「西蘭花通信」Vol.0689  NZ・生活編 〜ブルースプリング・レポートVol.31:これがスクール・ボールだ!〜 
2014年6月2日


NZの高校にはスクール・ボールと呼ばれる学校主催の服装だけはブラックタイの舞踏会、でも中身はDJがいるディスコばりのバンスパーティーが毎年1回あります。参加できるのは12、13年生(日本でいう高二と高三)で、これが高校時代、いや学生時代の最大のイベントと言ってもいいでしょう。16歳の誕生日で義務教育が終わるため、12年生のボール参加を機に、思い残すことなく(?)学校を辞めていく生徒もいます。

たった1晩、時間にして数時間に賭ける生徒の意気込みたるや、それはそれは大変なもので、特に女子など、
「そのエネルギーを他の事に注いだら、スゴいことになる?」
と思ってしまうほどで、人によっては数ヶ月前からボール準備態勢に入り、全身全霊を傾けた綿密な計画と準備の下、当日まで身も心もいっぱいいっぱいの状態で突っ走ります。

なぜ1晩のダンパにそこまで血道を上げるのか、移民として全く理解できずにいたら、長男・温(20歳)が高校時代になかなか鋭いことを言っていました。
「NZの高校ってさ、日本みたいな部活もないし、大学受験もないし、修学旅行も、文化祭も、体育祭もないじゃん?みんなが夢中になれるものがボールしかないんだよね。だからそこで、『少しでも目立ちたい!』って思うから、どんどんエスカレートしてくみたい。女の子なんて1ヶ月以上ボールに着ていくドレスの話しかしないよ。」
なるほど。

「少しでも目立ちたい!みんなに差をつけたい!」
という気持ちはアルコールやドラッグにも向かい、
「ルールは破れば破るほどクールでカッコいい!」
という暗黙のルールもあり、プレ・ボールと呼ばれるボール本番前に生徒の親が家で主宰するホームパーティーで何杯かひっかけ、ノリノリで本番に乗り込む!というのも定石です。NZでは親の監督の下、家など公の場でなければ16歳から飲酒ができ、18歳からは公の場でも飲めるようになります。高校生でも合法的に飲めるのです。

ところが数年前に有名男子校の生徒が急性アルコール中毒で死亡したり、ボールでの素行の悪さから停学になったのを親に知られるのを恐れて自殺したりした事件が起きました。あちこちの学校でも酒やドラッグ絡みの問題が噴出し、メディアでもさんざん取り上げられ、ボールを取りやめる学校も出る事態となりました。ここ数年はボールの会場入り口でアルコール検査をして、本番前から酔っている場合はボールに出られないようにするなど、学校側も自衛に躍起です。

当日は4、5時ぐらいから生徒の家でのプレ・ボールに始まり、8時頃に本番のボール開始。女子はイブニングドレス、男子はスーツやタキシードで臨みます。12時にボールが終わると、有志主催の本格的なアフター・ボール、生徒の家での個人的なアフター・ボール、帰宅と3つの流れができます。最も盛り上がり、その分問題が起きるのがアフター・ボールというわけです。どれも有志主催なので学校とは関係ありませんが、実質的には学校のボールの二次会なので、問題が起きれば、
「○○高のアフター・ボールで警察沙汰のケンカ」
という具合に校名が報じられるので、学校側もヒヤヒヤです。

「でも、アフター・ボールやってる人たちは学校の先生とかには絶対チケット売らないから、学校の人は中に入れないんだよね。中ではアルコールも売ってるけど、ID見せて18歳以上じゃないと買えないからリーガル(合法)じゃん?だから学校も文句を言えないんだよ。でも、18歳がアンダーエイジ(18歳未満)の子の代わりに買ってあげてみんなで飲んでるから、同じことなんだけどさ。」
と、善(17歳)がアフター・ボールのからくりを説明をしてくれました。警察の取り締まり対象もズバリ、二次会です。

こうしてみると、学校主催のアルコール抜きのボールを挟んで、プレ・ボールとアフター・ボールでいかに飲み、盛り上がるかがボールの成敗を決めるようです。しかし、実際のところ、エスカレートしているのは一部の生徒で、事前にチケットを購入して参加する有志主催のアフタ・ボールの参加者も、善の高校では全体の4分の1ぐらいだったそうです。善は仲良し7人組とずっと一緒で、仲間の家でお泊りでした。本人はまだ17歳ということもありますが、全く飲まないので完全しらふで健全なもんです(笑)         
(いつも一緒の仲良し7人組。一番右が善→)


「みんな飲んでたの?」
「そうでもない。プレ・ボールであんまり飲むとボールに入れないからね。アフター・ボールでもそんなには飲まなかったよ。」
いつも飲まない善は仲間の家での「飲み会」ではいつも「お片付け役」(本人の弁)なんだそうで、使った食器を下げたり洗ったりしているそう。
「飲んだ子は手伝わないの?」
と聞くと、笑いながら、
「ムリムリ!」
と言うところをみると、とてもそういう状態ではなさそうです。

次回は善のボールの様子をお届けします。

(つづく)

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「マヨネーズ」

「ここの子って日本みたいな部活も大学受験もないから、必死になれるものや、人と比べられるものがなくて、みんな一緒じゃん?だから法律を破るとかそういうことで人と違ったことをして、目立とうとするんだよね。それがカッコいいと思ってるみたい。」
温は高校時代早々にその辺のティーンエイジャー心理を悟り、10代が陥りやすいラットレースからいち早く離脱し、青春のエネルギーを水中ホッケーや日本進学に傾けていました。

善はそんなアニキの背中を見ながら、マジック・ザ・ギャザリングのカードゲームに傾注。その世界で大人の知り合いをたくさん作り、これまた10代のラットレースとは無縁。2人とも今のところ全く飲む気配がなく(すでに20歳の温ですが)、我が家は新聞を賑わすティーンの飲酒問題とは無縁で終わりそうです。

西蘭みこと 

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