「西蘭花通信」Vol.0724 生活編 〜ブルースプリング・レポートVol.39:コネ社会〜   2017年1月16日

息子たちの青春の記録として不定期で書き始めた、このブルースプリング・レポート。検索してみたら2009年8月から始まったので、かれこれ7年半。最初の頃は長男・温(22歳)の話ばかりでしたが、今は一緒に住んでいる次男・善(19歳)の話ばかり。善は温と違いNZが大好きで、これだけアメリカのカードゲーム「マジック・ザ・ギャザリング」の大会でプチギャンブラーとして世界を転戦していながら、NZ愛が深まるばかりらしいです。

去年の後半、私もよく知っている善の高校時代の友だちが、カフェでウエイトレスのアルバイトを始めました。賃金はNZの最低賃金である時給15.25ドル。(約1,250円、基本的に毎年調整されます)彼女は最近シティーで下宿を始めたものの、国から借りられる学生ローンだけでは、家賃と光熱費を払ったら残りが週50ドルしかなく、「これじゃ生活していけない!」と必死でバイトを探していると聞いていたので、さすがに嬉しく思いました。

「1,000人ぐらい申し込んできたらしいよ。」
「ウェイトレスに?」
「そう。」
「スゴいじゃない。1,000分の1ってことでしょ?」
「そう。面接でオーナーが気に入ってくれたんだって。」
「よかったわねー。しかし、そんなに応募があるものなの?」

「今って何でもネットじゃん。簡単だからみんな何にでもアプライ(申し込み)しちゃうんだよ。自分でも何にアプライしてるか覚えてないんじゃないかな?」
「受け取る方もたまんないわね。メール開いてアタッチメント(添付)を見るだけでもスゴい時間がかかるじゃない。」
「だから見ないんだよ。」
「えっ?」

「友だちの会社とかでも人を探すと、数えられないぐらいCV(履歴書)が来るんだ。海外からも来るしね。ビザをサポートしてあげるような仕事じゃないから、海外からのは全部捨てちゃうけど。『私は会社を経営している有名なITエンジニアで、このサイトも私が作りました』とか書いてあって、開けてみたらヒンディー語かなんかで、立派なサイトなんだろうけど何が書いてあるかわからないし、その人が作ったかどうかもわかんないし、だいたいITなんか探してないのに、もうメチャクチャ!そんなのいっぱい来るよ。」

「じゃ、どうやって候補を選ぶの?」
「まず名前かな。キウイっぽくない名前は英語ネーティブじゃないかもしれないから、ほとんど見ないみたい。」
「じゃ、善クンも仕事探すとき不利じゃない。全然キウイっぽくない名前だから。」
「そうだよ。だからキウイはコネが大事なんだ。簡単な仕事なら友だちとかに紹介してもらう方が、どんどん来るCVをチェックするよりずっと楽なんだよね。それ以外はリクルートエージェント使ったり。」

「でもコネでもいい人が見つからない場合もあるでしょう?そういうときはどうやってCVを振り分けるの?」
さらに食い下がって聞いてみると、
「カバーレター。最初の数行で分けてく。スペルミスとかグラマーメチャクチャとか、キウイでもそんなのいっぱいあるからね。ネットのサンプルをコピー&ペーストした、同じカバーレターもいっぱい来るから、そういうのはすぐわかる。カバーレターがなくてCVだけ送ってくるのもあるよ。」

善のバイト先では善も含め、長く残っているのは社長自らが見つけてきたコネ入社ばかり。
「うちの会社って社長の考えで時給がちょっと高いんだ。だから普通に募集したらものすごい数のアプライが来ちゃう。だから、もうしないんだって。」
善もカード仲間のコネで会計見習い兼雑用として、国の最低賃金が時給14.25ドルのときに時給15ドルでスタート。その後18ドルに昇給し、1年経ったところで会計見習いだけの時給20ドルになりました。入社後2年となり、この次の昇給でいくらになるのか本人固唾を呑んで見守っている様子。

「ボクの今の仕事だと経験2年で時給30〜35ドルなんだ。」
「それってフルタイムの人の話なんじゃないの?」
「ここってフルタイムかそうでないかの差って、あんまりないんだよね。このポジションってフリーランスが多いから、フルタイムの方が少ないかも。何回会計年度をやったかでみるみたい。」
「なーるーほーどー!」
「時給30ドルになると思う?」
「わかんないけど、ボスはマーケットプライス(相場)を知ってるよ。」

コネ入社の弱みで、給料交渉には消極的な様子(笑) しかし、善なりに根回しはしており、社長のポン友で善をいつも可愛がってくれている会計士に頼んで、さりげなく相場を耳打ちしてもらったらしいです(爆) 善が調べる限り、経験2年で時給30〜35ドルの仕事はけっこうあり、
「こういう仕事はなかなか人が見つからないんだよね。大学で会計やってないとムリだから。」
「30ドルにならなかったら辞めちゃうの?」
「考えてる。」

(善は現在バイトの掛け持ち中でオサレなこの界隈にも出没中。           「でも高っ!」と言って家からの無料弁当でしのぐことも→)

「仕事ってお金も大事だけど、それ以外のことも大事よ。エンプロイヤー(雇用主)、仕事仲間、オフィスがどこか、ビジネスとしての将来性やグロース(成長)とか。どれだけ働きやすいかはお金に代えられないときもあるわよ。」
「うん、わかるよ。」(I knowの直訳で息子たちは「わかってる」ではなく「わかる」と言います)
「大学の近くじゃなかったら、そもそも行けないじゃない。」
「そうなんだよね。」

善を11歳の時から導き面倒をみていてくれる、カード仲間による護送船団はまだまだ伴走してくれているようです。

===========================================================================
「マヨネーズ」

NZで求職したことはないけれど、キウイっぽくない名前がハネられるなら、私などまずアウト。年齢でさらにアウト。英語でアウトで即三振(笑) 新移民たちが同じ国籍の雇用主や、リスクをとってでも人手不足の地方に走る意味がわかるような。

西蘭みこと 

ホームへ