「西蘭花通信」Vol.0504  生活編  〜ブルースプリング・レポートVol.10:漫画の青春〜            2010年2月2日

降って湧いたような長男・温(15歳)の「ニッポンお留学」。急きょ3人で話し合った家族会議の中、温は質問の嵐に見舞われました。
「どうして急に?」
「高校ではなく大学を検討していたんじゃないのか?」
「水中ホッケーはもういいの?」
「おばあちゃんと一緒に住むって、本当にやっていける?」
等々、親としては聞きたいことが山のようでした。

一番知りたかったのは「日本に行って何がしたいのか」ということでした。 その答えは、
「学ラン着て、部活やって、電車で通学したい。」
という、腰が抜けるような内容でした。
「がっ、学ラン?」
あまりに突拍子もない答えに絶句する親。二の句が告げないとはまさにこのことでした。正直、「そんなことのために日本へ行きたいの?」と聞き返しそうになりましたが、海外で生まれ育った息子にしてみれば、こうしたことが高校生の象徴に見えるのでしょう。確かに学ランなど、高校卒業後は一生縁のないものです。

「水中ホッケーはどうするの?17歳以下NZ代表の選抜候補になっているんだから、選ばれたらポルトガルの大会に行くんでしょう?」
「あれはもういい。選ばれても行かないつもりだった。8,000ドル(約55万円)ぐらいかかるらしいし。そんなことにお金を使うより日本で勉強するのに使いたい。」
と、答えは明白でした。三度の飯より好きだった水中ホッケーも日本行きの前にはまったく霞んでしまいました。

しかし、高校の部で2年連続全国優勝を果たした水中ホッケーは、通っている高校(実質的な中高一貫校)の部活動に相当します。「どうして今さら日本で部活?」というのは素朴な疑問でした。通学もNZで一般的な親の送迎によるマイカー通学ではなく、バス通学をしています。電車かバスかの違いはあっても公共の交通機関を使っての通学には変わりありません。NZでかなわないのは学ランを着ることぐらいのはずですが、本人にすれば「日本の部活がしたい」、「電車とバスは大違い」ということらしいのです。

高校生活の細部への執着の背後に漫画の存在があったことは間違いないでしょう。日本の生活をほとんど知らない身にとって、漫画はその片鱗を次々に見せてくれる格好の源でした。昨年以降、学校で漫画好きの日本人の友だちとよく話をするようになってからは、温の漫画好きに一層弾みがついていました。最近ではその友だちの勧めでとうとう少女漫画も読むようになり、「僕の初恋をキミに捧ぐ」など私でも知っているタイトルを口にするようになりました。(勧めてくれた友だちも男子生徒です!)

今でこそ全く読みませんが、かつての私も大の漫画好き。小中学校の頃は「別マ」(「月刊別冊マーガレット」のこと)をそれこそ暗記するぐらい読み込んでいました。30年以上経った今でも、ザラ紙の上に描線だけで描かれた世界の、忘れがたいシーンをいくつも思い起こせるほどです。感受性の強い時期に浴びるように受けた感動はいつまでも心の底にあり、その後の人格形成や価値観に大きく影響したと言い切ることができます。同じ経験を息子がしているとしたら、親としてどうして否定することができましょう。

そもそも西蘭家は子どもが小さいときから漫画大奨励一家でした。
「漫画なんか読んでないで勉強しなさい。」
などと言ったことは一度としてありません。
「漫画はどんどん読みなさい。でも宿題だけはやりなさい。」
と言うだけで、ベッドでゴロゴロ漫画を読んでいても宿題さえ終わっていればOKな家でした。

息子たちにとり漫画は日本語を読む数少ない機会であり、私にとっては日本的な価値観(公平さや正義感、人間性など海外のコミックブックにはない独特の世界があると思っています)を理解してもらう、これまた貴重な機会でした。 どうやら温はそれが高じて、漫画を通じて日本の生活や日本人の考え方など、もっともっと深く幅広いものを身につけていったようでした。

「お受験」が決定するやすぐに始めた小論文の練習の中でも、日本へ旅行に行っても旅先で知るのはその地の歴史や文化であり、高校生の普通の生活は漫画で知ったと、温は素直に記していました。一緒に旅行をしていても親とは目線も予備知識も違い、子どもには子どもなりの「ディスカバー・ジャパン」(古いですが)があったようです。

「日本へ行ったら大変よ。何もかも日本語で、英語ができるアドバンテージよりも日本語ができないディスアドバンテージの方が遥かに遥かに大きいのがわかる?英語ができても訳を書くテストだったら、日本語ができない人は零点なのよ。おばあちゃんと一緒に住むといっても、おばあちゃんは今年76歳。卒業するときには78歳よ。置いてくれるだけでもありがたいんだから、朝ご飯やお弁当作りは自分でするのよ。できると思う?」

温はすべて覚悟の上でした。「できるかできないか」という問いかけの段階はとうに過ぎ、「やるっきゃない」という答えの段階にいました。
「日本に行って漫画に出てくるような青春しよう、ってことか。」
家族会議の後、夫婦で導き出した答えはそれでした。きっかけと動機はともあれ、本人の固い意志は揺るぎなく、親として全力で支援することにしました。(つづく)


(帰国して早々の雪。母子で大喜びでした。
雪になってもあまり寒さを感じないマンションの機密性にビックリ〜)


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「マヨネーズ」
「(海外に比べて)日本はクレジットカードが使えない」
と肝に銘じていたはずなのに、ふと温と入った大手カレーチェーンの店でクレジットカードを断られ、真っ青!前夜にいろいろ立替払いをしてくれていた義母に現金を渡してしまい、お財布は空っぽ。おまけにキャッシュカードまで家に置いてきてしまったという二重のマヌケぶり!

生涯初の無銭飲食(涙)
しかも、息子と。

2駅隣の家まで戻り、再び出直して無事支払い完了。あまりに疲れてカフェで一息。高いカレーになりました。

西蘭みこと 

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