「西蘭花通信」Vol.0485  NZ・経済編  〜クールビジネスU〜              2009年6月18日

5月28日、2009年度ニュージーランド予算案が発表されました。予算案発表は英連邦諸国では毎年お馴染みの光景で、財務相が自分で上梓した予算案を恭しく国会に提出し、その後、議員全員の前で原文を延々と読み上げます。旧英国植民地・香港も同じでした。国家予算などニッポン人にとっては遠くて地味な存在に思われるでしょうが、英連邦では様子が違います。ここでいきなり増税や減税が発表されたりもするので、要注意なのです。

さてさて今から5ヶ月前に配信した「クールビジネス」。もうお忘れでしょうが(笑ゞ)、アメリカの、格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が「NZのアウトルックを『ネガティブ』に引き下げた」という話でした。格付けは国や企業の信用をランキングにしたもの。その見通しが「ネガティブ」ってことは
「格下げしちゃうかもよ〜」
と警告されたも同然。しかもS&Pはその猶予期限を「5月の予算案」ときっちり示していました。
さぁ〜、どーする、イングリッシュ財務相?

「どーもこーもないでしょ!格下げされたら対外債務(外国からの借金)の金利にガツンとハネ返るし、借り換えも難しくなる。そうなったら借金で回るNZの一大事。ここは何としても阻止しないと!」
と財務相が言ったかどうかは知りませんが、かーなーりー格付けを意識していたのはアリアリです。
        (国会で予算案を読み上げるイングリッシュ財務相→)

なんたって予算案発表の2日前に、政府がS&Pに内容の概略を説明しちゃったと言うんだから、ただ事じゃありません@@;

野党労働党のゴフ党首が、
「国民より先に外国の格付け機関が国家予算の内容を知ることができるとは、なにごとかぁぁあ!」
と、噛み付いてましたが、コレごもっとも。

ここからはまったくの個人的な見解ですが、今回の予算の優先順位は、
1)格付け機関、
2)閣外協力を受けている小党、
3)国民ではなかったかと。

1) に対しても強〜い意気込みというより、「これぐらいやっておけば大丈夫じゃないかな〜的」な印象で、相手の顔色見い見いな感じ。実際、政府は「格下げはないもののアウトルックは『ネガティブ』に据え置かれる」と事前に予想していたくらいで、現状維持なら御の字でした。

2)は「警察官の600人増員」(アクト党向け)、「18万戸を対象に暖房の拡充」(緑の党向け)と、ちーまい政策が五月雨式に出てきましたよ〜。「財政赤字だというのに、こんなに経済効果のはっきりしないものに税金を使ってもいいの?」と首を傾げつつ、うちも対象家屋に入るので利用できるものはガッツリ利用させてもらおうと思ってますが(笑)

で、最後に国民。選挙公約で「3年連続の減税」をブチ上げていながら、やっぱりというか当然というか2年目以降は無期延期に┐(  ̄ー ̄)┌ 「1930年代以来の世界同時不況」といつもの枕言葉がありましたが、肝心の不況対策が今回もありませんでしたぁ〜!!「クールビジネス」でも「キー首相の施政方針演説を全文読んでみましたが、やっぱりナイんですよ、不況脱出のロードマップが」と言ってましたが、今回も見当たりませんでした。

危機的状況にある公共医療に追加支出で「財政出動?」
警官増やして「雇用対策?」
政府の補助金で暖房器具買わせて「消費喚起?」
うーん、ナゾ!

「歴史的な不況は知らんぷりで乗り切れ!」なんでしょうか?悪化した景気はいつか必ず回復しますから、待つのも一手です。しかし、病状と一緒で快復させたいのなら、できる限り悪化させない方がいいと思うのですが・・・。まぁ、この辺はいろいろな意見もあるでしょうし、景気対策をやったからといって必ず効果が出るわけでもないので、これ以上の言及は控えましょう。

しかし、私が一番
「えぇぇぇえ!」となったのが、国が全面的に支給している年金の積立基金に対して、「積み立てを11年間凍結する」という話でした。今回の予算で11年という長いスパンの話が出たのは、これだけだったと記憶しています。そんな先のことを今の段階で断言できるとは、どーゆーこと?!「財政赤字脱出までに10年かかるだろうから、その間は見送り」という理由ではありますが、11年と言い切ってしまうのが、なんとも妙!

超〜個人的な感想ですが、これこそがS&Pへの切り札だったんじゃないでしょうか? できっこない追加減税を見送ったことなど、たいしたインパクトはないはず。しかし、年金の積み立てを長期間停止することは時間の問題で制度そのものを見直さなくてはならなくなり、結果的に支給年齢の引き上げや支給額の減額ということになるでしょう。これは「老後は政府の年金で」という長い間の「キウイの常識」を根底から覆すことにもなりかねません。しかし、高齢化する社会を国が永遠に丸抱えできない以上、歩むべき道です。

S&Pは予算案が発表されたその日に、格下げどころか、アウトルックを「ネガティブ」から「安定的」に引き上げました。これは政府予想以上の結果でイングリッシュ財務相も素直に驚き、喜んでいました。額面通りに受け止めれば、この程度の内容でアウトルック引き上げは"Not so cool"と言わざるを得ませんが、私の深読みが当たらずとも遠からずであれば、彼らがNZに対して懸念していた「経済政策の柔軟性」を"外圧で"広げたことになり、「クールビジネス」だったことになります。

さぁ、結果はいかに?

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「マヨネーズ」
予算案ライブの様子はブログでもご紹介したので、よかったらコチラでどうぞ。

私の場合、年金受給資格まであと17年8ヶ月。今の受給条件である65歳から、年間14,000ドル(約85万円、夫婦同居の場合
)が満額もらえるなど、これっぽっちも思っていません。移民を受け入れているNZの高齢化は今後ますます深刻化するでしょう。自分の老後は自分の手で。この国も普通の国に向っています。

西蘭みこと

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