「西蘭花通信」Vol.0567   生活編 〜かわいい子には新聞配達をさせよU〜    2012年5月3日

私がフリーペーパーの配達に興味を持ったのには、「子どもたちのアルバイトにいいかな」というのと「自分の体力作りに」という2つの表向きの理由があったのは、前回お話したとおりですが、さらに突き詰めて言えば「家の近所の配達区域」という利権を確保しておきたかったからです。

子どもたちにいったん断られても、他のアルバイトができない年齢のうちは、「いずれやりたがるだろう」と踏んでいました。しかし、その時に家の近所で配達員の募集があるとは限りません。1区域で100軒以上あるので、その中には同年代の子がいる家庭が何軒かあるはずです。誰かが興味を持ってその利権を手に入れたら、それがいつ他人に渡るのかはその人次第です。ただ、当時13歳と10歳だった2人にはその件は話しませんでした。

子どもたちは自然に、利権の重要さに気付きました。配達を始めて1年ほど経ったとき、友だちでもある近所の少年が配達を始めました。この付近は我が家の2人ともう1人が担当しているので、少年は子どもの足で20分ほどかかる区域を担当することになりました。重い新聞をそこまで半分持って行き、残り半分を家に取りに帰って・・・という訳にはいかないので、母親に応援を頼み、新聞をクルマで担当区域まで運んでもらって配っていました。終わった後は20分かけて帰ってきます。このときに2人は「近所」のありがたみを理解しました。

2008年にリーマン・ショックが起き、NZもリセッションに突入すると、スーパーやファストフードで割りのいいアルバイトをしていた高校生たちが、軒並みリストラに遭いました。高校生になっても相変わらず新聞配達を続けていた長男・温(18歳)は、
「いいよな、ペーパーラン(新聞配達)は首にならなくて。」
と、何人もから皮肉られたそうです。報酬で比べたら、時給150円と850円は大違いですが、仕事がなくなれば850円は絵に描いた餅です。

子どもながらに「近所」「競争のなさ」という利権の持つ優位性を実感できたことは、貴重なことだと思いました。また、リセッションで広告出稿量が減少し、新聞のページ数が見る見る減っていったのも、「生きた経済」を勉強する機会でした。ヒト・モノ・カネの動きが鈍くなり、日本でバブル崩壊後に激減した「3K」(交際費、交通費、広告費)同様に、ここでも広告が減っていく様子をはっきりと理解することができました。

もちろん、その後の展開も「生きた経済」です。景気後退を脱すると徐々に広告出稿量も増え、ここ1年ぐらいは配達を始めた頃のように折込広告も入るようになりました。こうなると新聞の厚みはどんどん増し、同じ報酬で働く配達員には辛い時期となります。この尺度で言えば、新聞配達は景気悪化時には「勝ち組」、景気が改善すると「負け組」というわけです。競争のない安定には往々にして代償があることも、学んだことでしょう。        
(新聞の厚みで景気がわかる?→)

しかし、5年間の新聞配達を通じて一番培ったものは、根性だと思います。「巨人の星」の星飛雄馬が新聞少年だったように、今でも新聞配達は根性の代名詞だと思います。子どもたちが配るのは学校から帰ってからの日中で、週2回だけですが、それでも報酬をもらうための責任を自覚し、それを果たすのは自分しかいないことを体得したと思います。体調を崩したり、学校の活動があってできないときのみ私が手伝いましたが、それ以外は、配達を考えて日程を組み、宿題をこなしてきました。

大雨の日に、自分も新聞もずぶ濡れになったことが何度あったことか。夏は全身汗だくでゆでダコのようになり、終わるやいなやバスルームに飛び込んで行きます。風の日に配達した新聞が新聞受けから飛んでいってしまったらしく、「配達がない」と新聞社に苦情の電話が入ったことも何回かありました。

「なんでこんなゴミを配って歩いてるんだ!」
と怒鳴られたり、ご主人に、
「うちには入れるな!」
と言われた家を素通りしたら、
「どうしてうちに入れていかないの?」
と奥さんに文句を言われたり、子どもながらに世の中の理不尽を垣間見た事でしょう。配達中に温がイヌにお尻をかまれ、善(15歳)がハチに刺されたこともありました。

それでも2人は配達を続け、次々に起きる事に驚いたり、腹を立てたり、面白がったりしながらも、受け入れてきました。仕事とは人生とは、まさにそんなものでしょう。それはもう報酬のためだけでなく、仕事を引き受けていることへの責任のためであり、ひいては責任を果たそうとする自分のためなのです。そこまで行けば、全ては自分次第で、仕事に支配されるのではなく、自分と仕事の間に距離を置き冷静に見ることができるでしょう。

学校で現役の「新聞少年」(NZらしく少女の場合も)を発見すると相通ずるものがあるのか、意気投合する確率が高いようです。特に高校生になっても続けている子はある意味で達観しており(なにせ時給150円と850円の差ですから!)、話を聞いていてもユニークで独立独歩な子が多いようです。新聞配達を通じて、2人は学校でも家庭でも学ぶ事のできないことをたくさん吸収しました。

やはり、かわいい子には新聞配達をさせよ!

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「マヨネーズ」
子どもたちは報酬だけでなく有給休暇のありがたみも実感したようで、2人ともサラリーマン志望の強いこと!

20分ほどかかる区域を担当していた少年は近所のもう1区域を引き継ぎ、きょうだい3人で手分けして配達中。これも長期の利権になりそう?

西蘭みこと 

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