「西蘭花通信」Vol.0657  スピリチュアル編 〜夢日記:笑顔と涙と携帯と〜    2014年1月23日号

どうもクルマでどこかへ家族旅行に行く途中、忘れた物を買いに立ち寄ったようでした。広々とした店内にはお洒落な生活雑貨が所狭しと並び、どこを見渡しても女性雑誌のページをめくるようでした。
「ステキ!」
と思いつつも、この手の店は探しているものがパッと目につかないという難点もあります。駐車場に夫と次男・善(子どもとして登場)を待たせているので、さっさと買って立ち去りたい私はキョロキョロしていました。

店員に聞こうとレジに向かうと狭いブースいっぱいいっぱいに、インド系に見える小山のように大柄な褐色の男性が、鮮やかな青い緩めの民族衣装を着て座っていました。こじゃれた店の雰囲気とは全く不釣合いで、雑然とした青空市場の店番のような雰囲気を醸していました。しかし、私にはその人が店のオーナーであることがわかっていました。

探している物の場所を尋ねると、すぐに返事が返ってきました。さすがでオーナーです。クリクリの巻き毛が顔まで迫り出し、全体に毛深い感じでしたが、朴訥とした返事と素人臭い笑顔はなかなかチャーミングでした。こういう人との接点がなく慣れていないと、存在そのものが「怖い」と思われてしまうのもわかりますが、私は断然OKな方です。

探し物はどうやら掛け布団(なんで?笑)だったようで、購入を済ませ、私は一抱えもある大きな荷物を抱えて、ディスプレーされた商品に引っ掛けないよう注意しながら出口に向かっていました。その時不意に、
「みことさん!」
とはっきりとした日本語で声を掛けられ、びっくりして振り向くと、移住前に住んでいた香港時代の同僚が輝くような満面の笑顔で立っていました。

(設定は香港のようでしたが、狭い場所なのでクルマで旅行に行けるような場所はありません→)

「サザエさん(当然、仮名)!ど、どうしたの?」
何年ぶりかの再会が思いもしない場所だっただけでなく、彼女はエプロンをしていてここで働いているようです。金融業界でバリバリ働いているはずの彼女が「インド人のオサレ雑貨店」で店員?? その意外性につい大きな声になってしまいました。
「土曜日の午後だけ気分転換で手伝ってるんですよ。」
彼女は私の驚きを先読みして答えてくれました。さすが!夢の中でも冴えてます。

「そうだったの。ステキなお店ね。オーナーの雰囲気とはずい分違うけど。」
と正直に言うと、
「でしょ?でしょ?でしょ?いい人なんですけど、どうしたらいいのかわからないみたいで、バイトとはいえ見るに見かねていろいろアイデアを出してここまできたんですよ。これでもだいぶ、よくなったんですよー。」
と言う彼女に、馴染み客らしい女性が何人も会釈して通り過ぎ、とうとう会話を中座して接客に行かざるをえなくなりました。

すぐ近くに日本人らしい女性が大きな包み紙から花をのぞかせた、生け花の帰りのような荷物を持って座っていました。よく見ると花は花でもサテンの絹に綿を詰めて立体感を出した極楽鳥花のような南国風の華やかな造花でした。手の込んだもので、目が合ったので思わず、
「ステキですね。」
と声をかけると、
「この店に置いてもらえないかと思って持ってきたんです。」
と言って、女性は離れたところで接客中のサザエさんを見上げています。

「そうか。こういうことまで任されているのね。」
ただのバイトではないのは、すぐに察しがつきました。オーナーはレジのブースに納まったまま仏像のように動きません。接客を終えたサザエさんが戻ってきたので、
「お子さんは?」
とつい聞いてしまいました。彼女にはカツオ、ワカメ、タラちゃんと育ち盛りの3人の子がいます。平日にガンガン働く彼女にとって、土曜日の午後は子どもとの貴重なゴールデンタイムのはずです。

「辻さんが見てくれてるんです。」
「お友だちの家かなにか?」
「いいえ、辻さんにはお子さんがいなくて、うちの子をすごく可愛がってくれるもんだから、みんな土曜日に辻さんの家に行くのを楽しみにしてるんですよ。私も子どもがいなければ家にいてもすることもないし、それでここに来てるんです。」
「そうだったの。」

「辻さんのお子さんは、亡くなったんです。」
穏やかな会話にさっと黒雲がかかり、顔を上げた私とサザエさんの目が合い、瞬間に2人の眼が潤みました。お互い母として、子どもに先立たれるという自分が死ぬよりもはるかに辛い痛みを瞬時に共有しました。直後に私は人目もはばからずおいおい泣き出し、サザエさんが傍で慰めてくれました。彼女だってゴールデンタイムを子どもと過ごしたいでしょうに、その時間を辛い思いをした辻さんに譲る優しさにまた泣けてきました。

つい話し込んでしまい、駐車場に夫と善を残しているのを思い出し慌てて、
「サザエさん、携帯貸して。電話しなきゃ。」
と言いました。私は夢の中でも携帯を持たず、実生活そのままでした。しかし、差し出された最新機種に思わず固まってしまいました。スマホを2倍にしたサイズで画面が分割されており、株価や為替がリアルタイムで表示され(土曜日なのに?)、ニュースの見出しもどんどん流れてきて、隅には小さいテレビ画面があり、女性アナウンサーが口をパクパクやっています。まったくお手上げなハイテク機種。

「どこから電話するの?」
と焦って聞き返したときに、
「いやー、あっちでスゴいもん見ちゃったよー!」
と、白いTシャツを着た夫が嬉しそうに店に入ってきました。
(不定期でつづく)

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「マヨネーズ」

サザエさんは私よりも一回りほど若いのに、古風な「しっかり者」という形容がぴったりで、公私ともに千手観音並みの処理能力を持つ頼もしい人です。あの笑顔、あの余裕、あの明るさ、あの存在感!夢の中でも「これこれ!」とうなずきまくりでした。

西蘭みこと 

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