「西蘭花通信」Vol.0668 生活編 〜ブルースプリング・レポートVol.29:16歳の渡世術〜 2014年2月27日 「もうすぐ、リーダーシップ・キャンプがあるんだ。」 新学期が始まって早々、学校から帰った次男・善(16歳)が言いました。 「リーダーシップ・キャンプって、AUTに行ってジャングルジムかなんかするっていう、アレ?」 「そう。温クンがサボったやつ。」 「2日で70ドル(90円換算で6,300円相当)もするんだって、バカバカしいよね。」 善の誕生日は3月末なのでまだ16歳ですが、新学期が2月から始まるNZではすでに13年生、日本で言えば高校3年です。息子たちが通っている高校は最終学年が始まって早々にリーダーシップ・キャンプと呼ばれる2日間の行事があります。 「2日間何するの?」 「バーベキューしたり、ジャングルジムで遊んだり、学校に誰か来てスピーチするからそれを聞いたりするの。バカバカしい!」 私の質問に長男・温(20歳)はそう答えました。 「なんで13年生がバーベキューにジャングルジムなの?」 「みんなで仲良く力を合わせて何かをするってことじゃない?」 「そんなんだったら今頃しないで9年生で入学した時にすればいいのに。みんな早く仲良くなれるじゃない?それにもうあなたたちの年齢だったら、リーダーに向く子と向かない子ではっきり性格が別れて、自分でもどっちかわかるでしょ?」 3年前の温の時から感じていた疑問を善にぶつけてみました。 「わかるよ。でも、学校はリーダーがいっぱいほしいんだよ。だから学校中リーダーだらけだよ。小学校の時みたいに、ほんのちっちゃい事にもリーダーがいて、90%ぐらいの子はなにかのリーダーなの。」 「えー!そうなの?善クンも何かのリーダーなの?」 「全然。」 「リーダーも大事だけどフォロワー(従う人)も大事でしょう。社会に出たら会社の計画や目的を理解して、言われた仕事をきちんとできることも大事よ。計画どおりになんか、なかなかできないから、しっかりしたフォロワーがいなかったら仕事なんて進まないじゃない。大きい会社によってはCEO(最高経営責任者)はパンダみたいに有名で人気がある人がなっても、本当に力を持っているのはCOO(最高執行責任者)だったりCFO(最高財務責任者)だったりするじゃない?」 「大企業」や「人寄せパンダ」という日本語は善には難しいかもしれないので、簡単に言い換えつつ、言わんとすること伝えてみると、 「わかるよ。みんなもわかってるんだよ。でも仕事探す時に、なにかのリーダーだったってCV(履歴書)に書けるじゃん。だから、学校もみんなもリーダーがいっぱいいた方がいいんだ。バカバカしいってわかってても。」 さすが最終学年。その辺は割り切っているようです。 「今年は70ドルなの?温の時は確か50ドルで、AUTへのバス代だって言ってたわよ。」 「今年もそうだよ。2日ともAUTに行くから高いんだ。」 AUTとは2000年に専門学校から改組された新設大学で、そのせいかキャンパス内にさまざまな施設を持っているようです。ジャングルジムは温らしい辛口の例えだったようですが、参加した生徒の話では本当にどっこいどっこいの内容だったようです。 「みんな行くの?」 「ほとんど行くよ。勉強しなくて遊んでればいいんだから行くよー。」 「善はどうするの?」 「考えてる。温クンどうやってサボったの?」 「風邪ってことにしたんじゃない?確か学校に"He was unwell"(体調を崩しました)って手紙書いたわよ。温クンに聞いてみれば?」 「ボク、リーダーシップ・キャンプ行かないことにした。」 何日かして、善が言ってきました。 「風邪ってことにするの?」 「ううん。ワーキング・エクスペリエンス(実務経験)にするの。」 「えぇぇぇえ?じゃ、どこかのオフィスにでも行くの?」 「行かないよ。家にいる。」 「どういうこと?」 NZの高校の科目は完全選択制で、大学で経済を専攻するつもりの善は経済関係の3科目を履修しています。そのうちの1科目の先生にリーダーシップ・キャンプの事を相談すると、 「ワーキング・エクスペリエンスってことにして休んだら?」 と入れ知恵されたらしく、「何かあったら私の名前を出していい」という言質をもらってきました。欠席は欠席でも卒業に必要な出席日数から差し引かれないとかで、風邪より立派な理由になります。 善は長年、アメリカのカードゲーム「マジック・ザ・ギャザリング」にハマっており、中学生の時に1度、NZチャンピオンになったこともあります。プレーヤーはほぼ全員が社会人か大学生なので、善にとって協力者を探すのは簡単なことでした。さっそく公認会計士の仲間に連絡を取って話をつけ、学校に彼の連絡先を提出し、学校からの連絡には彼が対応することにして、ワーキング・エクスペリエンスということに!なんですか、これは?? (これは去年、マジックのサンディエゴ大会に参加した善の付き添いで夫も一緒に行ったときに、2人で行った大リーグの試合→ あれも学校サボって行きました(汗) でも夫の飛行機代は主催者持ちでした) もちろん、善は2日とも家にいて、夫と運転の練習に行き(NZでは16歳から自動車免許が取れます)、ついでに髪をこざっぱりと切ってきました。親は70ドルの節約に。自分のことは自分で決め、自分で責任を持つ家なので、法に触れたり人に迷惑をかけない限り、親は特に手伝わないものの口出しもしません。16歳の渡世術、なかなかです。 =========================================================================== 「マヨネーズ」
2009年から超不定期で始まった子どもたちの青春の記録、ブルースプリング・レポート。とうとう今回で善もデビューとなりました。後日、温が、 「この前善がFacebookでどうやってあのAUTのイベントをサボったかと僕に聞きました」 と言ってきました(笑) 西蘭みこと ホームへ |