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おかげさまで「西蘭花通信」は1周年を迎えました。

昨年1月18日配信の〜100年の大計〜から始まった「西蘭花通信」は、今回の91号をもちまして1周年を迎えました。これもひとえに読者の皆様のおかげです。この場をもちまして厚くお礼を申し上げます。

初回の「マヨネーズ」で書いた、"これは西蘭家がニュージーランドに旅立つその日までのドキュメントで、一つの夢をかたちにしていくための実験の記録であり、私にとっては確実に生きた時間の証となることでしょう。目にされた方が、「こんな人もいるのか〜」と思ってくだされば幸いです。そして皆様が改めて自分の夢に思いを巡らせて下されば、私にとってとても喜ばしいことです"という気持ちは今でも変わりません。改めて初心に戻り、「来るその日まで」を楽しく、一生懸命にやって行こうと思っておりますので、今しばらくお付き合い下さい。

最後に。メルマガの配信に限らず、IT音痴の妻のためにホームページの管理全般を文句一つ言わずに引き受け、今日まで続けてくれている夫に感謝します。

西蘭みこと

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Vol.0091 「NZ編」 〜「隣の芝生」斉藤完治さん〜

突然始まる新企画「隣の芝生」シリーズ!隣の芝生とは永遠に青いもののようですが、その羨望と「いつか自分もご近所に♪」という願いを込めてお送りする新シリーズです。この企画はすでにNZにお住まいで、感銘を受けた方をランダムにご紹介していくものです。面識のある方、ない方それぞれですが、ほとんどはお目にかかったことはなく、ホームページを開設してからご連絡を取り合うようになった方かメディアで知った方が中心になると思います。書いている本人も場当たり的なら、企画そのものも出たとこ勝負、さてどなたが飛び出すか!お楽しみに♪

初回を飾るのは、ニュージーランドの太公望、斉藤完治さんです。この企画を思いついて以来、「是非、初回はこの方に!」と心に決めていましたが、それから早半年。なんだかんだと書くことがあって、なかなかシリーズがスタートしないうちに年を越してしまいました。私は斉藤さんと一面識もありませんし、メールをお送りしたこともありません。彼の存在を知ったのは一冊の本でした。

毎年日本に帰国するたびに神田の人間ドックに行き、その帰りに本をまとめ買いするのが西蘭家の慣わしですが、昨年帰国した際、三省堂の「海外コーナー」に並んでいたNZ関連の本は、ガイドブックを除いたら斉藤さんの「巨大鱒に魅入られてニュージーランド暮らし」(つり人社)、1冊のみでした。一昨年は5、6冊買ったはずなのでずい分と少なくなったのか、売り切れ気味なのか?「NZ関連の本は何でも買おう」と決めていたので、釣りの"つ"の字さえ縁はないのですが迷わず買ってきました。

いざ読み始めると面白いのなんの。一晩で読んでしまいました。でも、「ヘッドのところに糸が巻いてあるから、ここが最後だろう。となるとティルから巻き、次にボディー、そしてウイング、ハックルか」とか、「フライをニンフに付け替え、キャストを繰り出す。しかし、やはり釣れない」などという話が続き、釣りは釣りざおと釣り糸、浮きと餌でやるものだと思っていた私はびっくり仰天!まるでコンピュータ関連の本でも読んでいるようにカタカナのオンパレードなのです。すぐにわかったのはリールくらいで、「チリチリ巻く、アレだよね?」と、見知らぬ土地で顔見知りを見つけたようにホッとしました。

そのうちいくら何でも「ロッド」はさお、「ライン」が糸とわかってきましたが、結局、最後まで肝心な釣りの部分の醍醐味は、ぼんや〜りと判るような判らないようなままでした。それでも私はこの本を今まで読んだNZ関連本のベスト3、日本語の本ではベスト1に挙げたいと思います。斉藤さんのキャラ、発想、知恵、ユーモア、聡明さはもとより、地にしっかりと足が付いた最上級の生活者としての存在に圧倒されました。それがNZという自給自足度の高い社会にぴったりと解けこんで、とてつもない説得力をもって迫ってくるのです。

斉藤さんは北海道の大学時代に釣りにはまり7年かけて卒業した後、上京してコピーライターになりました。私は斉藤さんより3歳年下なので、多分同じ年に大学を卒業したようです。あの頃のコピーライターは広告業界の「カタカナ職業」(いまや死語ですね)の中でも花形で、飛ぶ鳥を落とす勢いでした。林真理子氏もまだ作家ではなくコピーライターをしていた頃で、糸井重里氏、魚住勉氏など巨星が瞬いていた時期です。

数年後の86年に、言ってみれば「リフレッシュ休暇」(これも死語)で、「ニュージーランドに釣りに出かけ、そのまま帰らぬ人?となる」(ご本人の弁)。NZに渡ってからは釣って釣って釣りまくる毎日だったのですが、永住権を取れば「もう少しここで魚を釣っていられる」というところに魅かれ、書類を揃えて"釣りライター"という触れ込みで申請したら、あっさり認められて永遠に釣りができるキウイのご身分に!のんびりとした80年代のお話なので、申請一つをとっても今とはずい分状況が違うようですが、とってしまえばこっちのもの。

その後斉藤さんは、ほとんど"偶然に"釣りガイドとしてデビューを果たし、それがそのまま本職となりました。そして紆余曲折を経ながら10年もツランギを中心にプロの釣りガイドとしてご活躍なさった後、「自分の釣りがしたくて」97年にあっさり廃業されました。本の3分の2は釣りガイドになってからのお話ですが、釣りのド素人でも十分楽しめます。というのも、斉藤さんは一種の狂言回しの存在で、主役は丸太のように大きなNZの鱒たち。その脇をガイドを務めた十人十色の日本人客たちがいろいろなエピソードを引っさげて、しっかり固めてくれています。隣人としては最高の方とお見受けしました。 (つづく。次回は気になる移住申請のエピソードをお送りします)

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「マヨネーズ」  前にキウイと婚約している読者の方が、「婚約者が銀行を辞めて釣りガイドになると言っている!」というメールをいただき、とっさに斉藤さんのことを思い出して「釣りガイドの妻になるんだったら、一読された方がいい本を持ってます」と返事を送ると、「できる限り彼の気持ちを尊重したいと思いますが、釣りガイドだけは阻止するつもりです」という返事が戻ってきました。

太公望たちののめり込み具合は、他の"趣味"と呼ぶものとは桁違いのようです。新婚からこれだったら大変だろうな〜とお察しします。しかも楽しんでいるのか苦しんでいるのは素人目には判断不可能な場面も多々あり、釣りは修行であり信仰であり、哲学でも人生そのものでもあるようです。ということは、魚は神様?

西蘭みこと