「西蘭花通信」Vol.0639  生活編 〜石地蔵:春の訪れ〜                2013年11月4号

童は年の頃なら二、三才の大きさに見えました。みな金太郎さんのような腹掛けをしているだけで、尻を出したまま元気に動きまわっています。おじいさんとおばあさんのところにやってきた二人は、きゃっきゃきゃっきゃと言いながら一人がおばあさんの手を引き、もう一人がおじいさんの背中を押し、いろりに来いと言っているようです。

いろりにいたもう一人は鍋のふたを開け、背伸びをしながら柄の長いしゃもじでかき混ぜています。もう一人はどんぶりを見つけ出し、頭の上に載せながら大事そうに持ってきます。別の一人は土間をほうきで掃いており、部屋のすみで追いかけっこをして遊んでいた二人もやってきました。

おじいさんとおばあさんは驚いたまま童が敷いた座ぶとんの上に座り、差し出されたどんぶりに入った粥をすすり始めました。干し魚で出汁をとったおいしい粥で、冷えたからだが温まっていくのがわかりました。

「おいしいのう。」
「夢のようですわ。」
と二人が言うと、じっと見守っていた童がいっせいにきゃっきゃきゃっきゃと笑い、手をたたいて喜びました。そのとき、
「おじいさん、この子らはお地蔵さんですよ!」
とおばあさんが驚いて言いました。

「腹掛けだと思ったら、これは私が作ったよだれかけです。ぼろぼろになって色もあせていますけど、まちがいありません。あのお地蔵さんが助けに来てくれたんですよ。ありがたや。ありがたや。」
おばあさんは涙を浮かべて手を合わせました。

童はさらに大きな声できゃっきゃきゃっきゃと笑い、誰なのか気がついてもらえてうれしそうでした。
「そうなのか、あのお地蔵さんたちなのか。ありがたいことだ。なんまいだ。なんまいだ。」
おじいさんも手を合わせました。

童はおじいさんの肩をたたき、おばあさんの腰をさすってくれました。どこが悪いのか知っているようで、肩も腰もすっと軽くなり若返ったような気になりました。いろりの火が小さくなると誰かが戸をがたがたやりだし、みんなでいっせいに戸に手をかけると、凍りついていたはずの戸がするすると開き、吹雪が吹き込んできました。

裸んぼうの童は外に駆け出していき、みんな頭に二、三本の薪を載せてきゃっきゃきゃっきゃと戻ってきました。繰り返しているうちに、土間は薪でいっぱいになりました。雪の上を歩いた童のぶっくりした足は、頬っぺたのように真っ赤になっていました。

おばあさんはお礼に、雨風に打たれてぼろぼろになったよだれかけの端を繕い直しました。きれいになったよだれかけを掛けてあげると、童はきーきーきーきーと言い、よだれかけを何度も何度もしげしげと見ては喜びましだ。

おじいさんは急いでわらじを編み始めました。七人分でも小さな小さな足なのでなんとか一晩で編めました。夜遅くなって全員分のわらじができたので、履かせてみました。童は初めて履くわらじにどきどきしたのか、はいたとたんにみな動けなくなりました。

一人が恐る恐る片足を踏み出し、もう片方の足も出し、へっぴり腰で歩きだすと、全員がきーきーきーきーと笑い、真似をしました。すぐにみなわらじに慣れ、狭い家の中を走り回り、誰かが転ぶとそれはそれは大きな声できーきーきーきーと大笑いでした。

さすがにおじいさんとおばあさんは疲れてきました。童は布団をめくり、おばあさんの手を引き、おじいさんの背中を押し、二人が寝るのを手伝いました。誰かが薪をくべ、誰かがわらじを編んだ後の片付けをしています。ありがたや、ありがたや。二人はすぐに眠ってしまいました。

目を覚ますと、童の姿はありませんでした。あれはやっぱり夢だったのか? いえいえ、土間にはたくさん薪が積んであり、やはりほんとうだったのです。戸を開けると外はあいかわらず吹雪で真っ白でした。
「ありがたや。ありがたや。」
二人は吹雪に向かって愛らしかった童たちを思い浮かべながら手を合わせました。

おじいさんとおばあさんは春になるのを、首を長くして待っていました。雪が解け道が通れるようになると、真っ先にお地蔵さんのところへ行ってみました。するとどうでしょう。どのお地蔵さんも縫い直して一回り小さくなったよだれかけを首から提げ、にっこり笑って手を合わせています。そして一人一人の前に、小さなわらじがきちんと揃えて脱いでありました。(おわり)

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「マヨネーズ」

これを書いた小1だか小2だかの頃は、2BかBの鉛筆しか持っておらず、新聞の折り込み広告の裏に定規で線を引きノート代わりにして書いたので、書き終わったときには、紙も手も真っ黒でした。きっと顔も黒くなっていたことでしょう。布団だけは汚したら母に怒られるので、痕跡がないか入念に調べました。

「石地蔵って題はヘンかな?お地蔵さんってみんな石だよね。」
と、思っていたのを思い出します。あの時の迷いそのままに、タイトルはこのままにしました。ハッピーエンドなのに書き終わった安堵感からか、大泣きしながら読み返したのを覚えています。

西蘭みこと 

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