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Vol.0101 「経済編」 〜ハイパーインフレがやってくる〜

日本はかれこれ9年(途中例外はありますが)、香港は5年、物価が下がり続けるデフレに陥っています。その前は長い間どちらも景気が良かったので、「物は常に値上がりしていくもので、世の中にはインフレしかない」と錯覚されていました。だからデフレというものが頭の中ではわかっていても感覚的に理解できず、「安くなった不動産に飛びついて念願のマイホームを買ったら、もっと値下がりしてしまった」という話が、デフレの最初の頃あちこちで聞かれたのも仕方のないことでした。

インフレの時には値段が上がっていくのですから、安い時に買いだめしておくのは賢明な生活防衛となりますが、デフレでは現金に優るものはありません。物は値下がりというかたちで価値を失っていくので、たくさん持っていたり、株や不動産などインフレ便乗型の投資をすることは、デフレの際にはより高いリスクを負っていることになります。値段が上がる可能性より下がる可能性の方が高い時なわけですから、自分が投資目的で買ったものがズルズルと値下がりしても不思議ではありません。だから安く見えても、"買う必要があるかどうか"をつきつめて考えてみる必要があるでしょう。

ところが、ここまでどっぷりデフレに浸ってしまうと、今度は「値上がりする」という感覚がわかっているようで、案外わからなくなってきています。ちょっとしたものは100円ショップで揃ってしまうし、衣料品も昨今のカジュアル主流の中では高級なスーツよりも、安くても今っぽいトレンドにあった服の方が気が利いています。食べる物も知らず知らずのうちに結構安くなっています。買いだめの習慣もなくなり、必要な物を必要な時に買って、個人も企業も"在庫"を持たない傾向が定着してきていることでしょう。

物が売れない→値下げして売る→利益が出ない(もしくは損をする)→経営合理化→失業→消費が低迷する→最初に戻る・・・と、不景気は連綿と続いていきます。しかし、物が安くなったことは景気の悪化を反映しているばかりではなく、私達が生活必需品のかなりのもので「中国製」を受け入れるようになったことも大きいと思います。100円ショップもユニクロも、みんなが「中国製」を躊躇なく買うことで初めて成り立つビジネスモデルです。「少し高くてもやっぱり日本製じゃなくちゃ」と言う人が大多数いては成り立ちません。

100円ショップが全商品を100円で売るためには、当然、それ以下の値段で仕入れなければなりませんが、中国はその一大供給元です。確かに人件費が日本の何十分の一、広大な土地でメーカーは進出し放題、しかも今は国を挙げて外資誘致に熱心と、条件は揃っています。その上、中国そのものがデフレなので、経済成長率8%という経済先進国には気の遠くなるような高度成長を遂げ、好景気の真っ最中のはずなのに物価が下がり続けているという、願ってもない経済状況!安く作れば懐の温かい中国人さえ大挙して買ってくれるかもしれません(ホンダの車がそのいい例ですが)。その結果、不景気の中でも物を作り、売っていかなくてはいけない世界中の人たちが夢のような中国に集まってきました。

しかし、その夢はそろそろ覚めてきそうです。いろいろな要因があるでしょが、一番わかりやすいのは戦争懸念による原油高です。中国は産油国ですがとっくに石油の純輸入国に転落しており、供給が需要に追いついていません。ですから国際市場での原油高騰はすぐに響いてきます。中国の十八番であるオモチャ、生活雑貨、繊維といったものは石油化学製品をふんだんに使っていますので、原油の値上がりは直に効いてきます。原油だけでなく、在庫が手薄になっているこの時期に、金や石炭などありとあらゆる天然資源が軒並み値上がりしています。それらを加工して製品を作るわけですから価格が反転してくるのは時間の問題でしょう。いくら安い人件費を誇っても原材料の値上がり分を吸収することはできません。

ある日、100円ショップに行ってみたら、「120円ショップになっていた!」ということは十分ありえます。これだけで20%のインフレです!1000円の衣料品がどんどんチャチなものになっていく可能性も高いでしょう。電化製品や食品など消費者がそれを「中国製」だと意識していないものでも、値上がりの重みがジワッと反映してくることになるかもしれません。もちろん状況は資源のない製造国、日本にとっても同じでしょうが。これで電力料金でも値上がりし出せば、影響は生活全般、津々浦々に及んできます。

「ハイパーインフレがやってくる」、最近は大好きな下町、ワンチャイのアウトレットに出かけるたびにそう思います。アウトレットですから正式な店よりもはるかに安く買えるのですが、やはり景気を反映して値段は上下します。「ここまで細かい刺繍があってこの値段」、「カシミア100%でこの値段」と、細かく見ていくうちにだんだん現実との価格ギャップを感じてくるようになりました。一消費者としては割安感が募ってウレシイのですが、激安Tシャツの背後に忍び寄るインフレの影が非常に気になり始めました。「そろそろ頭を切り替えなくちゃ」と思いながら、まずはGAPの新着タンクトップを450円でゲット!

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「マヨネーズ」 ニュージーランドでこざっぱり生きようと思っている身なので、「インフレ前に是非、買っておこう!」というものはほとんどありません。あえて言えば、ビーズ刺繍が美しいイブニングドレスを「着る機会がなくても観賞用に持っていたいな〜」と思う程度。同じくびっしりと縫い付けたビーズで覆われたビーズバックも。フォーマルなものからインスタントラーメンの出前一丁やタバコのマルボロのパッケージをそのままビーズで描いたキッチュなものもあり、何千、ひょっとしたら何万個というビーズの手縫いで、一つ2000円前後という値段。やっぱり何かヘン!どちらも生活防衛とは無縁のアイテムです。

西蘭みこと