の原題は「ラビット・プルーフ・フェンス」で、かつてオーストラリアには中国の「万里の長城」のような国土を縦横に走る野ウサギ用のフェンスがあったのです。太陽の位置以外、故郷の方角を知るよしもない彼女たちはこのフェンスに沿って逃げたのです。それに気づいた追っ手は、「石器時代の暮らしをしているわりには頭がいいな」と言い切って先回りをし、懸賞金までかけたものの、少女の機転に振り回されて捕まえることができません。とうとうフェンスは砂漠を前にして消え入るように途絶え、追っ手さえもそこでは引き返し、映像はその先が人間の立ちいらない場所であることを雄弁に物語っていました。

しかし、彼女たちは地図にも描かれないその中に、一滴の水も持たないまま入っていくのです。映画の最後に、逃げおおせてすでに老人となった二人の様子が写し出されていましたが、屈託のない笑顔に救われる思いでした。観終わった後、自分の知らないことの大きさと深さに茫然としながら、暗い映画館の中で、いつまでも流れ続ける製作者のテロップを飽きずに眺めていました。NZのマオリは時期の早晩はあるものの、他所からやってきた移住者である点において白人たちと状況は同じですが、アボリジニの場合は当初からそこにいた本当の意味での原住民だったわけで、状況はかなり違っているようです。遅まきながら、今からでもこの偉大な隣人たちのことを真剣に学ぼうと思っています。(つづく)

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「マヨネーズ」 香港に戻り、本格的に主婦業を始めて2週間が経ちました。日本で予行演習をしてきたので、「まぁ、なんとかなるだろう」と思っていましたが、実際は予想以上にきつかったです。ちょうど新しい会社に転職して、仕事の内容はわかっているものの、周りの状況が飲み込めないというようなところでしょうか?しかも前任者(私の場合は家事のプロであるお手伝いさん)と比較され、状況はかなり不利です。母親業で点数を稼がねば。

西蘭みこと