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Vol.0115 「生活編」 〜日本専業主婦稼業〜

4月末に、勤めていた証券会社を退職しました。これは私にとって16年にわたった勤め人生活が終わったことを意味し、もう二度とサラリーママに戻ることはないでしょう。後戻りがないのはメルマガ〜ママの言い訳〜(昨年11月13日配信)が本音だからです。もちろん、実際の退職理由は子供たちへの新型肺炎の感染を回避するための日本滞在です。理由はともあれ職を辞すことに迷いはありませんでした。思いあぐねていても、一度たりとも踏み切れなかったことだけに、とうとうその時が来たことを悟りました。

さて、生涯初めての専業主婦となってまず最初に思ったことは、「収入がない」ということです。当たり前のことですが、経験してみてその現実を思い知りました。「専業主婦なんだからまず家計簿をつけなくちゃ・・・」と、いそいそと買い込んできたブ厚い家計簿は、一行目が「日付」、二行目が「収入」で、三行目が「繰り越し」、四行目が「銀行引き出し」と、企業の損益計算書同様にまずは収入項目からとなっています。それに「食費」、「その他の支出」と支出項目が続きます。

これをつけ始めて丸3週間たちましたが、1日たりとも「収入」に数字が書き込まれたことはなく、入ってくるのは「銀行引き出し」ばかりです。しかし、これとて単なる錯覚。使うために引き出している自己資金ですから収入とは似て非なるもの。このまま行けば、いくら経っても銀行の口座にお金が振り込まれることはありませんので、宝くじにでも当たるか、拾うかでもしない限り、「収入」に数字が書き込まれることはなさそうです。

私の退職で西蘭家の収入はほぼ半減しました。「この不景気の中、何も辞めなくても・・・」というのが、ごく一般的な考え方でしょう。言葉にはならなくても「職場放棄と同様で無責任」という批判もあるかもしれません。前者に関しては、確かにお金は大切で、世帯収入が半分になるということは頭で理解している以上に後からズシリと来るものかもしれませんが、長い間の夢がかなった喜びは、収入がなくなることへの不安をはるかに凌いでいます。ここまで未練がないことには、本人もいささか驚いています。(後者に関する批判は甘んじて受けるつもりです)

収入がない以上、主婦は支出に全身全霊を傾けることになります。少しでもムダをせず、徹底的に効率良くやりくりすることで家計を黒字に保ち、なおかつ無理をしないようにやっていかなくてはならないのです。家計では赤字を国債発行で補うなどという裏ワザはありませんから、予算が大きかろうが小さかろうが、収入を上回る出費は何があってもご法度です。予算内で最大効率を目指すことは、私にとって大きな発想の転換でした。

今までは3月配信の〜タイムレバレッジ〜にも書いたように、時間をお金で買い、住み込みのお手伝いさんに頼り、自分が子供にしてあげたくても時間的に無理なことも、日本語の先生なり、サマーキャンプなり、お金で片をつけざるを得ませんでした。ですから、「何でも自分で、できたらタダで・・・」という今の発想は、180度の方針転換です。しかし、私は元来、手作りや自給自足的なものに強く憧れており、それを厭わない性格な上、日本での大学生時代とそれに続く海外留学中の、お金はなくとも完全に自活していた経験から、方針の切り替えは非常にスムーズでした。要は、"むかしとった杵柄"なのです。

さっそく、近所の「古本の100円ショップ」で子供が寝る前に読んであげる本をまとめて買ってきました。聞けば、古本は条件が良ければ一律20円で引き取ってくれるそう。ということは読み終わって売り戻せば、実質コストは一冊80円。「これなら親子でバス代や電車賃をかけて図書館に行くより安い!」と思っていたら、徒歩圏内に児童図書館があるのを発見してさっそくそちらに切り替えました。タダに勝るものはなし。しかも貸し出し期限に合わせて、読む量が増えそうで一石二鳥です。

食費も料理を人任せにしていた時の何分の1かに減ったものの、満足度は自己満足も含めれば何倍にもなります。私が毎日キッチンに立つので、長男・温が料理に興味を示し出し、もうすぐ始まる初めてのクラブ活動では、「料理クラブ」に申し込んだそうです。誘った友だちも申し込んでくれたものの、男子は彼ら二人だけであとは全員女子だそうです。でも本人はそのアンバランスを意に介している風でもなく、サンドイッチを作ったり、包丁で芋を切ったりと予習に余念がありません。このまま行ってくれれば、いつか「ビストロSMAP」ならぬ、自宅での「ビストロON」も夢ではないかも。「オォォダァァ〜♪」、とか?

今は時間を切り売りして得る収入よりも、自分の時間を100%好きなように使う贅沢を心から楽しんでいます。スタートが遅い分、これからの専業主婦稼業には大きな期待を寄せています。社会に出てから大学で学び直す人の目標や意志が、高校から直接進学してきた普通の大学生よりも、往々により明確で高いものであるように、今の私は主婦としてしたいこと、自分に欠けていることがはっきりとわかります。そういう意味では心の中で子供たちに謝りつづけた敗北の日々も、そうそう無駄ではなかったのかもしれません。

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「マヨネーズ」 ある100円ショップに行ったら、「100円生活」というポスターが張ってあり、「これは今の私たち!」と、思わず吹き出してしまいました。旅行がてらに日本に来たので、着替え以外ほとんど何も持っておらず、子供の文房具はもちろん、雨傘、ハンカチ、爪切り、鉛筆削り(ちゃんと手で回すタイプ)、子供用の食器、遠足用品、タオル、靴ひもなどなど、本当に100円ショップのお世話になってます。日本を離れる時に家計簿をめくって、何品買ったかを数えてみるのが今から楽しみ♪

西蘭みこと