「西蘭花通信」Vol.0727 生活編 〜小夏物語:初夏の出会い〜             2017年2月8日

4年前の2012 年9月に、長男・温(23歳)が名古屋大学進学のため家を出ました。一緒に暮らした18年半の歳月が突然終わり、ふと心に木枯らしが吹くような寂しさを覚えました。そんな頃、庭にひょこっと姿を現すようになったのが1匹の野良猫で、生後1年も経っていなそうな小柄な白黒猫でした。夏の初めに訪れ、メスなのか野良猫らしい荒(すさ)んだ感じのしない穏やかな様子から、「小夏」と名付けました。

庭に姿を見せるのが合図。ご飯を持っていくと近寄ってきて、目の前で食べ始めます。いつもお腹を空かせており一気に食べますが、あまり人を警戒しないことから、
「飼い猫だったのを捨てられたの?」
と思いながら、様子を見ていました。しかし、小夏は手で触れられるほど近くに来ることは決してなく、足元にすり寄ってにおいを付けたりもせず、やはり野良猫でした。ゴワついた毛や白い毛の汚れも外での暮らしぶりを物語っていました。

数ヵ月後に、縁あって生後4ヶ月にならんとする黒猫クロと小夏によく似た白黒猫コロを飼い始めました。3匹の中では小夏が一番大きく、まるでクロコロのママのようでした。幼い2匹は先住の小夏に懐き、追いかけっこをしたり3匹で昼寝をしている時期もありました。特に色がそっくりなコロは長い間小夏の後を追いかけ、姿を認めると庭にすっ飛んでいったものでした。小夏もまだ幼かったのか、遊び仲間ができて楽しそうに見えました。3匹はさいらん家の猫として、家の中と外ではあっても一緒に仲良く育っていきました。

栄養のよい飼い猫はすぐに半野良の小夏より体格が良くなり、いつの間にかコロは狭い庭のボスになり、あんなに懐いていた小夏を追い払うようになりました。しかし、小夏は私たちが常に味方であることをよく理解しており、コロが睨みをきかしても私の後に回り、ご飯を食べ終わるまで踏ん張るようになりました。こうして、静かな住宅街の猫のいる平凡な暮らしはつつがなく続き、長男も大学を卒業して小夏が来てから4年の月日が流れました。

去年の12月に入るや、庭に見慣れない白黒猫が現れるようになりました。お隣さんにも出現し、両家で同時に気付きました。生後1年ぐらいの小さな猫でしたがお腹がふっくらしており、妊娠していました。片目が濁っており、幼い頃の栄養の悪さが疑われました。驚いたことに、この猫を連れてきたのは小夏でした。2匹はしょっちゅう一緒にいて毛の模様といい、頭の鉢割れといいそっくりで、
「小夏の娘?」
とお隣さんと驚き合いました。

   (それまで一度も見たことがなかった左のココナツと、小夏→)

「そうか!小夏は私たちの知らない間に妊娠して出産し、どこかで子育てをしてたのか。その娘がこんなに大きくなって妊娠し、食べ物を求めてここに来たのね!」
すぐに名前は小夏の子ということで「ココナツ」になり、英語ではないKonatsu は発音しずらくても、英語のCoconutsなら発音しやすく、お隣さんにも大ウケの名前となりました。以来両家でココナツ支援体制を整え、見かけ次第いつでも好きなだけ食べさせ、しっかり安全に出産させ、丈夫な子猫が生まれるようにと、あの手この手で助けていきました。

思いが通じたのか、ココナツは今年初めにお隣さんの植え込みの陰の巣穴で可愛い2匹の子猫を産みました。猫だって人間同様に授乳中は妊娠中よりお腹が空くだろうと、これまた両家で手厚い支援を続け、ココナツは鯨のように水を飲み、自分の頭ほどの大きさの肉をペロリと平らげては、さっさと子猫のもとに戻っていきました。3週間後、親子は手狭になった巣穴を出て、我が家の裏庭に引っ越してきました。

3匹は多肉鉢が無造作に置いてある一角に住みつき、白黒の子猫たちも植木鉢の間をウロウロするようになりました。幸いクロもコロも親子を邪魔することはなく、状況が飲み込めているようでした。そもそも近づこうものなら、身体の大きさが半分以下のココナツが大変な剣幕で追い返すので、いつの間にか庭のボスはコロからココナツに代わっていました。

小夏は相変わらずご飯の時間になると姿を現し、ココナツは小夏を見つけると飛んで行き、寄り添って一緒に長い間座っていたりしました。
「まだまだママに甘えたい年頃なんだろうに、自分までママになっちゃって大変だなぁ。」
と微笑ましくも、外で生きる猫たちの生活の厳しさを目の当たりにし、いよいよ本腰を入れてお隣さんとともに、動物保護団体や去勢手術に協力してくれそうな獣医を探しを始めました。

一番頼りにしていた国内最大の動物愛護団体SPCAは、お隣さんが何度メッセージを残しても連絡がなく、メディアが報じているように資金不足で活動がままならなくなっているようでした。他にも猫専門の保護団体2ヵ所を見つけたものの、いずれも需要に資金が追いつかず開店休業状態のようです。そこで、保護団体のホームページに提携先として紹介されていた獣医に連絡を入れてアポを取り、直接会って直談判することにしました。それが2月1日のことで、子猫たちは生後3〜4週間になっていました。

(つづく)

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「マヨネーズ」

ブログ「さいらん日和」「さいらんガーデン」をご覧になって下さっている方々はご存知のとおり、2月に入って突然始まった外飼い猫小夏と、そこに推しかけてきたココナツを去勢するためのお隣さんと組んだ捕獲大作戦。獣医の好意的な協力もあって驚くほど順調に行っていたものの、ここに来て思ってもみなかった大きな大きな壁にぶち当たってしまいました。つづきは明日配信します。

なんという動物保護の難しさよ。今となっては「何もせず何も知らなければどうなっていたのか?」とも思いますが、何もせず何も知らなかった、これまでの4年間の幸せな時間に心から感謝します。

西蘭みこと 

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