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Vol.0090 「NZ編」 〜蜘蛛の糸〜

1月9日の新聞の片隅に、鮮やかな赤いジャケットを着た女の子が、砂浜のクジラに寝そべっている写真を見つけました。最初は遊んでいるのかと思いましたが、「水の中でもないのに・・」と思って、キャプションを読んでみると、これはニュージーランドのスチュアート島に大量に打ち上げられたクジラの大群の写真だったのです。6歳くらい女の子は自分の身の丈よりはるかに大きい子供のクジラによじ登り、耳を押しあててクジラが生きているかどうかを確認しているところでした。

慌てて「ニュージーランド・ヘラルド」(インターネット版)に行ってみると、前日の8日昼頃、NZ最南端のスチュアート島に159頭のゴンドウクジラ(体長約5メートル)が打ち上げられ、自然保護局職員やボランティア80人が、濡らしたシーツや海水をかけて救助にあたったとのことでした(日本の新聞でも関連記事を読みました)。クジラを少しでも日差しと乾燥から守るよう懸命な努力が続けられましたが、ほとんどは発見時にすでに息がなかったそうです。結局、救助された39頭のみが満潮となった夜7時に海に帰されました。

同じ日の「ヘラルド」には「NZが150人の難民受け入れ」 という記事も並んでいました。彼らはほとんどがアフガニスタンやイラクからの難民で、すでに国連の難民認定を受けているため不法移民ではなく、2週間以内にオークランドの関連施設で保護されることになりました。NZ政府は年間750人の難民受け入れ枠を設けており、今回はその枠内での受け入れとなります。

彼らはすでにパプアニューギニアとナウル島に1年以上滞在していますが、これはオーストラリアが増え続ける不法ボートピープルの受け入れに苦慮し、入国を拒否する代わりに周辺諸国との取り決めでこうした人々を保護する施設を海洋諸国に設けたため、そこに収容されていたからです。この条約は2001年8月にノルウェーの貨物船タンパ号がオーストラリア沖で沈没しかけている船から不法移民433人を救出した有名な事件の後、オーストラリア政府がタンパ号の自国海域への進入を拒んだことに端を発しています。

難民受け入れに対し野党は、「オーストラリアが拒否した難民をNZが受け入れれば移民政策の甘い国という印象を持たれる」と懸念を表明しています。NZはタンパ号の難民を2001年に131人、2002年には10人受け入れている上、他にもナウル島などで保護されていた難民126人を受け入れています。同じ枠内で地球温暖化による海面上昇で亡国の危機に瀕している小国ツバルからも、年間80人の受け入れを決定していますが(詳しくは「ミニ西蘭花通信」〜地球上から最初に消える国〜ご参照下さい)、野党はこの難民枠を500人に縮小するよう主張しています。

750人が多過ぎ、500人が適当かどうかの判断は私にはつきかねますが、750人は昨年1年間の移民純増分3万8,000人のちょうど2%、全人口の0.02%です。日本で考えれば毎年2万人強を受け入れている計算になり、かなり積極的にも思えますが、移民の国としては適正な水準ではないかと思っています。祖国を捨てざるを得ない状態の中で危険を冒してボートピープルなった難民たちを暖かく受け入れ、生きていくことへの懸命な努力に敬意を払い、人生を立て直すことに場所と力を貸すことに対し、納税という方法でかかわれるとしたら、私はそれを羨ましく思います。

私達の移住が成功した際には、自分達の生活もこうした難民達の暮らしとどこかで交差することになるのでしょう。仮に自分が納税者という立場でわずかながらでも彼らに貢献できるのであれば、それを誇りに思います。そして、彼らがなぜここで暮らしていかなくてはならないのかを、子供たちと話し合っていくことでしょう。NZという国に生活の場を与えられた者同士、入ってきた方法の違いなどという些細なことを越え、肩を並べて生きていきたいと思います。

クジラも難民も自分も、この懐深い国にたどり着いたことで新しいチャンスを与えられるのです。チャンスを活かすか殺すかは本人次第でしょう。それは目に前にスルスルと下りてきた「蜘蛛の糸」です。自分だけ這い上がろうとして「糸が切れる」と、後から続く者を蹴落とした者の報いがいつもあの話の通りになるのかどうかはわかりませんが、私自身は差し伸べられた一縷の糸に感謝し、その"偶然"という名の"意思"に報いるべく、精一杯の高みを目指して上っていこうと思います。

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「マヨネーズ」  オーストラリアの名誉のために一言。彼らは周辺諸国の保護施設にすでに1億3,160万NZドルを投じており、収容されている亡命希望者は1,575人に上っています(半数は難民認定済み)。施設からの難民受け入れ人数は昨年11月現在で、オーストラリアが312人、NZが202人、スウェーデンが14人で、オーストラリアの貢献は最大です。

在NZの日本人の間でも難民受け入れに関しては賛否両論のようですが、日本のように源泉徴収で納税の煩わしさを感じないと、納税者意識がとかく低くなりがちな気がします。そのため支払った税金が無駄なダムや誰も使わない農業道路に何十億円とつぎ込まれていても問題意識が驚くほど低いのに、いったん自分の懐に入ったものを申告して税金として納めるとなると、納税者意識が否が応でも高まり、使われみちに非常に敏感になってくるようです。問題意識を持って政府政策の見張りに立ち、権利があるのであれば選挙に行く"物言う市民"になるのであれば、"眠れる納税者"より貴いことだと思います。

西蘭みこと