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Vol.0098 「生活編」 〜贈る言葉〜

「ママ、これどうしても見つからないよ〜」と言って、子供たちが持ってきたものはポケモンのジグゾーパズルでした。ニュージーランド旅行直前の慌しい時に、子供たちは母親に言われて5〜6種類のジグゾーパズルをやらされていました。最近は二人とも大きくなり、一時はさんざん遊んだジグゾーをやることもなく、床にピースを広げながら小さいからだをうずくまらせている姿も久しく見なくなっていました。彼らは出番の少なくなったお古をNZに持って行こうとする母親のために、ばらばらのピースを確認していたのです。

贈る先は移住の師、レディーD宅でした。いくらメールでのやり取りがあるとは言え、一度もお目にかかったことも、電話でお話しすらしたことのない先にいきなりピースのかけたジグゾーを持ち込むというのは、かなり常識に欠ける私にとっても一つの賭けでした。「ありがとう」と受け取ってもらえたとしても、内心で「初対面でこんな物を持ってくるなんて」となるか、「子供たちにちょうど良かったわ」となるかは、まったくわかりません。ただ、メールで培った想いを頼りに、私は確信犯で後者に賭けることにしました。

もちろん、お古など持っていかずに、無難な菓子折りのお土産でまとめるという手もありましたが、私は敢えてそれを選びませんでした。一生のお付き合いになるかもしれない先に対し、伝わらないリスクがあったとしても特別な想いを伝えてみたかったのです。子供たちがさんざん遊んだジグゾーや古本には、「初めまして。これからは是非、こういうものをやり取りできるほどお近づきになりたいのです。どうぞよろしく」という、私にしかわからない個人的なメッセージがこめられていました。

これに比べれば、子供たちはもっと単純明快でした。旅行中に一緒に遊べそうな子供がいるというのはまったくの朗報で、そのための小道具となるおもちゃを用意するのは非常に理に適ったことでした。普段からお下がりや、譲ってもらったりフリーマーケットで見つけたりした中古品に慣れ親しんでいる彼らにとって、自分達が使った物を人に回すのはしごく当然でした。普段からそうしているので、それが会ったこともないNZの子供たち向けであっても何ら疑問はないのです。ですから、二人ともママの手伝いに励みました。

プレゼントにはいつもメッセージがこめられていると思います。「お誕生日おめでとう」というだけでなく、「欲しがってたコレ見つけといたよ」とか、「コレで新しいことに挑戦してね」というように。普段のお土産やちょっとした付け届けにも「お世話になってます」以上に、「確かこれがお好きと記憶してますが」、「手作りですがお気に召せば」とプラスアルファの想いをこめるようにしています。いただく立場の時でも、メッセージが解読できた時の喜びはひとしおです。ですから、一人よがりは十分承知の上で、何かを贈る時はいつもそれぞれに「贈る言葉」をこめることにしています。

それを教えてくれたのは大学の後輩でした。彼女はご主人のロンドン赴任が決まった際、ゴミ規制が厳しい日本で手持ちのものを一気に処分しなければならなくなり、出発までにいくどとなく夜中に夫婦で車を走らせ、翌日にゴミの収集がありそうな地域を探してはこっそり捨ててきたそうです。「もう二度と物は買わずにシンプルライフを目指します。子供たちが好きだったものを送ります」という手紙とともに送られてきた小包には、たくさんの本や「しまじろう」のカスタネット、スーパーマリオの本型になった時計など、子供向けの物がぎっしり詰まっていました。

受け取った時は、海外引越し前の忙しい時にわざわざ高い送料をかけてまで香港へ重い本を送ってくれた彼女にびっくりしながらも、感謝の気持ちでいっぱいでした。しかし、その気持ちは数年たっても薄れることはありませんでした。贈られた本はどれも私達の知らないものばかりでしたが、その後、子供たちがどれほどそれらの本にハマッたことか。何十回も読んだ本もあれば、同じシリーズを日本に帰った時に買い揃えたものもあり、彼女のメッセージは西蘭親子にしっかりと伝わりました。

そのうち子供たちはいただいた品を卒業してしまいましたが、私は彼女から学んだ「贈る言葉」を、自分でも話そうと思うようになりました。言葉ですから通じる時もあれば、通じない相手もいます。そして今回のNZ行きでの小さな賭け。レディーDの応えは、「他人様のお子さんがすくすくと育つ過程で使われたオモチャや本などを譲っていただけるのは、有り難いことです」というものでしたが、ここまででは言葉が通じたかどうか判然としません。

しかし、それに続く部分には「ピースの欠けたジグゾーなどが(中略)、他人様に譲るには躊躇われる品々であるのは私も感じることです。しかし、そこはその<他人様次第>、ですよねー。だからみことさんも"賭け"に出られた。そして私は大感謝。譲渡品は手にすると、前所有者の愛着と思い出がほんわか伝わって心が温かくなります。(私たち親子を想って譲ってくれる人がいるんだね)」と、通じた手応えがありました。その通り。私達一家は遠い空の下にいるレディーD一家を、彼らが暮すNZをいつも心に想っています。

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西蘭みこと