「西蘭花通信」Vol.0566   生活編 〜かわいい子には新聞配達をさせよ〜     2012年5月1日

NZではかなりの地域でフリーペーパーの配達があります。
「何ヶ月も行方不明になっていたペットが見つかった」
「○○小学校がクリーン&グリーンに力を入れている」
といった、地元の「ちょっといい話」風な話題を満載したタブロイド版の新聞です。新聞といっても収入源は100%広告ですから、実際はチラシの塊のようなものです。けれど、この国では新聞をとっている家庭の方が珍しいので、「無料の新聞」はけっこう人気があります。(ゴミ箱へ直行の家も多数あるでしょうが)

この新聞を配るのは子どもの仕事です。普通は小学校高学年から中学生ぐらいまでの子が配っています。高校になると、スーパーやファストフードなどもっと割りが良く、楽なアルバイトができるようになるので、暑い日も、寒い日も、雨の日も休めない、重くて、辛くて、報酬が激安な新聞配達は誰かが数年やっては、年下の誰かが受け継いでいきます。

西蘭家の子どもたちは2007年5月から新聞配達を始めました。今月で丸5年です。兄弟でやっているとはいえ、かなり長い方だと思います。発端は次男・善(現在15歳)の当時の仲良しだった、年上のマオリの男の子が配達をしていたことでした。善は彼が配達を終えて一緒にラグビーをするのが待ちきれず、「早く仕事が終わるように」と、ときどき一緒に配っていました。男の子が中学生になると、善と遊ぶ機会もなくなってしまいました。 (歳が違っても気が合った2人→)

ある日、フリーペーパーを読んでいるときに、近所で配達員を募集していることを知った私は、すぐに会社に電話を入れてみました。募集エリアは、まさにマオリの男の子が配っていた家の周辺で、その時初めて男の子が配達を辞めていたのを知りました。興味を持ったのは、「子どもたちのアルバイトにいいかな」と思ったのと、もしも子どもがやりたがらなければ、「自分の体力作りに」と思ったからでした。朝のジョギングだけでなく、なにかもっと肉体労働に近いようなことをしてみたかった時期で、報酬は度外視でした。

採用が決定したものの、大人の私では会社側が源泉徴収の手続きをしなければならず、電話の向こうの担当者は明らかに躊躇っていました。
「ティーンエイジャーのお子さんはいないの?子どもの名義にできないかしら?」
と聞かれ、当時13歳だった長男・温の名前で申し込むことになりました。

普通は1人が1区域(100軒超)を受け持つのですが、マオリの男の子は100軒に満たない小さい区域と一緒に2区域・約230軒を受け持っていたので、その両方を引き継ぐ事にしました。「大きい方は温に。小さい方は善に」と思ったのです。2区域を担当しても週2回で約10ドル(約650円)。1人1回150円ちょっとです。

子どもたちは母親の突拍子もない行動に、
「やだよ〜、ペーパーラン(新聞配達)なんて。」
と嫌がりました。
「ものは試しって言うじゃない。どうしてもできないときはママがやってあげるから。」
と勧め、渋々ながらも行かせてみました。マオリの男の子と一緒に回っているときは遊び半分で楽しんでいた善も、いざずっしりと重い配達袋を肩に掛けたときは、目に涙を浮かべていました。

配り終えた時は、さすがに2人ともホッとした表情でした。生まれて初めての労働。家のお手伝いとは訳が違います。私はその場で温に3ドル、善に2ドルを渡しました。労働の結果として報酬があることを実感してほしかったからです。
「よくがんばったわね。これは自分のお金だから大事にしなさい。使ってもいいし、貯めてもいいし。それもこれからは自分で考えるのよ。」

善はすぐに近所のデイリー(コンビニ代わりの小さな食料品店)に行って、1ドルで駄菓子をたくさん買ってきました。それまで買い食いなど1度もしたことがなかったのに、子どもというのはちゃんと知っているものです。
「1ドルでこんなに買えるの?」
と驚いてしまうほど、どぎつい色の身体にワルそうなもの(笑)をいろいろ買ってきて、それはそれは嬉しそうでした。温は使わないで貯めることにしました。

あの日以来、2人はずっと新聞配達を続けています。温は大学生になり、他に実入りのいいアルバイトがある今ですら、「運動不足にならないように」と土曜日だけですが、報酬度外視で1区域を配っています。約190cmの長身に、銀色の派手な配達袋を斜めに掛けて歩くアジア人の姿はかなり目立ちますが、5年も続けているので近所の人も見慣れていることでしょう。

善にしてみれば、毎月の小遣い以外の収入源がなく、月30ドルちょっとの収入は貴重です。善は数年前からアメリカのカードゲームにハマり、カードを集めてマニア同士で売買したり交換したり、大会に参加したりと、カード関係でかなりの出費があります。今では大会の賞金やカードの売買で小遣い以上の金額を稼ぎ出すこともあるようですが、新聞配達という「仕事があることの大切さ」は深く自覚しているようで、大雨でも、宿題が山のようにある日でも、文句も言わずに黙々と続けています。(つづく)

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「マヨネーズ」
まさかの、(つづく)。

新聞配達5周年で軽く書くはずだったのに、いろいろと書き留めておきたいこともあるのに気付きました。善は人生の3分の1を新聞配達に費やしていることになり(!) 「最初の頃はホントに重かった〜」 と、先日しみじみと言っていました。自分でも5年間でどれだけ大きくなったのかがわかるのでしょう。

西蘭みこと 

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