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Vol.0049 「NZ編」 〜中国のお買い物 その2〜

8月13日、オークランドのイーデン・パークでニュージーランド上場企業、フレッチャー・チャレンジ・フォレスト社の臨時株主総会が開かれました。集まった千人以上の株主達は、エコノミストのブライアン・ゲイナー氏によれば「総督のガーデン・パーティに出席しているかのように着飾った老夫婦から、搾乳小屋から駆けつけたかのような人々」まで、NZの中流階級の一面を担う多士済々でした。

  総会の目的は、フレッチャーの経営陣の提案を株主に問うためのものでした。その提案とは、中国政府直轄の中国国際信託投資(CITIC)から2億米j(約235億円)の出資を受け、代わりに35%の株式を売り渡して、国内屈指の植林地を保有するセントラル・ノース・アイランド・フォレスト・パートナーシップ(CNIFP)を14億NZj(約814億円)で買収するというものでした。

CNIFPはそもそも、フレッチャーとCITICが設立した合弁会社によって経営されていたのです。ところが提携が上手くいかず両社の関係が悪化するうち、1年半前に14億NZjの負債を抱えて経営破たんしてしまったのです。その結果、16万3,000fの植林地は融資していた銀行団に差し押さえられてしまいました。

ですから今回の買収計画は、ケンカ別れしたNZ企業と中国企業がよりを戻し、かつて共同所有していた事業を買い戻すというものだったのです。銀行は貸した資金が回収できればいいので、両社の提案には賛成でした。フレッチャー経営陣としては事業を支える大きな資産獲得のチャンスであり、CITICにしてみれば一度は手にしていた貴重な森林資源をもう一度に手に入れる絶好の機会でした。

そのため両社は関係修復をことさら強調しました。特にフレッチャー経営陣は、株主の不安を和らげるために、CITICの影響力は以前の提携よりは強まるものの、完全に独立した経営を続け、「中国企業のNZ支店に成り下がることはない」として、CITICが木材需要の高まっている自国へせっせと木材を運び出してしまうようなことにはならない、と断言していました。

しかし、フレッチャーのドライデン会長は、CITICとは一定の距離を置いて独立経営を続けるとしながらも、「CITICとの関係構築で林業にとって重要度を増している中国市場へのアクセスを向上させる」とも発言しており、今回の再提携が失った事業の買い戻しと、中国という輸出市場確保の両睨みであることをかなり明確にしていました。

一般的には上場企業の35%権益を掌握するということは、その会社の経営にかなり深く関与することを意味します。今回の場合、CITICが出資するのはNZjにして約4億NZjですから、フレッチャーは買収資金の残り約10億NZjを借り入れるつもりでした。14億NZjの借金が返せずに差し押さえにあっている会社が、新たに10億NZjを借り入れた場合、一般的な経営者だったらどうするでしょう?まず、手に入れた資産(ここでは木材)をバンバン売って現金を作り、借金返済に勤しむことでしょう。そうでなければ、資金繰りが苦しくなってくるのは時間の問題です。

資金繰りが苦しくなってくれば、CITICが更に出資してフレッチャーの株を買い増し、経営権そのものを握ってしまう可能性もありますし、第三者が札束を積み上げて買収に乗り出してくることも考えられます。それぐらいCNIFPは貴重な森林資源なのです。実際、この計画は大変複雑なもので、フレッチャー経営陣やCITIC以外にも計画に反対してフレッチャーの経営そのものを牛耳ろうとする第三の勢力も絡んでいました。

フレッチャー経営陣は最後の瞬間まで、これが「最良の選択」であることを訴え続けました。しかし、エデン・パークに集まった個人株主や海外の機関投資家たちの回答は「NO」でした。経営陣は承認に必要な75%の賛成を得られず、計画は白紙に戻りました。CITICはフレッチャーへの出資を検討し直すと言い出し、何だったら自力でCNIFPを丸ごと買ってしまうことも視野に入れているようです。フレッチャー経営陣は「最良の選択」が否決され、借金も残り、その経営責任を問われることになるでしょう。

銀行は資金が回収できず、株主たちも「何もしないという真のリスク」(ドライデン会長)に改めて直面しています。すべては振り出しに戻ったのです。しかし、一つだけ確かなことがあります。それはこの森林が今のところは外資の手に渡らず、引き続き国内に留まっているということです。代替がきかず、環境への影響も大きい資源だけに、これは大多数のキウイにとっては朗報と言えるのではないでしょうか。「政府はニュージーランド航空よりもこの森林救済に乗り出すべき」というような意見も出ており、いったんは失敗に終わった"中国のお買い物"、早くもその先が気になります。

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「マヨネーズ」  前回に続いてちょっと固い話題になってしまいました。経済が好調なところにヒト・モノ・カネが集まるのは水が高いところから低い方へ流れるくらい自明なことなのだそうで、NZへの海外からの観光客や移住者が記録的な水準に達し、NZjが高止まっているのも、絶好調のキウイ経済の反映なのでしょう。前回の旅行中、ある小さな町で「休暇に来ていた中国人がモーテル5軒を衝動買いしてしまい、急いでお金を送らせた」という話を小耳に挟み、官民挙げて"中国のお買い物"が進んでいるのを感じました。

西蘭みこと