「西蘭花通信」Vol.0525   生活編   〜横車は押さないU〜                2010年9月2日

「これはお隣の話なんですね?」
大雨のたびにガレージ前が冠水する隣家の水が、自宅の敷地内にも流れ込んでくるのをこの目で見てしまい、茫然自失となった私は、翌朝すぐにオークランド市に電話を入れました。対応に出たインド系らしい女性は私の説明を聞くや、すぐに念を押しました。
「ええ。水が氾濫しているのは隣家です。その水がうちに流れ込んでいるのです。」
私は事実を伝えました。

「市としては私有地の問題には関与しないのですが・・・・」
「しかし、ストームウォーター(雨水)の管理は市の管轄ですよね?隣人は引っ越して来た時から、この問題があると言っています。市のストームウォーター・システムときちんとつながっていないのではないでしょうか?それを調べるのは市の仕事ではないのですか?」
「でも、冠水しているのは私有地なんですよね?」

苦情処理の受付の段階でこういう対応であるところをみると、後の展開は推して知るべしでした。けれど私としては、仲裁機関を探す前になんとか市が動いてくれないかと必死でした。
「では、どうしたらいいのでしょう?隣家の問題ですから私たちは何もできません。うちは2年前に離れを建て、その時に市の指示で問題のない母屋のストームウォーター・システムまで変えたというのに、問題のある家が放置されるんですか?」

「ちょっとお待ち下さい。あなたは隣家の問題をクレームしているのですね?」
もう一度念を押され、上司と相談でもしているのか話が中断しました。彼女は電話口に戻るや、
「分かりました。クレームを受付ます。クレーム番号は・・・・」
ということで、やっと苦情を受け付けてくれました。

数日以内に市の担当者が状況を見に行くとのことでした。その際に立ち会えるかどうか尋ねると、「お宅の問題ではないので」と婉曲に断られ、当のお隣にも声を掛けないということでした。プロが見れば、地中の下水管の問題を地表からでもわかるものなのでしょうか?素人にはお隣のガレージが「歩道よりも低い」というぐらいしかわからないのですが、とにかく担当者の訪問に賭けてみることにしました。

すぐにこの件を報告するべく、お隣に電話を入れましたが不在でした。十数年も放置している問題に、「隣人が動いてくれた」と感謝される可能性はゼロに近いのはわかっていましたが、少なくとも市が問題を究明してくれたら彼らも対処のしようがあるのでは、と思いました。ただし、問題の傷口を広げるようにコンクリートの面積を2倍にした後では、市が全額でも出してくれない限り(その可能性もゼロでしょうが)、彼らが対処を渋ることは容易に想像できました。ともあれと、留守電にメッセージを残しました。

夜になりお隣に煌々と灯りがともっても、留守電への返事はありませんでした。「市が見に来ると言っているのでぜひ電話をほしい」というメッセージは素通りされてしまいました。ある程度覚悟はしていたものの胸が塞がる思いで、隣の灯りを目にしながらの夕食作りは大変辛いものでした。

翌朝、お隣に電話を入れるとご主人が出ました。メッセージを残したことを告げると、「ああ」と曖昧な返事があり、それより市がいつ来るのか、何をするのかと、いろいろ質問されました。
「引っ越して来た時からこの問題があったことを告げて、市のストームウォーターときちんとつながっているのか確認してもらっては?ガレージは道より低い位置にあるし・・・」
と、こちらの方が対応を提案する羽目に。

ところが、
「この水は道から来るんじゃない。隣から来るんだ。」
と、お隣のご主人は話をややこしくするようなことを言い出し、頑なに敷地内に問題があることを認めようとしません。お隣のさらにお隣はハウジング・ニュージーランドと呼ばれる公共住宅局の物件です。仮に問題が隣からならば、ハウジング・ニュージーランドと話すべきですが、そういう対応をとったという話は聞いたことがありません。「水は隣から」と言った日には、市は喜んで「ではハウジング・ニュージーランドと話して下さい」と引き下がることでしょう。やっとクレーム番号を取り、呼び出しに成功したというのに!

「水がどこから来るにしても、私たちにとってこれはお宅の問題で、何もできないのはおわかりでしょう? でも、ちょっとした雨が降るたびに庭にストリーム(小川)ができるのを放っておけないので・・・・」 と言いかけると、
「水がどこから来るかって?空から来るに決まってるじゃないか。そうさ、水は空から来るんだ!」
逆切れでした。この時点で彼は完全に怒鳴っており、私は受話器を耳から放しつつ、
「わかったわ。これ以上何も言うことはないので、電話を切るわね。」
と、静かに言いました。

受話器を戻しに隣の部屋に移動する間も怒声が響き、受話器を置いた途端、部屋がシ―――ンとするようでした。仕事をしていた夫は一言、「ご苦労さん」と労ってくれました。
ややこしい相手は大声を出して蹴散らせ―――
これまでの成功体験が彼をそうさせるのでしょう。思いがけず怒鳴られたことで、家族はもちろん、身の回りにも大声を出す人がいないことに気付き、心から感謝しました。
(つづく)

(大雨が降るとこの通路がストリームになります(涙)→
そういうのは困るニャン・・・)


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「マヨネーズ」
去年の6月以来、最低でも月1本は更新してきたのに、8月は更新が1本もなく、かなり残念(涙) 
その分、9月はがんばろうと思います!引き続きお付き合いを。

西蘭みこと 

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