「西蘭花通信」Vol.0594  経済編 〜不動産チャチャチャ:買東西U〜   2012年8月22日

中国語で「買い物」のことを「買東西」と言います。この場合の「東西」は方角とは関係なく、ただ「物」という意味なのですが、100人ほどを集めた不動産のオークション会場で4割近くが中国人かその末裔の華人系となると、
「彼らがオークランドの東からに西まで丸ごと買っちゃいそう!」
という、あらぬ妄想も現実味を帯びてきます。

現に真後ろに座っていた30代に見える若い中国人は、130万ドル(約8,500万円)の競りを降りたあと、数分のうちに今度は180万ドルをつけて、他の競りに参加していました。現金にしろ借り入れにしろ、相当な資金力です。そうこうするうちに、3つ目の競りが始まりました。今度は宅地です。意外にも、私たちでも場所がわかる家からすぐの所で、
「あんなところに、こんな土地が残ってたんだ〜」
と囁き合いました。

「貴重な一等地。交通至便、買い物にも便利で、理想の学区。3、4軒は建てられる開発業者には見逃せないこの機会・・・・」
流れるスライドをバックにオークショニアが盛んに煽っています。70万ドルから始まった競りは何人もの応札で盛り上がり、すぐに90万ドル台に達し、反応のスピードは落ちたものの100万ドルの大台をつけました。

私たちの真隣に座っていた5、60代に見える中高年の中国人夫婦も盛んに札を入れていました。2人とも布の運動靴を履き、スウェットのような上下。奥さんは袖のないキルティング素材の綿入れ半纏のようなものを着ています。格好だけ見たら、イヌの散歩にでも出るような姿ですが、ここはシティーのど真ん中。こんなところにも中華流を感じました。

ご主人が入札に参加している間、奥さんは付いた値段を細かく記録しているのか、うつむいてずっと何かを書きこんでいました。100万ドルがついたところで、2人は言葉を交わし、どうやら競りを降りたようでした。
「こりゃ、業者だな。」
夫が囁きました。
「だろうね。自分たちで開発するにしろ、転売するにしろ、土地の仕入れに来たんだろうね。あのエリアは「三冠王」(小中高が人気の学区に相当する、私たちが勝手につけたニックネーム)だから、中国人にも人気あるしね。」

けっきょく、値段は110万ドルをつけましたが、それではリザーブ価格(売り手が事前に設定している最低落札価格)に届かず、競り自体は流れてしまいました。そこからは2軒目の物件同様、最高価格を提示した人が売り手との直接交渉権を得て話し合いに臨みます。住宅と違って業者が多いせいか、競りの参加者の顔ぶれを見ていると、なんだか魚河岸で魚の競りでも見学している気になってしまいました。

場内がにわかにざわつき、椅子を立って帰る人、空いた席に座ろうとする、それまで立ち見だった人が移動し始めました。入れ替わる人数を見て、いかにこの宅地の競りに参加していたか、見に来ていた人が多かったのかがわかりました。人数の多さは開発需要の強さの表れとも言えましょう。帰った人のかなりが中華系に見えました。

場内のざわつきが収まらないうちに、4番目の競りが始まりました。物件は20軒近くあるので、場を仕切って時間通りに進行するのもオークショニアの責任です。スクリーンに映し出されたのは、小さな2部屋物件。値段は30万ドルからのスタートです。3件連続で100万ドルを超える競りの後では、緊張感がガクっと解けるようでした。

「今までの物件からしたら、これってガレージ一つ分ぐらいよね。」
と囁くと、夫が苦笑いしながらうなずいています。競りは3人で始まり、すぐに2人だけになりました。値段の刻みは今までの5万だの3万だの、最後の方でやっと1万ドルだの5,000ドルだのになるのと比べ、少額物件のせいか早々に1,000ドル刻みになってしまい、オークショニアが、
「いいですよ。お受けしましょう。」
と、笑いながら応じていました。

2人だけになっても競りは盛り上がらず、機械的に1,000ドルずつ値段か更新されていきました。おしゃべりを始めたり、飲み物を取って戻って来る人がいて、場内はちょっとした「休み時間」の雰囲気でした。今のオークション費用の相場はわかりませんが、私たちが6年前に不動産販売員のコースに通っていたときは、3〜4万ドル前後だと言っていました。そうであればこうした少額物件にはかなりの負担になるはずですが、それでもオークションの方が高く売れる可能性があるのでしょう。それが今の相場です。

会場後方の大勢の立ち見客に紛れて姿が見えなかった1人が黙り、競りが終わりました。会場はそんなことには一向にお構いなく、相変わらずざわざわしていました。顔見知りの不動産屋がいつもの三つ揃いのスーツ姿で私たちの傍らに現れ、
「おめでとう!」
と言いました。競りに参加していた2人のうちの1人は夫でした。こうして私たちもまた、中国人たちに混じって、「買東西」となりました。

===========================================================================
「マヨネーズ」
2月に投資物件探しを始めて早半年。こうして、やっと目的を達成することができました。時間がかかり、想定していた以上に小さな物件になりましたが、その間にも欧州債務危機の悪化で金利がジリジリと下がり続け、結果オーライでした。

オークション物件とはいえ盛り上がらない競りだったので、CV
(Capital Value:各自治体が固定資産税の算出のために出している不動産評価額)へのプレミアムも許容範囲内でした。すでに住宅ローンの返済が始っているので、がんばらないと〜!
         (さすがにオークションの後は乾杯〜♪となりました→)

西蘭みこと 

ホームへ