「西蘭花通信」Vol.0589  経済編 〜不動産チャチャチャ:アニキの家のシミレーション〜 
2012年8月6日


自宅用のドリームホームと賃貸物件を同時に取得して、身動きが取れなくなってしまったらしい、アニキ。メルマガでも3回にわたって、限りなく実話に近いフィクションとしてお送りしました。
(連載はリンクからどうぞ)
〜不動産チャチャチャ:アニキの家〜
〜不動産チャチャチャ:アニキの家U〜
〜不動産チャチャチャ:アニキの家V〜

しかし、アニキの着想は悪くなかったと思います。方法さえ間違わなければ、30歳前後に見えるあの若さで、とてもいい資産形成になったのではないでしょうか。そこでフィクションついでに、アニキの投資を勝手に検証してみます。

アニキの家の最新のCV
(Capital Value:各自治体が固定資産税の算出のために出している不動産評価額)は、自宅が36万ドル、賃貸物件が35万ドルです。3年前の前回は35万ドルと34万ドルでした。「3、4年前に買った」と言っていたので、当時の不動産相場からして、2軒の購入価格をCVすれすれの70万ドル、頭金を25%(頭金は通常、自宅で20%、投資物件で30%)の17万5,000ドルとしてみます。

残りの52万5,000ドルは住宅ローンでの借り入れ。しかし、
「改装費も銀行から借りていた。」
と言っていたので、全額は無理としても7万5,000ドルを追加で借りたとして、借り入れ額を計60万ドルとします。借入れ時期はリーマンショック後の利下げが本格化したタイミング、金利は当時の2年物固定ローン金利の6%。返済期間は30年、返済はNZでよくある2週間に1回としてみましょう。話を単純にするために、金利と賃貸収入は変化がなかったものとします。

これでいくと毎回の返済額は1,655ドル、毎週827.5ドルです。投資物件は全く手直ししていなかったので、買ったままの状態ですぐに賃貸に出したとして、賃貸料は週350ドルとします
(NZでは週払いが一般的)。ドリームホームの1部屋もカップルのフラットメイトを入れていたので、彼らからの家賃は180ドル(光熱費別)。アニキの賃貸収入は週530ドル、返済額との差額であるアニキの持ち出しは週297.5ドル。

しかし、持ち家になったことで、アニキはそれまで払っていた家賃の支払いがなくなったはずで、フラッティング代週180ドル(2人分、光熱費別)の負担がなくなり、実際の持ち出しは週100ドルちょっと、約7,000円です。アニキでなくても、
「これならイケるぜ!」
と思える数字です。金融不安が広がり、信用供与が厳しくなっていたタイミングでもローンがついたのですから、銀行も、
「これならイケるぜ!」
と思ったのでしょう。

しかし、アニキはつまずいてしまいました。
「もう銀行がカネを貸してくんねぇっていうんだ。」
と、言っていました。銀行は返済が滞るか、担保に差し入れている物件の価値が極端に落ちでもしないかぎり、返済が続いているローンを止めたりはしません。ローンこそ彼らの飯の種なわけですから、収入源を自ら止めるでしょうか?

NZの住宅価格はリーマンショックを経ても驚くほど下落せず、オークランドは平均で10%ほど調整しただけで、現在はすでに過去最高値を更新しています。そもそも担保価値の基になるCVが上がっているので、担保には問題が見当たりません。

となると、アニキは返済でつまずいたのでしょう。上述の週100ドルちょっとの持ち出しは、あくまでもベスト・シナリオです。決して不可能ではありませんが、算出のために仮定した状況のいずれかが違っただけで、数字は大きくなっていきます。

まず、6%で想定した金利。この水準だったのはごく短期間なので、アニキがこれ以上の水準で借りている可能性もあり、6.5%だったら返済額は週872.5ドルで、6%に比べて週45ドルの追加。7%だったら、週918ドルで、追加は90.5ドルです。変動金利なら逆に、利下げ局面だったこの期間は返済額が減少したでしょうが、その恩恵以上にアニキは財政的に苦しくなってしまったようです。

さらに、アニキは友人をテナントにしていました。となると、友人がアニキに市場価格を払っていた可能性は低く、賃貸料は投資物件で週300ドル、フラットメイトで150ドルぐらいだったのではないかと思われます。
(どちらのテナントもベッド以外に家具がなく、「住んでいる」というより「泊まっている」という印象でした)

この賃貸収入で金利が6.5%だったら、アニキの持ち出しは週242.5ドル、7%だったら288ドルで、週1万5,000円〜1万9,000円となります。その上、ドリームホームの方はかなり本格的に改装していたので、テナントどころかアニキも住めない期間が1、2ヶ月はあったはずで、みんなで投資物件の方に転がり込んでいたのではないでしょうか。となると賃貸収入が減り、アニキの持ち出しはさらに増えます。
そして改装費。銀行からの借り入れを7万5,000ドルとしましたが、これもベスト・シナリオで、もっと少なかった可能性もあります。しかし、アニキがかけた改装費はざっと見てもその2倍近かったと思われ、何らかの方法で別に借金をしていたのではないでしょうか?そちらは無担保ローンになるので金利が相当高かったはずで、それが焦げ付き始めて、最終的に住宅ローンにつまづいてしまったのでは?

アニキの着想、購入価格、金利水準はかなり良かったと思います。しかし、
(1)収入を生まない自宅にカネをかけすぎた
(2)市場価格を払うテナントを入れなかった
(2011年2月のクライストチャーチ地震以降、オークランドは深刻な賃貸物件不足に陥った時期もありました)
ために、計算が狂ってしまったのではないかと思われます。

(賃貸物件では庭の手入れの容易さは重要です。こんな造りはかなり理想的→ 本文とは関係ありません)


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「マヨネーズ」
ありがた迷惑なシミレーション?! これで最後にするね、アニキ!

西蘭みこと 

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