「西蘭花通信」Vol.0489  生活編  〜ブルースプリング・レポートVol.2:キャリア・エキスポU〜         2009年8月31日

長男・温(15歳)が通っている高校で開かれた「キャリア・エキスポ」(進路相談会)に出かけた本人と私。興味はあっても取っ掛かりのないまま会場をウロウロするばかりのおっとり系の温を、背中を押すどころか蹴りを入れんばかりにけしかけると、
「そうかぁ!」
と実にあっさり人気(ひとけ)の少ないブースに向かいました。おっとりでも素直なので、なにかあっても挽回しやすい性格とも言えます´。`A

私はこういう場面で付き添ったりはしません。所詮は彼の将来、自分で調べて、悩んで、決めたらいいと思っています。その過程で相談を受けたらいつでも喜んで相手をしますが、それ以上に親の影響力を行使したくはないのです。特に温は誰に似たのか、目上の人に導かれることを好む一方、年下の面倒も良く見るタテ社会型人間で、独立独歩の次男・善(12歳)とは性格がまったく異なります。親が「この大学のこの学部なんかどう?」とやんわり誘導していったら、まんまと乗ってしまうようなところがあるので要注意です。

お互い別行動をしているうちに、とある大学のブースの前で鉢合わせしました。
「ママ、コマース(商学部)とエコノミクス(経済学部)ってどこが違うの?この大学ってコマースの中にエコノミクスがあるんだけど。」
と聞いてきました。ほほぉ〜。経済系に興味あり?カエルの子はカエル?
「学校によって名前や分け方はいろいろなんじゃない? 多分、1年生のときにマクロ経済とかアカウンティング(会計)とかスタティスティクス(統計)とかいろいろやって、その後でメジャー(専門)を決めてくんじゃないの?」

確認すると確かにその大学の商学部は最初に6、7科目を選び、その後専門学科を絞っていくようでした。
「ビジネス・マネジメントとかもあるんだ〜」
と、もらったパンフレットをのぞき込んでいる温。そっ、そういう方向に進みたかったんだっけぇ@@? この催しに来なければ、親どころか本人も気付かなかったであろう意外な興味にやや驚きながらも、「これぞ百聞は一見にしかず!」と内心、拍手。そうそう、自分の将来は自分で掴むのさ!

再び温と別れて1人で見て回っていると、恰幅のいい50代と思しき大柄な男性が入り口付近で、
「ビルダー
(「大工」のことながらNZでは写真のように建設労働者全般を含んでいるようです)にならないか?」
と、通り過ぎる生徒に呼びかけています。今しも会場に入って来た親子に、
「ビルダーにならないかい?」
と声をかけると、
「考えておくわ。」
と小柄な女子生徒が答え、母親とクスクス笑いながら行ってしまいました。男性は、
「その気になったらいつでも聞いてくれよー。」
と言うと、怯むことなく別の生徒にアタック!

そのうち、学生かばんを背負い金髪をきちんと刈り込んだ見るからに真面目そうな男子生徒とその父親らしい男性が現れ、熱心に話を聞いています。この国は西洋社会らしくホワイトカラーとブルーカラーの線引きが明確で、親がブルーカラーだとその子どもも同じ道を歩む可能性が高く、日本やアジア諸国のように親の学歴や職業を問わず、子どもに大学進学を望む傾向が強いのとは異なる文化的風土があります。酪農家にしろ大工にしろ自営業者が多いこともあり、子どもに跡を継がせることも一般的で、親の背中を見て育った子どもも家業を継ぐつもりでいる場合が多いようです。

そうこうするうち熱心な親子に代わり、ロン毛のひょろ〜とした男子生徒2人が話を聞き始めました。男性が身振り手振りで自信満々に説明している前で、後姿しか見えない細身の2人はほとんど棒立ちでした。アウトドアよりもインドア、のこぎりよりエレキギターの方が似合いそうな彼らは本当に大工に興味があるのか、単に呼び止められて引っ込みがつかなくなっているのか?

「あれっ?ケントとクラークじゃん。」
いつの間にか傍に来ていた温が言いました。
「友だちなの?あんなひょろ〜っとしたコが大工になるの?」
「あぁ、あの2人は真剣だよ。ケントはパパもビルダーだし。」
「そっ、そうなの〜っ@@?」
ここに来てから驚くことばかりです。

冷やかしで温も2人に混じると男性はますます意気揚々と話し出し、さらに人が集まってちょっとした人垣ができました。途中で抜け出してきた温がケタケタ笑いながら、
「ママ、あの人、口だけだよ。」
と、わかったようなわからないような事を言っています。温の第一言語は英語ですが、「口だけ」(マウス・オンリー)は英語に直訳してもニュアンスが伝わるので、最近やたらにこの言葉を使いたがります。

「"ビルダーはいいぞ。1日中アウトドアでフレッシュエアー(新鮮な空気)を吸って太陽を浴びてヘルシー(健康的)だ。これ以上ほしいものがあるか?"って言ってたよ。」
「・・・・・・・@@!」

「クラークが"ペイライズ(昇給)"って答えたら、おじさん黙っちゃったけど。」
「・・・・・・・@@!!!」

本当にここでは驚くことばかりです。

そうこうするうちに知り合いのデンマーク人親子に会いました。(つづく)

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「マヨネーズ」
西蘭家は家庭内での日本語を徹底しているので、兄弟間はとっくに英語ですが、親子間は日本語で話しています。香港生まれの息子たちは第一言語が英語なので、込み入った話になると英単語を「てにをは」でつなぐだけか、「やっぱりいいや」と会話を打ち切ろうとします。

そこを頑として限られた語彙で説明させるのは、なかなか根気が要ります。勢い上述のように、かなりの会話がカタカナ英語混じりになってしまうのは妥協の産物です。2人にはいつまでも、2つの言語と文化を跨いで生きて行ってほしいものです。

西蘭みこと

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