「西蘭花通信」Vol.0570   香港編 〜ブルースプリング・レポートVol.23:輝くクモの巣〜           2012年5月12日

文部省が推進する「グローバル30」(正式名称「国際化拠点整備事業」、通称「G30」)という、日本で英語学位をとるためのプログラムで名古屋大学に合格した、長男・温(18歳)。専攻する経済には6人の生徒が入学しますが、フェイスブックを通じて5人まではどこの誰だかがわかり、すでに交流を始めているものの、最後の1人がわかりません。今のところ、女子3人男子2人なので、できたら男子を希望している温。

「ママ、ボク、夢見た。バートが6人目で、名古屋の経済に入って来るんだ。」
「え〜!!!」
バートは温が2歳半で幼稚園に入ったときからの大親友で、カナダ籍の香港人です。NZに移住するまで小学校も同級生、家も近所で、いつも一緒に遊んでいました。初めて移住の話が持ち上がった7歳のとき、温は「バートと離れるのは嫌だ」と泣いて嫌がったほどでした。

さすがに移住後8年も経ち、それぞれの生活を送る今となっては、2人の付き合いも私たちが香港に里帰りしたときぐらいになりました。バートがあまりフェイスブックに熱心でないことや、香港との時差が冬は4時間、夏は5時間あってチャットをするのに都合がいいタイミングではないこともあり、温はもっぱら、バートの兄でスイスの大学に行っているジェフと交流していました。

実は前回、香港に里帰りしたとき、バートの父親が日本への進学に興味をもち、日本について熱く語るのを聞いて、大いに驚かされました。私たちはバートがカナダの大学に進むものとばかり思っていたからです。
「バートはどこに行くんだろうね?」
「さぁね。ジェフも知らないみたいだよ。」
という会話を何度かしましたが、夢を見るぐらいなので温も気になっていたのでしょう。

「ママ、バート、名古屋受かったんだって!」
そんなときに飛び込んできたビッグニュース!ただし、専攻は経済ではなく化学。ただし、日本のもう1校の国立大学の補欠でもあり、香港大学の結果発表も待っているところで、最終的にどの大学に行くのかはわかりませんが、もしかしたら、もしかしたら・・・・・名古屋でまた一緒?
「中学と高校は違うけど、幼稚園、小学校、大学が一緒だったらスゴよね!」
と、温も嬉しそう。

バート経由で知ったさらなるビッグニュースは、同じく幼稚園時代からの大の仲良しだったエリックのハーバード大学合格でした!これは本当に快挙だと思います。韓国人のエリックは温が幼稚園に入ってから自分で作った、生涯初の友だちでした。それまでの温は親の友人の子どもとしか、遊んだことがありませんでした。

初対面のエリックのことは私も良く覚えています。登園初日は大混乱で、大声で泣いている子、オモチャに夢中になっている子、ハイテンションになって駈けずり回っている子、親にぴったりくっついておどおどしている子・・・・みんなそれぞれで、温は私にくっつきながら、半べそで周りの様子をじーっと伺っていました。そんな中で、教室の片隅で1人静かにクルマの絵を描いているアジア人の男の子がいました。それがエリックでした。

エリックには親が付き添っていませんでした。何を話したのかは覚えていませんが、話しかけるととても落ち着いた受け応えが返ってきたのを覚えています。
「この子、オンって言うんだけれど、一緒に遊んであげてくれる?」
と言うと、エリックはしっかりうなずきました。入園後、温は先生方に「クライング・ベイビー」(泣き虫ちゃん)と呼ばれるほど泣いて泣いて過しましたが、エリックは私との約束を果たしてずっと仲良くしてくれました。

バートによると小学校時代の友だちのほとんどは結果待ちで、まだどの進路に進むのかわかっていないそうです(香港は欧米同様に6月卒業なのでまだみんな高校3年生なのです)。温の小学校時代の親友はイギリスに帰って久しいものの、環境問題に興味を持ち「NZの大学へ行きたい」と言っていたことがありました。温も期待していたのですが、当の本人が日本へ行くことになり、いずれにせよここでの再会はなさそうです。

もう1人の仲良しでラグビー友だちでもあったイギリス人は、スイスでホテル経営を学ぶそう。インド人、シンガポール人、別のイギリス人の友だちは結果待ちだそうで、いずれにせよ国際都市・香港で生まれ育った子だもたちらしく、親同様にあっちへ行きこっちへ行きと、みんなバラバラになりそうです。でも彼らにはフェイスブックという強い味方があります。相手がどこで何をしているのかわからなくても、その気になればいつでも交流を再開することができるでしょう。それだけは親の若い頃と絶対的に違う点です。

香港という一点からそれぞれの道が放射状に広がっていっても、ネットの糸を伝っていけば友情という横のつながりも維持できるのが、今の時代。それはまるで、未来から射してくる光を浴びながらキラキラと輝くクモの巣の中を自由に行き交うかのようです。大学生ともなれば今までとは比べられない生活になり、世界の広さを、そこを飛び回る自由を、自由であるための努力と責任を、学ぶことでしょう。飛び切り自由闊達な街で生まれ育った彼らには、自分の地平線をどこまでもどこまでも押し広げて行ってほしいものです。
  (左、名古屋大学、右、ハーバード大学。なんだか笑えます→)

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「マヨネーズ」
タイトルの「輝くクモの巣」はユーミンのアルバム「紅雀」に収録されている「地中海の感傷」からいただきました。バルセローナ、バルセローナ♪のボサノバ調のあの曲です。紅雀は大ヒット曲のない地味なアルバムですが、個人的には一番好きなというより、温の歳の頃に一番聞き込んだ思い出のアルバムです。

西蘭みこと 

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