「西蘭花通信」Vol.0665  NZ・生活編 〜ディグニティー 尊厳と品格と:ケイティ・ペリー〜        2014年2月17日

キウイはディグニティーという言葉が好きです。直訳すれば「尊厳」「品格」といったところでしょう。キウイ・ディグニティーという言葉もあり、私は個人的に「キウイ魂」と訳しています。大和魂のようにキウイに備わった度胸や根性に裏打ちされた尊厳と品格、とでも言いましょうか。

もちろんキウイもいろいろです。ディグニティーが血液のように身体中を駆け巡っている人もいれば、全く持ち合わせていない人、そのどちらでもない大勢の普通の人々。だからこそ、キウイ魂が発揮されると賞賛されるのです。前回の〜ディグニティー 尊厳と品格と:90代たち〜は一話で完結するはずでしたが、ふと思い出したことがあり、期せずして連載にしました。これもまたボランティア先のチャリティーショップでの話です。

「ステージネームはケイティよ、よろしく。」
新人は愛嬌たっぷりに言いました。芸名があってもとても芸能関係者には見えない、ポリネシアンによくある背の低い小太りな体系で、マオリ語の長い本名がパケハ(白人)には覚えにくいのと、姓がペリーだったので、アメリカ人シンガーのケイティ・ペリーに引っ掛けているというオチでした。

「あなた、なに人?いくつなの?子どもはいる?」
歳が近い私が世話係を買って出て、仕事の説明をすることにしました。2人になるとケイティはすぐに親しげに話しかけてきました。簡単に自己紹介をすると、
「へえ、日本人なの。私は32歳で、16歳と14歳の娘がいるシングルマムなの。娘たちはエプソン・グラマー(女子高名)に通ってるわ。」
という返事でした。32歳で16歳の子がいるというところが実にマオリでした。

「クルマがないからここまでバスで来るんだけど、バス代が高くてね〜」
とこぼしながらも、
「なかなか仕事が見つからないから、ワーク・アンド・インカム(NZ版ハローワーク)にボランティアをして社会経験を積んでくるように言われたのよ。」
と、非常に明け透けに目的を語りました。

若いケイティは一生懸命に働き、仕事にも慣れ、平均年齢が70代にならんとするボランティアの中では、ありがたい新人でした。
「こんな働きぶりなら、何かしら仕事が見つかりそうなのに何年も見つからないなんて不思議ね。」
と他のボランティアに言うと、世の中のことをよく知る平均年齢70代たちの返事は、どことなくよそよそしいものでした。

1ヶ月もしないうちにケイティの仕事ぶりが変ってきました。持ち場を離れてはいろいろな場所で油を売るようになり、頼んだ仕事が終わっても戻ってきません。探しに行くと、今度は私を相手に油を売ろうとしましたが、私は買いませんでした。他の人たちが彼女と一線を画していた意味がわかってきました。

ある日、終了時間間際になってケイティが古着の在庫が置いてある部屋にやってきて、
「寒気がするの。服を貸してもらえない?」
と言いながら、いかにも寒そうに両腕をさすっています。時期は夏の始めで寒い時期ではなかったものの、体調が悪いとなれば別でしょう。どうせみな古着なので、30分袖を通しても変るものではありません。
「好きなのを選べば。」
と言うと、彼女はグレーのニットのロングカーディガンを選んですぐに着込みました。

終了時間になると再びケイティがやってきて、このまま着て帰りたいから買いたいと言い出しました。ボランティアが寄付の品を買うこともあるので、7ドルだか8ドルだか(600〜700円)の値札をつけてあげると、「サンキュー」とニコニコしながら部屋を出て行きました。ボランティアも店の入り口から出入りするので、入り口付近のレジで会計を済ませて帰ります。

翌週、再び持ち場を離れていたケイティがやってきて、
「寒気がするの。」
と言いました。さすがの私もこれにはピンと来ました。
「好きなのを選べば。」
と言うと、彼女は先週のと似たような厚地のニットのカーディガンを選んで着込みました。半袖の人と長袖の人が半々ぐらいの季節だったので、それは明らかに場違いな格好でした。彼女は再び「サンキュー」とニコニコしながら部屋を出て行きました。

終了時間に近くになったので、念のためと思いレジに行き、
「ケイティが着ているニットは商品だから。」
と係に伝えると、
「ケイティなら医者に行くって言って、もう帰ったわよ。」
ドキッとして、
「茶色のロングカーデを着てなかった?」
と聞くと、
「そういえばニットを着てたわね。風邪を引いて寒いって言ってたわ。」
「お金払った?」
それまででした。

私は2週間の出来事をマネージャーに報告しました。彼がケイティに電話を入れると、
「生活保護を受けている身なので。」
という返事だったそうです。
「仕事を探しているんだったら、もう一度チャンスをあげるから戻ってきてしっかり働きなさい。」
と告げたものの、彼女は2度と戻ってきませんでした。若さと健康な身体があっても、ディグニティーというものはどこかに置き忘れてきてしまった人でした。(つづく)

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「マヨネーズ」

日本各地の記録的な大雪にはただただ驚いています。高速道路が50kmの渋滞だの3日間車中泊だの、本当に想像を絶することが起きているのでしょうね。まだまだ積雪があるようで、問題がこれ以上悪化しないようお祈りします。

名古屋の長男・温(20歳)は夏の超大型台風の時も今回も、台湾での中国語研修中でラッキーしてます。

(2010年に温の帰国生高校受験で帰国した時も雪でした。高校受験には失敗しましたが、大学受験で第一志望の名大に入り、あの時の雪も今やいい思い出です)

西蘭みこと 

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