「西蘭花通信」Vol.0569 経済編 〜不動産チャチャチャ:カーゴパンツ〜 2012年5月11日 「ここも母子家庭だ!」 夫が傍に来て囁きました。周りはキウイばかり、普通に話しても誰にも聞きとがめられることのない日本語なのに、小声になっているのがなんだか可笑しく、 「どうしてわかったの?」 と聞くと、さらに小さな声で、 「写真に男がいないんだ。」 と、まるで自分が抹消されたかのように、神妙な顔で答えました。 私たちは週末恒例になりつつあったオープンホーム(不動産の下見会)に来ていました。投資物件を探し始めて早1ヶ月以上経っていました。予算に合わせて2部屋物件ばかり見ていたのですが、見始めて早々にオーナーにしろテナントにしろ、かなりの確率で住人が母子家庭だということに気付きました。クリッシーもそんな1人でした。 (この話は〜不動産チャチャチャ:375ドル〜、 〜不動産チャチャチャ:375ドルU〜でどうぞ) (この家はすでに空き家でしたが、専門業者に生活感が出るように家具を入れてもらっていました。慣れると簡単に見分けられるようになります。本文とは関係ありません→) 私が水周りや日当たりをチェックしている間に、夫は壁や暖炉の上の家族の写真をチェックしていたようです。「いったい何を見に来ているのやら」と苦笑しながらも、不動産屋がオーナーのことを"She"(彼女)と言っていたので、合点がいきました。センスの良い人で、シンプルながらも家のあちこちに趣味の良さが感じられる演出がありました。キッチンを含め、内装工事も彼女が指揮を執ったそうです。 娘の部屋はたくさんの動物のぬいぐるみ、置物、ポスターで溢れていました。相当な動物好きのようで、かわいらしいイヌやネコだけでなく、アザラシからトラまでありとあらゆる動物が彼女の部屋に同居していました。自分で作ったのか、動物の写真ばかり切り抜いたコラージュもありました。夫のことを笑えないほど、つい見入ってしまいました。 「いい家だなぁ。ボクらが引っ越してきてもいいぐらいだ。」 何事にも前向きな夫が言いました。間取り、日当たり、立地、庭、どれをとってもそれまで見た家の中で最高でした。夫が言うように、初めて「住んでもいいかな」と思えるほど気に入った家でした。内装も完ぺきでペンキの塗り替えさえ必要ありません。もちろん、引越しの予定はありませんが、ふとそんなことが頭をかすめるほど条件が揃った家でした。 私たちがそう思うぐらいですから、多くの人がそう思うはずです。さらに小中高揃って人気校の学区という、私たちが勝手に呼んでいるところの「三冠王」でした。その割には売買金額の目安になるCV(Capital Value:各自治体が固定資産税の算出のために出している不動産評価額)が41万ドルと、驚くほど割安でした。 「これはオークションが過熱するだろうな。」 と思いました。 すっかり気に入り、私たちは翌週もオープンホームに出かけました。時間よりも早く着いてしまったので、外で不動産屋が来るのを待っていました。他にも若い女性が独り、階段の下に立って待っていました。その時、道の向こうに黒猫いるのが見えました。前回来た時、隣の家の庭から出てきて私たちの足に擦り寄ってきた猫でした。 「ニャー!」 と声を掛けると私たちに気付いて、猫は通りを渡ってきました。 「あっ、来た来た!」 と喜んでいると、猫は通りすぎていきました。 「あれっ?」 と思って、通り過ぎた猫を振り返ると、階段の下に立っていた若い女性の足元に擦り寄っています。彼女はラフなカーゴパンツを穿いていました。それは私が持っているのによく似ていました。 「私のところに来たのよ。」 と女性が言い、 「えっ?」 と思って顔を上げた瞬間、控え目な笑顔を浮かべた彼女と目が合いました。 「まぁ、大盛況ね。もうこんなにお客さんがいるなんて!」 その時、大きな声を出しながら、鍵をジャラジャラ言わせた中年の不動産屋がやってきました。いつの間にか、さらに数組が集まっていました。 「あの人、オーナーだったね。」 部屋に入ると、また夫が囁きました。 「どうしてわかったの?」 「写真に写ってるじゃん。」 またまた写真評。なるほど。 猫が「私のところに来た」と言った意味がわかりました。私は最初の印象で、てっきり隣の家の猫だと思っていましたが、よく見るとこの家にも猫ドアがあり、キッチンの片隅にはエサと水も用意されていました。あれだけ動物好きな娘がいるのですから、ペットがいるのもうなずけます。 「いい家だな。」 「そうね。」 「高いだろうな。」 「そうね。」 私たちの会話はそれで終わりました。条件は完ぺき。後は値段次第でした。 買えるかどうかは自分たちではなく、他人が決めること――これがオークションです。予算内で最高値をつけることができれば自分たちのものになりますが、値段が予算を突破した瞬間に誰かのものになってしまいます。 下見を終えて階段を降りると、猫もオーナーもいなくなっていました。通常、オープンホームの時は住人が外出しているので、こんなかたちであれオーナーに遭遇するのは珍しいことでした。 「買えるんだろうか?」 「ご縁があればね。」 私たちは一仕事終えたような気分でカフェに向かいました。(つづく) =========================================================================== 「マヨネーズ」 9月には大学進学のために名古屋へ行く長男・温(18歳)。こちらで大学に通いながらも、帰国の準備を進めています。昨日は本人が大好きなイクラを作る練習のため、筋子を買ってきました。NZはサケの養殖が盛んで筋子もキロ2,500円ぐらいとかなり割安です。 一緒にお湯の中でフリフリして袋から卵を外し、何度も何度もカスを取るために水を替え、塩、酒、昆布を加えて温のイクラ完成〜! 本当に日本でもやるでしょうか? 西蘭みこと ホームへ |