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Vol.0056 「NZ編」 〜三男の妻 その2〜

52号でお話したイギリス、オーストラリア、ニュージーランド"三兄弟"、ここ最近も非常に三者三様の動きに出ています。まず、8月の終わりに南太平洋の小国ツバルが大国アメリカと"次男"オーストラリアを「訴える」と言い出しました。「何の話?」という方のために経緯を簡単にお話しましょう。

南太平洋に浮かぶツバルは地球温暖化で海面が上昇した場合、世界最初に水没する恐れのある国です。海抜は高くても4メートルしかなく、今のペースで温暖化が進めば50年以内に消滅してしまうと言われています。人口は1万千人で、政府は祖国の存亡をかけて必死の対応に出ています。しかし、アメリカとオーストラリアは温暖化防止のためのCO2排出削減を義務づけた京都議定書の批准を拒否しているのです。

いったんは批准に動いたアメリカですが、排出削減が経済活動への支障となり景気回復に遅れが出ることを理由に議定書からの離脱を決定しました。しかし、3億人近い人口をかかえるアメリカは世界最大の排気ガス排出国であり、ある環境団体は「アメリカ国民の排出する温室効果ガスは発展途上国151ヶ国の総人口26億人が排出する量に匹敵する」という報告書をまとめています。ですから議定書の批准は、彼らにとって大変な負担と責任を背負い込むことになるのです。

一方、こちらも頑なに批准を拒んでいるオーストラリア。私は知らなかったのですが、ニュージーランド・ヘラルドによれば、国民一人当たりの温室効果ガス排出量は世界最大なんだそうです。これはひとえに資源国である点が大きいのでしょう。ですから、こちらも家業優先で批准には「NO」です。ツバルの通貨がオーストラリア・ドルであることからみて、本来両国の関係は非常に緊密だったようですが、ここへ来て決定的な亀裂が入ってしまいました。"次男"はツバルの訴えを「事実無根」と突っぱねています。

これに対して"三男"NZは、ご存知の通り京都議定書に関しては旗振り役であり、世界に知られた環境フレンドリーな国、"次男"とは正反対の対応に出ています。自国の環境を守るだけでなく、地球生命の存続を守る姿勢は政府、民間を問わずにいろいろな面で色濃く出ています。9月に入って閉幕した、ヨハネスブルグで開催されていた持続可能な開発に関する世界首脳会議(環境開発サミット8月26日〜9月4日開催、191ヶ国・地域参加、)での進展は、NZでは連日トップニュースでした。カナダやロシアという世界屈指の資源国が、アメリカの圧力に屈することなく議定書批准の意向を明確にし、議定書の年内実効への可能性に道を開くという予想外のドラマチックな展開も、私はNZの報道で知りました。

一方、"長男"イギリス。9月に入るやいなやブレア首相はイラクが世界の脅威となっている確たる証拠を示す文書なるものを公表して、アメリカと軍事行動に向けた準備に入りました。普段はこの両国、さほど仲がいいようにも見えないのに、なぜか軍事行動でだけは"あ・うん"の呼吸を見せるのは本当に不思議です。でも"三男"はこうした事態を予測して、8月18日の段階でクラーク首相が、「わが国はアメリカ主導のイラクに対する軍事行動を好ましく思っておらず、参加する意向はない」と明確に宣言して、早々に"長男"とは別の道を行く態度を明確にしています。

NZの一連の行動から伺えるのは、兄貴たちを差し置いて世界でのプレゼンスを高めようとか、ましてや世界最大の経済・軍事大国アメリカの向こうを張って世界の環境大国(そんなのがあったらウレシイですが)にのし上がろうなどという野心などではなく、一国の利害関係を超えた、「地球や人類全体にとってどうするのが最良なのか」、といったまっとうにして得がたい大局観ではないでしょうか。

大国でも、たいした発言権があるわけでもなく、発言したところで自国の名誉や利益にどれほどプラスになるのか?というようなことでも、果敢にコミットしていくNZの姿勢には本当に感服させられます。そして一般的な政治では常識である「利益誘導型」ではない政策を、国民が支持しているというのも素晴らしいことです。そこを貫いているのは政治の世界では死語に近い"良心"という、非常に素朴な思いなのではないかと思い至る時、改めて「嫁ぐなら三男しかない」という想いを新たにしています。

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「マヨネーズ」  私は環境問題に明るいわけでもなんでもなく、一介の母親として子供たちやその先の子孫たち、ひいては広く人類ができるだけ長く地球での暮らしを謳歌でき、映画「ブレードランナー」のような暗黒の未来が、永遠に作り話であってほしいと心底願っているに過ぎません。しかし、NZでのヨハネスブルグ・サミット報道を追ううちに問題の経緯や現在の状況など、ばらばらに見聞していたものがどんどん繋がり、あの10日間でずい分認識が深まったように思います。サミット開催期間中、日本の報道はほとんどこのことに触れず、「サミットなんてやってるの?」となっても不思議ではないくらいの無関心でした。同時期に報じられていた「肉まん事件」の続報がどんなに虚しく見えたことか。 (写真はツバル国名誉総領事館のホームページから)

西蘭みこと