「西蘭花通信」Vol.0709 生活編 〜ブルースプリング・レポートVol.37:マジックとカイケイシ〜       2015年4月6日

リーマンショックとその後の世界金融危機で、世界的に若年層の失業率が高まっていくのを目の当たりにし、12歳になっていた次男・善(18歳)は、
「大学を出ても仕事がなかったら?」
と不安になっていました。
「10年も先のことを今から心配する?」
万事がぶっつけ本番の母親には一生理解できない几帳面さ!しかし、身近で見ている限り、それは弱気や悲観的という否定的なものではなく、慎重で、計画的という非常に前向きなものでした。

「会計士なんかいいんじゃないか。善には向いてると思うよ。」
突然話に加わってきた夫の提案は、まさに私が考えていたものでした。
「カイケイシ?」
「アカウンタントのことよ。会社のお金を管理する係の人。会社って何かを作ったりサービスしたり、たくさんお金も入ってくるけど、材料を買ったりサラリーを払ったり、たくさんのお金も出て行くでしょう?」
会計士はわからなくてもアカウンタントはわかるようで、興味を示しました。

「どうせなら、チャータードアカウンタント(公認会計士)になったらいいよ。絶対仕事があるから。」
という夫の言葉に、善は一段と興味を示しました。明らかに「絶対仕事がある」という一言に反応していました。
「アカウンタントは会社の中でその係になっている人と、チャータードアカウンタントみたいに、会社をお客さんとして持っている人がいるの。リステッドカンパニー(上場企業)みたいに大きい会社は、チャータードアカウンタントに見てもらわなきゃダメなの。」

さすがに12歳ともなると、職業とはお巡りさんやスポーツ選手など目に見えるものばかりでないことはわかっています。しかし、名前は知っていても果たして何をする人たちなのか知らない職業は、大人にでさえごまんとあります。中学生となったらなおさらです。
「コンプライアンス(法令遵守)っていう言葉を聞いたことがあるでしょう?今みたいにファイナンシャルクライシス(金融危機)が起きるたびに、コンプライアンスが厳しくなってアカウンタントの仕事も増えのよ。」

「ファイナンシャルリザルト(企業業績)だって前は1年に2回発表すればよかったけど、今じゃほとんどの国で4回になってるから、それだけでもアカウンタントの仕事は2倍でしょ?それに日本やアメリカの会社が中国に行ったり、オーストラリアの会社がここに来たり、企業のグローバリゼーションが進めば進むほどお金の動きもコンプリケートになって、アカウンタントの仕事が増えるのよ。国ごとにアカウンティング・ルールも違うしね。」
日本語が怪しい善でもわかるようカタカナをふんだんに使って、私は話を続けました。

善は2008年の11歳を最後に、8年間続けて一時は三度の飯より好きだったラグビーを辞め、直後に出会ったアメリカのカードゲーム「マジック・ザ・ギャザリング」にのめり込んでいきました。マジックはポケモンカードや遊戯王カードの大人版のようなもので、始めのうちこそ子どもの大会で優勝して大会主催者からランチをご馳走してもらったり、景品のTシャツだのキャップだのをもらってきては大喜びでした。そのうち子どもの大会では飽き足らず、大人の大会に出場するようになりました。

2010年には5年制の高校に入学し(日本で言えば中2から始まる中高一貫校のようなもの)、2011年にはカードの大会で並み居る大人のプレーヤーをゴボウ抜きにして優勝。NZチャンピオンとなり、主催者から世界大会が行われる名古屋に招待されるほどになりました。本人は行く気満々だったものの、14歳の未成年ということで大人が付き添わないことには参加できず、この時は涙を飲みました。

マジックを始めたことで善には新しい世界が開けました。この年の学生らしく学校、家、日本語補習校を行ったり来たりしている生活から一歩踏み出し、親が全く介在しない大人との付き合いが始まりました。彼らは年齢や職業を超え、カードを通じて堅い友情や敬意で結ばれているようでした。大会前の練習のために善の胸を借りようと、大人のプレーヤーが週末に善を誘い出すこともありました。誘われる先はたいがいがシティーのオフィスで、中学生にとり高層ビルの中は全く新しい世界でした。

日本語で言えばオタクの彼らは、ほとんどが堅い職業の人たちでした。経営者だったり、高校教師、ITエンジニア、管理職、大学院生の他に会計士も何人かいて、公認会計士もいました。仲間同士で週末に集まったり、大会に繰り出したりしていたので、善は土曜日ともなると朝から1日出かけるようになりました。親の知らないうちにオークランドから1時間以上もかかるハミルトンでの大会に参加し、夜遅く帰ることもありました。

大人同士が仕事の話をしている場に毎週毎週居合わせるうち、善はごく自然にいろいろな職業や仕事の話を耳にし、会計よりもマーケティングや経営そのものに強く興味を持つようになりました。
「ビッグフォー(四大会計事務所)に入っても、大きなクライアントのほんのちょっとの仕事しかできないけど、小さいところだと一つの会社全部を自分でみれるからおもしろいんだって。」
日本で言えば中学生にして、こんな話をしばしば話題にするようになりました。

(つづく)

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「マヨネーズ」

イースターの四連休が終わりました。キッチンの改装中でなんとなく普段と違って落ち着かず、撤去したキッチン用品が臨時のキッチンにしている部屋からガレージからあちこちに点在しているので、ほしいものを探し回ったり整理し直したりで、連休中も片付け三昧でした。さすがに1日はワイタケレの森まで日帰りで出かけてきました。

(「妖精の滝」という名の滝を訪ねてきました。レインフォレストが美しい場所です→)

西蘭みこと 

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