「西蘭花通信」Vol.0540   生活編   〜ブルースプリング・レポートVol.17:トンビの子〜        2011年5月19日

「あっ、そうだ。ママ、これ!」
と長男・温(17歳、13年生)が登校前に差し出した小さな紙。学校からのもので、
「やだ〜、何かの請求書の出し忘れ?」
と思って手に取ると、金字で"Annual Prizegiving Award"と印字された表彰状でした。日本語で言えば年間殊勲賞とでも言うところでしょうか。

驚いてよく見もせずに、
「何でとったの?」
と聞くと、
「エコノミクス(経済)。去年学年で1番だったんだ。」
「あら、そうなの?」

けっこう成績が良かったとは聞いていましたが、1番だったとは知りませんでした。学年一と言っても高校の科目はすべて選択制なので、学年全員が履修しているわけではありません。経済などあっても2クラスのはずで生徒数は50人前後と思われますが、それでも1番は1番、がんばったものです。

「これって去年のアニュアル・ディナーで渡されたんだけど、それってSAT(アメリカ版センター試験。温は帰国生枠での日本の大学受験を希望しており、受験に必要なSATを受験しています)の前の日だったから行かなかったじゃん?で、今頃になってくれたの。」
とニヤニヤ。アニュアル・ディナーとは学校がその年の学業やスポーツの最優秀生と家族を招待して(有料ですが)、フォーマルな式典兼夕食を催すものです。

(電話帳のようなSATの問題集。ほとんどアメリカから取り寄せています。これで日本の大学に行くって、なんだか不思議です→)


温は所属する水中ホッケー部が全国優勝を果たしたので行ったことがありますが、親は不参加。
「ご飯、不味かった〜」
と帰ってきたことがあったように記憶しています。その後も水中ホッケーで全国優勝したものの、温が参加したのかどうか記憶が曖昧です。いかに親がその手のものに興味がないか・・・(笑)

学校は西洋的というよりアングロサクソン的な価値観で優秀者を褒め称え、特別扱いすることで自尊心や責任感、リーダーシップを養い、保護者と生徒は特別な機会を与えてくれた学校に感謝と賞賛を送り、双方が延々と褒め合い、けっきょくは自画自賛・・・・・という、今までいろいろな機会で目にしてきた光景が続くと想像される場。社会の歯車の一つであることに価値を感じ、結果は「おまけ」ぐらいに考える私などには、どうもピンと来ない企画なのです。

そのトンビが産んだ子ですから、温もタカではなくトンビだったようで、「学校の意図」や「特別扱いの意味」を理解すると、その手のものにはほとんど興味を示さなくなってしまいました。学校も学校で、同じ価値観を共有して一緒に盛り上がらない者には興味がないようで、半年も経って忘れた頃に表彰状だけがポンと届いたというわけです。

17歳など、なにをしていても通過点でしかありません。1位だろうがビリだろうが毎日がどんどん過去になっていき、明日が、明後日が、来年が目の前に立ちはだかってきます。まるでコンピューターゲームの敵のように、倒しても倒しても「やるべき事」(時間と一体になった勉学や部活や社交の怪物)があちこちから襲いかかってきます。そのプレッシャーをバネにゲームを楽しめるようになれば、体力もあり頭も柔軟なこの時期、なかなか面白いでしょう。しかし、相手に飲まれたらゲームオーバーです。

温は10年生(日本の中3)ぐらいまでは水中ホッケー、歴史の授業、ヘビメタぐらいにしか興味を示さず、休みの日には友人宅に泊り込み、徹夜でコンピューターゲームに興じていました。しかし、11年生の終わりに突然「日本の学校に行きたい」と言い出してからは、毎日の生活がゲームに変わり、泊りがけの遊びは過去になってしまいました。
(この転換については、メルマガ「ブルースプリング・レポートVol.9:15歳の決心」でどうぞ)

新しいゲームでしとめたのが、カンタベリー大学の通信生という機会でした。12年生の経済の成績が認められ、この3月から半身だけ大学に迎えられました。これはNZによくある飛び級に近いもので、成績優秀者は数学や化学など特定の科目だけ1学年上の科目を履修することが認められています。(全科目飛び級の生徒もいます)

高3に当たる13年生の1学年上は大学なので、温は高校に在籍したまま大学の経済の授業を受けています。カンタベリー大学の場合、完全な飛び級ではなく通常の大学生が年間4つのペーパー(論文)を出すところ、2つのペーパーを出すことを求めています。すでに授業と受験の掛け持ちで時間的にギリギリな温にとり、この量は渡りに舟だったようです。

今頃の大学は受講も教授とのやり取りもメールだのスカイプだのインターネットを駆使し、地震の影響で始業が遅れたものの、その後は問題なくやっているようです。温の高校からは3人が入り、教科書代わりの書物を3人で共有しつつ、あれこれ相談しながら楽しそうに受講しています。一応、奨学生なので学費は大学と高校が折半してくれ、親の負担はゼロ! ありがたいです〜♪

日本の大学によってはNZの大学で取得した単位を認めてくれるところもあるそうで、「あわよくば」と温はそれも狙ってもいます。今や彼の日本行きの気持ちは揺るぎなく、地震も津波も放射能も、まったくお構いなしです。まぁ、この辺もトンビの母にそっくりで、周りが何を言おうが聞こえておらず、目標が決まったらひたすら、前へ前へ。残り半年となった高校生活をとことん楽しんでほしいものです。

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「マヨネーズ」
次男・善(14歳、10年生)も早くから経済を選択して、学校に2、3人しかいない経済の先生方の間では変わった名前のサイラン兄弟は周知なんだそうです。

西蘭みこと 

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