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Vol.0006 「香港編」 〜ドナルドを探せ!〜

3月6日に香港特別行政区政府(長たらしい名前ですが要は香港政府)の2002年度予算案が発表されました。実は私は、この数少ない香港の政治イベントを毎年かなり楽しみにしています。普通、国会への予算案提出となれば各省庁の利害関係や政治家と力関係で侃侃諤諤の論議となり、予算の分捕り合戦で国会空転…という事態にもなりかねませんが、香港では毎年、大蔵大臣に相当する財政長官が予算をまとめあげ3月初旬に発表し、簡単な審議はされるものの、ほぼ財政長官の原案通り4月の新年度から施行されます。

このシンプルなプロセスは英国植民地時代の香港政庁だったころからの名残で、植民地なわけですから、本来あるべき姿であってもコストのかかる民主主義的な段階を経る必要はなく、最も安上がりな方法が採られていたのです。ところが香港は自由都市を標榜しているためヒト、モノ、カネの流れが非常に自由で、常に玄関が開け放しの状態です。そのため、予算も受け入れるすべてのヒト、モノ、カネに対し、最大限"妥当な"ものでなくてはならず、あまり民主的とは言えない決定方法を経ながらも、毎年かなりフェアな内容が発表されてきました。それは、もしも財政というその社会の家計簿が特定のグループを優遇するようであれば、ヒト、モノ、カネがここに留まらずに、より居心地の良いところに移動してしまうリスクを負っているからなのです。

ところが、簡潔さを追及していてもここには源泉徴収制度はありません。サラリーマンでも毎年、各自が所得申告を行い、政府からの納税通知を受け取り、納税日までに小切手の郵送や銀行振り込み(ここ数年はインターネットでの支払いもOK)で納税します。もちろん納税額に不満があれば申し立てもできます。会社は給料証明の書類を作るぐらいで、それ以外はすべて各人が行います。源泉徴収に比べ手間も時間もかかりますが、納税者にとっては少しでも節税できる方法を考え、非課税になる寄付は少額でも申告するなど税金への意識を高めることになります。ひいては自分が支払った税金の行方に自然と目が行くようになり、その配分の大筋を決める予算案への関心も高くなっているように思います。政府は政府で取りはぐれがないよう監督管理を怠れません。

今回の予算案は巨額に膨れ上がった財政赤字の穴埋めが最大の焦点になりましたが、政府がまず着手したのは増税でも消費税などの新税導入でもなく、公務員給与引き下げでした。お金がない時に出費を控えることは個人では当然でしょうが、こと国家になると国債発行という借金のかたちで問題を先送りすることも可能になります。しかし香港はまず歳出削減に取り組み、それでも間に合わない時は増税等の歳入増に踏み切るという二段構えの慎重姿勢を示しました。発表直後のアンケートでは約半数の市民が予算案に支持を表明していましたが、失業率が過去最悪の7%台に突入し、景気後退の瀬戸際のところで踏みとどまっているという、政府への不満が高まってもおかしくない経済状況の中ではかなり高い支持率だと思います。

納税者と政府の間に信頼感を培っていくことは、どこの国でも非常に難しいことでしょう。「どうせ何も変わらない」という無力感やそれにかこつけた無関心を乗り越え、お互いが向き合おうとする真摯な気持ちこそが問題意識の共有につながり、"次の一手"を探っていく出発点となるはずです。これを理想論と片付けてしまうのは簡単ですが、自分が暮らす環境に目を配り、自分の子供を含む次世代のことを真剣に考えていけば、ある程度は政治に目がいくことになるのではないかと思います。政治家に立候補しなくても、政治にコミットしていく方法は無数にあります。新聞やテレビで現状を認識し目の肥えた市民となるだけでも大きなチェック機能の果たすことでしょう。

私もささやかながら税を納める立場として、増税も消費税導入も見送られたことにホッとしています。来年度には何らかの間接税導入があるであろうと思っていますが、政府が安易に増税に走らず、かと言ってこれが単なる解決の先送りではないことを明確に示したことには、一市民として満足しています。私たちも9年近い香港暮らしを通じ、開放され親しみの持てる政府のおかげもあって、多少はいろいろなものに目が向くようになりました。開け放しの玄関をくぐり、自らここに住むことを選択した訳ですから、現状がどうなっているのか、また今後どうなっていくのかにはとても興味があります。そして一度培われた目は、日本や他国の政府を見るのにも生かされることを実感しています。その中で、目の中に飛び込んで来たのがNZだったことは偶然ではないのかもしれません。

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「マヨネーズ」 これからメルマガ本文の後の独り言を編集後記の「マヨネーズ」として毎回載せていくことにしました。茹でたてのブロッコリー(西蘭花)にはやっぱりマヨネーズ!!今回はちょっと硬い話だったかもしれませんが、どこの国に住んでも「○○のお店は美味しい」というくらいの感覚で、「政治家の○○は最近今イチ」と言うような話が老弱男女問わず話題になることが多く、日本を出て間もないころは「首相以外の閣僚の名前をほとんど知らない私って?」とも思っていましたが、20年近い海外生活の中で大分変わってきました。子供の代以降も安心して暮らして行け、21世紀の人類が水や食べ物を争って戦争を起こすような惨めな思いをしないで済むよう結構真剣に願いつつ、今日も新聞をめくりながら、お気に入りのドナルド・ツァン政務長官(香港の実質ナンバー2で、政治家ではなく官僚機構のトップ)が載ってないか、チェ〜〜ック!

西蘭みこと