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このメルマガが配信される頃には私たちは日本にいます。"謎の肺炎"の蔓延が深刻な上、子供たちの学校が今月21日まで休校となってしまったためです。そのため、残念ですがしばらく「西蘭花通信」はお休みして、旅行に行ってきます。ワールドサービスでの「ミニ西蘭花通信」は継続しますので、よろしくお願いします。肺炎は蔓延の兆しが強まっていますので、皆様におかれましてもくれぐれもご自愛下さい。

西蘭みこと

Vol.0112 「NZ・生活編」 〜聖地の木〜

「ブティックばっかりある街だなぁ」。初めてやってきた北の街ワンガレイの第一印象はそんな感じでした。人口5万人弱ですが、周辺の町に比べれば格段に大きな街で、ここにみんなが日用品以上の物を買いに来るのかもしれません。周りの町はどこもスーパー、コンビニを兼ねたガソリンスタンド、レンタルビデオ屋がそれぞれ1軒ずつ、あとはテイクアウェイが数軒といった、一本の通りにすべてが収まるような小さい町ばかりで、洋服どころか物を売っている店というものをほとんど見かけませんでした。

町の中心部には花が咲き乱れる遊歩道を中心にカフェやショッピングモールが軒を連ね、ウィンドウショッピングを楽しむ人たちがそぞろ歩いています。お昼を食べ損ねていた私たちは適当なカフェのテラスに席をとり、遅いランチをとりました。私はベジタリアン・ラップ。夫はベジタリアン・カレー、息子たちはベジタリアン・サモサに中華風チキンソテーという、徹底的なエスニックメニューながらどれも美味しいこと、美味しいこと。おなかが空ききった時に意外な場所での意外な美味しさに、全員が大満足。食後のカフェラテも最初からダブルという完璧さ。言葉を交わしたお店の人もとても感じがよく、「いい店を見つけたね」と感激しながら、私たちは一路、更に北のカイタイアに向かいました。

その2日後。私たちは南下途中にまた同じカフェに立ち寄りました。あの美味しいランチとコーヒーを逃す手はありません。メニューのほとんどは日替わりらしく前回とかなり違うものが並ぶショーケースをのぞきこみながらオーダーを済ませ、そのついでに「おとといもここでご馳走になったんですけど」と、笑顔がとても優しい中年女性に声をかけると、「ええ、覚えていますとも」と、温かく応えてくれました。

外のテラスで前回と同じように食後のコーヒーを飲んでいると、食器を下げにきた先ほどの彼女が話しかけてきました。「日本人ですか?」「ええ、香港からですけど」と、いつもの調子の会話。ところがそこからは話の向きがちょっと違いました。彼女は「日本に行ったことがありますよ。イセに行きました」と言ったのです。「イセってあの有名な神社のある、あのイセ?」と訪ねると、彼女はにっこりしながら「ええ、伊勢神宮です」と言うではないですか。外国人観光客が名所旧跡に行くのは珍しくないでしょうが、初めてだったら京都か箱根か・・・と、ステレオタイプに考えていたので、伊勢は意外で驚きました。

しかも、伊勢は私たち自身がこの5年間毎年お参りに行くようになり、すっかり魅入られている場所です。ですから余計嬉しくもありました。彼女はジャズミュージシャンであるご主人が親しくしている尺八奏者の友人が名古屋にいて、彼を訪ねて行った時に伊勢に案内されたという経緯を説明してくれました。私たちが毎年参拝していることを告げると、とても喜んでくれ、「素晴らしいところだわ。あの木立ときたら。木を見ただけで涙が出たわ」と、本当に心の襞が揺れ動いていたであろうことを、率直に語ってくれました。

「あの長い橋を覚えている?五十鈴川を渡るたびに"別世界に入ったな"って感じるの。どうしてかしらね?"sanctuary"なのかしら?」と私が言うと、「そうね、あれこそが"holy place"なのね。外国人の私にでさえ、人々がそこを神聖な場所だと長い間信じてきているってことが良くわかったわ」と応えてくれました。"sanctuary"よりも"holy place"の方が聖なる意味合いが強いのか?と、漠然と思いながら、南半球の遠い地からやってきた西洋人女性が境内の千年杉を見上げながら涙する姿を思い浮かべると、不思議ながらも説明できない親しみを感じました。

知らない同士でも魂に触れる物の前では共振できる・・・。そう思うと、住んでいる場所も外見も生活習慣も年齢も、何もかもが違うはずのペギーという名の彼女が、とても身近で、たった今出合った人とは思えないほど親しく感じられ、見詰め合ったお互いの間を何か温かいものが行き交うかのようでした。

今度は私たちが彼女を驚かす番です。「あのね、ペギー。私たちはNZに移住しようと思ってるの。この旅行が終わったら申請するつもりなのよ」と言うと、「素晴らしいじゃない!歓迎するわ。子供たちにとってきっといいことだと思うわよ」と、ペギーは諸手を挙げて喜んでくれました。お互い電子メールのアドレスを交換し、「移住してきたら、絶対訪ねてくるから」、「待ってるわよ」と挨拶を交わし、私たちは名残惜しくペギーの店、「ビレッジ・デリ」を後にパイヒアへ向かいました。

今年もまた、太古の風が吹く伊勢神宮にお参りに行きます。こうして再び参拝できることに感謝しながら、これからの1年の家内安全と無病息災を祈願してこようと思います。そして1日でも早い戦争の終結を祈ってきます。めがねの奥の目が本当に柔和で優しかったペギーには、美しい音のする鈴が付いたお守りを送って出会えたことへの感謝の印としましょう。「もう移住申請しました」という近況報告を添えて・・・。

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「マヨネーズ」 毎年伊勢に行くと言うと、「神道だったの?」と、暗に"右翼?"という訝しげな表情を浮かべる人、「修学旅行で行ったきりだなぁ」と、名所旧跡の一つとして懐かしそうな人、「どこだっけ?何県?」という無縁の人、とだいたい3種類の反応があります。私たちの参拝に宗教的な意味合いはまったくなく、日本神話以上の知識もありませんが、あの五十鈴川を渡った後の空気が変わるような印象と気持ちの落ち着きは何度行っても不可思議で、否が応でも聖なるものを感じてしまいます。あえて言えばあの土地や巨木自体が持つ自然の力なのでしょうか?あとは「すし久」のてこね寿司と「赤福」の威力か? 

西蘭みこと