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Vol.0061 「NZ編」 〜扉の向こう側〜

ニュージーランド移住のための永住権取得にはいくつかのカテゴリーがあります。最も一般的なものが「一般技能部門」と呼ばれるもので、学歴、職歴、年齢、資金、国内での雇用契約の有無などをすべてパスマークと呼ばれるポイントに置き換え、必要定数を満たすことができれば申請ができます。申請すれば審査期間にばらつきこそあるものの、何か不備でもない限り、申請者の国籍に関係なく永住権が取得できます。NZは国籍別の割当枠を設けていないため、条件にかなった人を全世界から広く受け入れているのです。


そのパスマークが今月7日より1ポイント引き上げられて30ポイントになります。「1ポイントぐらい・・」と思われるかもしれませんが、たかが1ポイント、されど1ポイントです。パスマークは私が移住を決心した約2年前の時点では24ポイントでした。それが数ヵ月ごとに上がり続け、あっという間に30ポイントになってしまいました。過去のデータによればここ7年間は24〜26ポイントでずっと安定していたので、この上がり方は尋常ではありません。6ポイントの上昇により国内での仕事が決まっていない人はまず申請ができなくなってしまいました。

移住希望者にとって憧れの国がどんどん遠のいていく由々しき事態です。西蘭家にとってもそれは同じで、ほとんど閉まりかけた扉の向こうから差してくる後光をまぶしそうに眺めている状態ですが、政府にとっては足切りラインの引き上げによる申請者減らしが急務なのです。NZは移住先としての人気化で、今年度の受け入れ枠が最大5万人と設定されているにもかかわらず、最終受け入れ人数は5万3,000人以上に達する見通しで、ポイントを引き上げても追いついていないのです。申請者にしてみれば「私一人ぐらい、いいじゃない!」と言いたいところですが、事は国家運営。そう単純にはいかないようです。

予定以上の人数を受け入れてしまえば、人口政策や雇用、教育・医療を含めた社会福祉等で許容量を超えてしまい、あらゆる面で社会的な摩擦を生むことになるのは明らかです。そういう"あって当然なもの"は、きちんと提供されていても国民から感謝されるわけではありませんが、いったん不足が生じれば大問題になるはずです。「救急車を呼んでも来ない」、「子供を受け入れてくれる公立学校がない」・・・「まさか」というような事態ですが、人口政策を踏み誤れば起きてしまう可能性は否定できません。

そうなれば、「状況が悪くなったのは移民のせい」という、野党の右派ニュージーランド・ファースト党を筆頭とする移民排斥勢力の主張が現実味を帯びてきます。それに不満を募らせた世論が味方し出せば、政府はますます扉を閉じていかざるを得なくなるでしょう。そうならないためにも移民政策の円滑な遂行に向けた、受け入れ人数の遵守は譲れない一点のはずです。政府はそうした展開を十分踏まえた上で、先手先手を打って問題の芽が大きくならないうちに摘みとっているように見受けられます。

それは同時に、条件を厳しくして人数を減らしてでも移民の受け入れを続けていくという、強い意思表示とも取れます。ですから自分たちの夢がどんどん遠ざかって行ってしまうにもかかわらず、私はポイントの上昇を「英断だ」と確信しています。NZも他の経済先進国のように移民に対して扉を閉じてしまうこともできるはずです。世界の主要国では、駐在や留学はできても移住は段違いに難しいか、ほとんどできないはずです。現地の人と結婚するか、難民になるか、家族がいるか、アメリカのように抽選でも実施してくれない限り、移民の受け入れなどない方が普通ではないでしょうか。NZで永住権を獲得しオーストラリアへ向かう人が後を絶たないのは、このいい例でしょう。

NZの年間受け入れ枠の5万人は全人口の1%を軽く上回っています。これは日本で毎年100万人以上(!)の移民を受け入れ続けることに相当します。政策を間違えば大変な負担になるリスクを負いながら、どうして政府は扉を開け続けるのでしょう?個人的にはその根底に1840年2月6日に締結された、ワイタンギ条約のスピリットが今でも生き続けているからではないかと思っています。(つづく)

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「マヨネーズ」 ・・・とは言うものの、今回のパスマーク引き上げは堪えました。1ポイントの重みもさることながら、この更新ペースの速さに移民局に堆く積まれている申請書が目に浮かぶようでした。夫婦どちらの名義でも申し込めた24ポイント時代は今や昔。今ではどちらもはるかに及ばなくなってしまいました(涙)。

30ポイントは株で言えば大台乗せ。ここまではためらいがあってもいざ乗ってしまうと新しい展開に入り易くなるものです。移住関連の掲示板でもいろいろな観測や噂が飛び交って本当に株式市場みたいですが、政府がパスマークの"変動相場制"への移行を宣言している以上、こういう反応に出るのもうなずけます。では、ほとんど捨て鉢状態で、パスマーク相場を占ってみましょう。

「今のモメンタム(勢い)から言って天井は34〜35、時期は来年前半と見る。米英のイラク攻撃で世界経済が急速に悪化した場合は、NZでの雇用確保が難しくなり上昇は緩慢となろうが、今のペースで行けば来年の早い時期に天井を打つ可能性も。その時点では来年度枠となるので、今年度からの増加分が注目される。いずれにしても35ポイントを大きく超えてくると該当者がほとんどいなくなり、実質受け入れ中止の買い気配となって商いがなくなるため、政府は必要な人材に対して何らかの対策を出てくるものと予想される。いずれ米国を始め世界経済が緩やかに回復してくれば、南半球や中国の好景気一極集中が緩和されポイントが徐々に低下してくることも考えられる。しかし、自給自足度、自己完結度の高い、景気ディフェンシブなNZの性格から、パスマークは底固い推移を続け、従来の25ポイントを挟んだ低位を脱し、一段高の28ポイント水準で新たなボックス圏を形成していくものと思われる。」 (みこと証券「10月のパスマーク市場」) な〜んちゃって。

西蘭みこと