「西蘭花通信」Vol.0720 NZ・生活編 〜5回目のトンガリロ・クロッシング〜    2016年1月13日

2012年に家族4人で初めて行ったトンガリロ・クロッシング。以来、夫婦で毎年行くようになり、今年も2人で行ってきました。トンガリロとはNZ北島の屋根ともいえる中央部の三峰、年中雪を頂くルアペフ山(標高2,797m)、富士山に似たナウルホエ山(標高2,291m)、なだらかな稜線のトンガリロ山(標高1,967m)の一つです。高さこそ一番低いものの、マオリが最も神聖視する山であるため、この山域の総称となっています。一帯は1894年にトンガリロ国立公園に指定され、ユネスコの世界遺産にも複合登録されています。
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トンガリロ・クロッシングとはトンガリロ山を6〜8時間でほぼ縦断する約20kmのコースで、天気さえよければ初心者や子どもでも挑戦できる比較的簡単なコースです。私たち一家も家族全員登山経験ゼロのまま、6時間半で歩き通しました。5回目の今回も6時間半だったので進歩もなければ後退もなく、これが私たちの自然なペースのようです。時間を左右するのはむしろ天候で、天気が良ければ良いほど雄大な自然を写真に収めようと立ち止まる回数が増え、好天のときには7時間半もかけたことがありました。

下山後定宿に戻り2人で中庭のスパで寛いでいると、同年輩と思われるキウイの夫婦が入ってきました。NZらしくどちらからともなく言葉を交し、自然とお互い終えたばかりのクロッシングの話になりました。
「どうだった?」
と声をかけると、
「良かったわ。私はけっこうエンジョイしたんだけど、この人がねぇ・・・」
と、細身の快活そうな奥さんが、かなり恰幅の良い日焼けで真っ赤になったご主人を顎で指しました。

3人の視線が集中するとご主人はやや慌てたように、
「いや、楽しかったよ、楽しかったよ。」
と繰り返しました。
「ただ雪が全くなかったのは残念だね。あんなに暑いとは思わなかった。あちこちで雪が見れるのかと思ってたんだよ。」
「雪があるときもあるわよ。」
と、私は話を続け、家族で来た2012年には残雪があったこと、2013年は寒さと風雨で引き返さざるを得なかったことを話しました。その内容に、
「何回来ているの?」
ということになり、夫が、
「2012年から5回連続で。」
と話に加わってきました。
「えーーーー!!!」

夫婦はワイカトから来ていました。去年大学を卒業した長女、大学生の次女、この3月から大学生になる三女の3人娘がおり、息子が2人とも大学生となった我が家と同じような状況でした。お互い20年ぶりに戻ってきた夫婦だけの時間を、トンガリロで満喫していた訳です。
「でも、どうして5回も?」
当然といえば当然の質問が投げかけられました。

「毎年ここに来ると決めてから、健康管理に目標ができたの。それまでも健康のために漠然と走ったり歩いたりしていたけれど、『クロッシングが続けられる体力を維持する!』となると、わかりやすいでしょう?オークランドでは3月に『ラウンド・ザ・ベイズ』という海岸線の9km弱を走るマラソン大会もあって、それにも健康のために出てるの。この歳になると健康が最優先じゃない?」
と言うと、キウイのご主人は赤ら顔が水面につきそうなほど深く何回もうなずいています。
「だから毎年来て、『来年も!』と思うのよ。」

「それはいいアイデアだわ。体力の維持って、何をどこまでやればいいのかわからないものね。じゃ、来年も来るのね?」
「もちろん。来年の今日、登ってるわ。」
「えっ?どうして今日なの?」
「3年前に素晴らしい天気に恵まれて以来、同じ日にしたの。今日も朝方は雨だったけど、山中はいい天気だったじゃない?どう、来年また一緒に登らない?」
この冗談半分の問いかけにはさすがにご夫婦ともやや引き、奥さんは、
「私はまた来てみたい気もするけど・・・・」
と場を取り繕いましたが、ご主人はかすかに頭を振りました。

「まぁ、来年また会えるかどうかはともかく、とりあえず後ほどバーで。」
と夫が言い、4人で大笑いしたままスパを出ました。シャワーの後、腹ペコだった私たちはハッピーアワーが始まったバーに繰り出し祝杯を挙げました。2杯目が終わりピザをパクついていると、
「もう食ってんのか?早いじゃないか!」
という声がして、先ほどのご主人登場。私たちを見つけて挨拶に来てくれたのです。服を着ていると、迫り出したお腹がますます大きく見えました。彼らには連れの夫婦がいて、4人で別のテーブルを囲んで飲んでいました。

心地よい疲れと、スパで緩みきったところにアルコールが行き渡り、早めに出来上がった私たちは部屋に引き上げることにしました。彼らに挨拶をしようと立ち上がると、気が付いたご主人が遠いテーブルから、
「また来年会おう。来年の今日だぞ!」
と太い腕を挙げ、ガッツポーズ。酔っ払っているのか、スパの後気が変わったのか、「また一緒に登らない?」という私の問いかけに頭を振っていたのとは真反対です。こっちもお返しに腕を挙げて親指をグッと立てるとテーブルの4人がどっと笑い、お互い手を振って別れました。

来年の再会はいかに?乞うご期待!

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「マヨネーズ」

私たちはトンガリロ行きを新年の恒例行事として、初詣代わりにしています。カラフルな蟻の行列のように歩く登山客の1人としてであっても、マオリが崇める八百万の神にお参りする心持ちで、NZらしい手付かずの自然に抱かれながら、巡礼のように決まった道を行きます。その間、夫婦で語らい労わりあい「前回はこうだった」「子どもたちと来たときはああだった」と、共有する過去を反芻しては何度も楽しむことができます。繰り返しの中で経験、思い出、時間の蓄積を実感し、継続の価値と力を知り、再び戻れたことに自然と感謝の気持ちが湧いてきます。

旅行から戻った翌日からまた、夫婦とも来年のトンガリロを目指して走り始めました。私たちの6回目はもう始まっています。

西蘭みこと 

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