「西蘭花通信」Vol.0601  NZ・生活編 〜愛しのGI〜                           2012年9月14日

「みかんを買うなら、こっちの袋詰めの小さいのを買った方がいいわよ。あっちのばら売りの大きいのはやめた方がいいわ。」
みかんを選んでいた私に、近くのレジのカンボジア人のレジ係が声をかけてきました。
「なんでこっちの方がいいの?」
「安いし甘いのよ。私、両方食べ比べてみたんだから。」
アルバイトとはいえ店に雇われているのに、この開けっ広げさ。アジア・スーパー「リム」でのこと。

この店はカンボジア人とタイ人数人で経営しています。カンボジア人はまさに、映画「キリング・フィールド」の世界を生き抜いてきた人たちで、タイの難民キャンプで何年も過し、難民としてNZに受け入れられたそうです。そのせいか、数ある「チャイマ」(中華スーパー)とはやや趣が異なり、東南アジア食材が充実しています。顔だけ見たらみな中国人のように見えるかもしれませんが、中国語を話さない店員がいたり、店員同士がフランス語で話していたり異色なチャイマで、移住以来お世話になっています。

「よぉ!久しぶりじゃねぇか。いったいお前は、なに人なんだ。」
一歩店に足を踏み入れただけで、こんなことを中国語で言われるのは、この店だけです。
「当ててみて。」
「(中国)南方から来たんだろ?北方じゃないよな?オレは北方だからわかるんだ。もしかして香港人か?」
「香港から来た」というのは当たりでも、香港人ではないので、
「不是(ノー)!」
「マレーシア華僑かシンガポール人?まさか台湾人か?」
「不是!」

「韓国人か?」
ここまで来ると当てずっぽうもいいところ。ここで買い物の精算が終わり、今回も時間切れ〜。
「下次見(じゃ、またね)」
と店を出ました。たまに立ち寄る雑貨店「Uマート」。店番をしているのは移住して4年という30代の中国人。

前にここで買い物をしているとき、レジに若い白人男性3人が集まり、
「サムライ・ソード、サムライ・ソード!」
と彼に言い、1人がヌンチャクでも振り回すように、両手をめちゃくちゃに振り回していました。このジェスチャーじゃ、通じないでしょう。

「この人たち、刀を探してるのよ!剣みたいなもの。」
と、「サムライ」も「ソード」もピンと来ない様子の彼に、中国語で助け舟を出しました。彼が奥から持ってきたのは、京劇にでも使うような幅の広い金ピカの剣で、刀は置いていませんでした。キウイたちはイメージと違ったらしく、買わずに帰っていきました。その時以来、私は店に行くたびに「なに人?攻め」に遭うのですが、一度として当たったことがありません。

金曜日は魚を買いに行きます。ある日、魚屋「マーシク」のドアを開けると狭い店内の真ん中に、小柄なマオリの小父さんが大きな伊勢海老を持って仁王立ち。その大きさたるや彼の腕より太く、鋏も見事なVサイン。
「わぁ、スゴいわね!」
思わず感嘆の声を上げると、
「ほらな、彼女も『スゴい』って言ってるじゃないか、買ってった方がいいぜ。」
と顔なじみの主が勧めています。セールスのダシに使われてしまいました。

「でも、高いからなぁ。」
と渋る小父さん。
「負けとくからさ〜」
と主。買う気がないならエビを返せばいいわけで、持ち続けているところをみると、ほしいのでしょう。
「今夜は孫も全員集まるんだろう。」
と言われると、小父さんはくしゃおじさんのように相好を崩しました。孫という急所を突かれ、勝負はつきました。

小父さんはエビを置き、お尻のポケットからむき出しの札束を取り出しました。といっても大金というわけではなく20ドル札(約1300円)の束です。
「160ドルだ。こんな値段じゃ、他所じゃ絶対買えないんだから。」
と、主の言い値。 1万円! この大きさからすれば「お買い得」なんでしょうが、1匹1万円はおいそれと出せない金額です。でも、小父さんは苦笑いしながら、言われたとおりの金額を札束から抜き取っています。

NZは週給制の仕事が多く、金曜日は待望の給料日です。小父さんがポケットから出した札束も今週1週間分の報酬なのでしょう。金曜日は客のポケットや財布が一番膨らんでいる書き入れ時です。この店でも金曜日の品揃えが最も充実しています。こういう「大物」が入荷する頻度が高く、1万円の伊勢海老は買えませんが、私が金曜日に魚を買うのもこのためです。

これらの馴染みの店がある場所は、GI。
「あぁ、グレンイネスね。」
とわかる日本人は、オークランド在住者でも東オークランドにでも住んでいない限り、数少ないことでしょう。グレンイネスは電車の駅があり、バスのターミナル駅でもあり、大型スーパーだけでなく、周囲に小さな店が点在するとても便利で素敵な場所です。

周囲のステートハウスと呼ばれる国有住宅に住む人たちはマオリやパシフィック・アイランダーが多く、難民として受け入れられたエスニック度高めの人たちも数多く暮らす街です。パーキングには、パケハ(白人)人口の高いベイエリアと呼ばれる地域に住む人たちの高級車と、家族の多いポリネシアンの中古のバンが隣同士で停まっているような場所。移住9年目に入った西蘭家の台所をがっつり支えてくれています。

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「マヨネーズ」
長男・温(18歳)の名古屋への出発までちょうど1週間となりました。今日からいよいよ荷造り開始です。荷造り大得意のママがやっているというのは、いかがなものか?日本行ってから、苦労してねっ!
「こんな時にGIもないだろうが!」
という気もしつつ、ずい分前に書いてあったメルマガなので配信しておきます。最近は、チャイマ「リム」
(右)対ブティック・スーパー「ノッシュ」(左)の競合ぶりもなかなか楽しいGIです。

西蘭みこと 

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