「西蘭花通信」Vol.0675  NZ編 〜ライフ・イン・GBI:クラッシック・キウイライフ〜   2014年3月25日

「よく降るわねー。これだとソーラー発電も大変でしょう?」
容赦なく降る雨の中、カフェのトタン屋根は賑やかな音を立て、雨宿りに集まった軒下のスズメたちがこれまた大騒ぎ。大雨でも寂しさが伴わないのは夏の始まりの12月のせいなのか、予定のない休暇中だからなのか、のんびりとした離島だからなのか。隣の席にいた同年輩の男性と目が合い、ふと声をかけました。

「そうだな。これぐらい降ってもそこそこ発電はできるけど、量は減るね。こういう時は電気の使い方に気をつけるんだ。」
「大変なのね。」
「でも、悪いことばっかりじゃない。これだけ降れば水が溜まるからね。これから夏にかけて水は貴重なんだよ。」
カフェの名前はクラリス・テキサス。場所はオークランドから飛行機で35分の離島グレートバリア島、通称GBI。クラリスは空港の名前でもあり、あまりの長閑さからピンと来ないものの、私たちは島の中心部にいました。

クラリス・テキサスは泊まったロッジから最寄りのカフェで、連日の大雨でろくに外出もできなかったことから、毎日通っていました。ここまで出てくれば携帯の電波もつながり、夫のスマホには仕事関係のメールだのメッセージだのがどんどん入ってきます。目にしてしまった以上はついつい返事とあいなり、夫はコーヒーが冷めるのも忘れて仕事に没頭していました。

           (毎日通ったカフェ、クラリス・テキサスにて→)

グレートバリア島は公共の電気も水道もない島で、町に貼ってあったポスターにあった「クラッシック・キウイライフ」という言葉に深く納得しました。国土の広さの割に人口の少ないNZではかつて長い間、こんな自給自足に近い生活をしていた場所がたくさんあったのでしょう。今でも水道がなく雨水で生活している人が確か人口の3分の1いると、新聞で読んだことがありました。人気のワイへキ島ですら水道がありません。それを大変と思うか、生活の一部として受け入れるか、その辺が鍵になりそうです。

「この時期にこんなに降るのは珍しいんだ。毎年クリスマスを過ぎた頃から水不足の話が出てくるから、今年は楽だろうな。うちは飲み水用のタンクと床下に生活用水のタンクがあるから、全部いっぱになったら夏が乗り切れる。」
床下?」
「ちょっと傾斜地に建っているから床下にけっこう隙間があってね、そこにも大きいタンクを入れたんだ。そっちはシャワーやトイレ、ガーデン用に使うからフィルターはどうでもいいんだけど、飲み水用のフィルターはいいのを使わないといけないからね。」

「電気が足りなくなったらどうするの?」
私は島に来てからずっと誰かに聞いてみたかった質問をしてみました。他の場所と違い電力供給自体がないので、他の電源に切り替えることができません。
「ジェネレーター(自家発電機)だよ。」
「でも、ガソリンだって船で運んで来るから高いでしょ?スタンドで値段を見て驚いたわ。オークランドの5割増しよ!」
「どこで見たんだ?」
「フェリーを降りたすぐの所。」
「あぁ、あそこは島の端だから特に高いんだよ。でも、オークランドの5割増しか、確かに高いよな。」

「ジェネレーターを回すのはよほどの時かな。相当大きなパネルを付けてるから、普段はなんとかなってる。厳しいときはとにかく節電さ。女性が良く使うヘアストレートナー、あれは電気を喰うんだ。あれを使う人はこの島には住めないな。」
「私は大丈夫だわ。もともとストレートだから。」
「ボクだってこんな短髪でドライヤーいらずさ。お互いヘアスタイルに関してはOKだな。」
ここで思わず(笑)(笑)

「コーヒーマシーンは?家のコーヒーはどうしてるの?」
「家ではプランジャーを使ってる。コーヒーマシーンもけっこう電気を使うんだ。美味しいコーヒーが飲みたくなったらここに来ればいい。」
「そうね、このコーヒーは美味しいわ。この島で、この味で、この量(ラージ)で1杯5ドル(90円換算で450円)だったら大満足よ。豆からなにから全部オークランドから運んで来るんでしょ?」
「そうさ。カフェだったら1日中ジェネレーターを回しっ放しだから、この値段でも良心的なのさ。」

「ジェネレーターを回しっ放し?」
と驚く私に、彼は耳の後ろに手をかざし、聞き耳をたてるポーズをしました。お喋りを止めると、雨音に混じってウーーーーーンというかすかな電気音が聞こえてきました。
「あれがジェネレーター?」
「そうさ、これだけの店だったらコーヒーを淹れるだけじゃなく、商業用の冷蔵庫もあるし、電子レンジに、オーブンに、支払い端末もある。ジェネレーターがないとやってられないんだ。すぐ裏がスタンドで、いつでもガソリンがあるからこの値段でもやってけるんだろうな。」

ガソリンスタンドがないとカフェができない?!グレートバリア島のクラッシック・キウイライフは通常の常識をことごとく覆していくような、日々の何気ない生活に揺さぶりをかけてくるようなものでした。同時に、覆されても揺さぶられても揺るがない、人生や生活の芯に当たるものを、改めて見つめる機会にもなったように思います。

(つづく)

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「マヨネーズ」

日に日に秋めいてくるオークランド。日差しも和らぎ、雲が薄くなり、日が短くなり、蝉時雨も勢いがなくなりました。その代わり残っている蝉の鳴きっぷりときたら壮絶なほどで、命がけの婚活です(笑) 夜はコオロギの大合唱で、猫も家で寝ていることが多くなりました。食欲の秋、行楽の秋、芸術の秋、スポーツの秋・・・余すところなく楽しみたいものです。

西蘭みこと 

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