「西蘭花通信」Vol.0579 経済編 〜不動産チャチャチャ:アニキの家U〜 2012年7月6日 「オレは窓にはこだわりがあるんだ。うちの窓は全部二重になんだぜ。ミラーガラスだから外から見えない。中からはよく見えっけどな。」 「へぇー、贅沢ね。こんな静かなところで二重窓?冬は暖かいわね。ミラーガラスは西日を遮ったりするにはいいわよね。」 と話を合わせながらも、 「ミラーガラスって日中はけっこう部屋の中が暗くなるのよね〜。夜になって電気を点けたら、外から丸見えなのは普通の窓と一緒だし。」 と、心の中でブツブツつぶやく私。 「どうだよ、このバスルーム。まるでホテルだろ?」 リビング同様に真っ白なバスルームはリネンも白で統一され、壁にポップな色の大きなポスターを掛けて、アクセントにしていました。センスはよくても、シャワーの内側はこれまた凝った石材風のタイルで、 「湯垢がついたらあんな凸凹の表面、どうやって掃除するんだろう?床のタイルも滑りそう。」 と、またまた閻魔帳には×印。 「オレはバスルームに洗濯機置いたりする貧乏臭えこたぁしねぇんだ。」 と言うアニキについて、今度はマスター・ベッドルームへ。 足を踏み入れた瞬間に×印!なんと壁の一面が鏡なのです。いくら改装していても、元は1960年代に立てられたレンガ造りの集合住宅ですから、部屋の大きさは知れています。大きなキングサイズ・ベッドが入った部屋にはベッドサイド・テーブル以外の家具はなく、置けてもコンピューター・デスク1台が目いっぱいといったところです。その小さな部屋の一面が鏡とは! 「ミラーで部屋がデカく見えるだろ?」 とアニキ。確かにそうかもしれないけれど、 「自分で自分を錯覚させて、どうするのよ〜」 ミラーは引き戸になっていて、内側はかなり深いウォーキング・クローゼットでした。服から靴からバッグから、化粧品、スポーツ用品、雑誌とこまごましたものがぎっしり詰まっていました。すべてを収納しているのはキッチンと同じで、生活感を徹底的に排除しているようです。ヘアブラシ1本さえ、畳一条ぐらいある扉を開けないことには取り出せません。鏡に監視されているようで落ち着かず、長居したくない部屋でした。 もう一つのやや小さめのベッドルームにもキングサイズ・ベッドが置かれ、こちらの部屋をカップルに貸し出しているようでした。ここも壁一面のクローゼットに全てが収納されていました。鏡がない分少しはましでしたが、寝る以外なにもできそうにない部屋で、椅子一つありませんでした。どちらも天井に電灯がなく、ムーディーなウォールランプだけで灯りを調節していたので、夜はかなり暗いことでしょう。 (NZの家は家具が造り付けになっていることが多いので、部屋の中がすっきりしているように感じます。でもこれがガラス戸だったら?!本文とは関係ありません→) リビングに戻った私は、促されるままにIHクッキングヒーターの前に座りました。アニキは本当にここが好きなようです。私たちの頭の上にはイタリア製のレンジフードがパックリ口を開けています。なにかメモをしようと思ったらIHの上です。きれいで平らなので机代わりにはなりますが、なんとも妙です。 「ずい分、手間ひまかけて直したのね。大変だったでしょう?」 まずは無難なところから話を始めました。これだけ趣味の家に造り変えられている以上、聞いておきたいことがいろいろありました。アニキの終始強気な態度からして、かなりの値段を提示してきそうでした。 「まぁな。ここはオレのドリームホームだからな。妥協はしねぇ。」 「じゃあ、どうして売るの?」 「ソフィーに子どもができたんだ。」 と言いながら、アニキは「フラットメイトだ」と紹介してくれた男性とデッキで話をしている、スラリとした金髪のパートナーに目をやりました。 「ソフィーが子どもは芝生のある庭付きの家で育てたいっていうんだ。」 彼女のお腹は遠目ながらぺっちゃんこで、言われなければ妊娠しているとは絶対にわかりません。そんなうちから、芝の庭で子育てって? 「ここを売ってパーネルに越そうと思ってんだ。仕事にも近いし、オレらのライフスタイルにも合ってるからな。」 パーネルとはあえて東京で言えば港区のようなもの。トレンディーな繁華街でマンションも多く、芝の庭や子育てのイメージからは程遠い場所です。逆にあそこにそんな一軒家を手に入れるにはいくらかかることか? 「パーネルに庭付きの家を買うのは大変よね。」 と言うと、アニキは、 「まぁな。」 と曖昧に答えました。 「オレ、隣のユニットも持ってんだ。」 ユニットとは数軒の長屋になった1戸のことで、ここは3軒がつながっていました。アニキのドリームホームは一番奥の角部屋で、真ん中のユニットもアニキのものでした。そちらの物件もネットに広告が出ていました。 「まず、こっちをメイクオーバー(全面改装)して、次にあっちもやろうと思ってたんだ。キレイにすりゃあ、高いレント(賃貸料)が入ってきて、ローンが返せるだろ?」 「いい計画ね。」 と言いながら、 「でも投資なら順番が逆よ。こっちのキレイな方をとっとと貸し出して、自分はボロな方に住まなきゃ。」 と、私はまたまた心の中でつぶやいていました。 「だろ?だから2軒買ったんだよ。でも・・・」 「でも?」 「もう銀行がカネを貸してくんねぇっていうんだ。」(つづく) =========================================================================== 「マヨネーズ」 10代で親になることが珍しくないNZ。アニキと話しながら、 「私にこれぐらいにの息子がいても、おかしくないんだよね〜」 と思ったら、物件そっちのけで「ママ目線」。それに乗じてか、アニキはポツポツ本音をもらし始めました。 西蘭みこと ホームへ |