「西蘭花通信」Vol.0477  NZ・経済編  〜0.60U〜                  2008年12月21日

米国のゼロ金利導入を受け、非常にテクニカルな印象ながら NZドルは1 NZドル=0.52〜0.55米ドルのボックス圏を上抜け0.60米ドルを回復しました。しかし、抵抗線としての0.60米ドルの強さをここ5年間近く身をもって体験してきた私は、「ここで上値の重さを確認して新たな下げに転じる」と判断しました。ご存知の通り、抵抗線とは下値の支持にもなりますが上値の天井にもなります。

NZドルは2004年5月、2006年3月と2回ここで支えられた後、もう1度ここを試しそれ以降は2008年3月に大天井を打つまで、2度と0.60をうかがうことはありませんでした。2回目の0.60割れでの腰の入った買い方に度肝を抜かれた私は、いったん見限ったNZドルを0.60割れで買い戻すことにしました。

マクロ重視の私にとりブル(強気)/ベア(弱気)の転換点など5年に1度あるかないかで、為替のポジションを変えるのもそのタイミングに合わせてなので、滅多なことでは立場を変えません。ですから1年未満でポジションを逆転させるなど考えてもいませんでした。状況をより正確に言えば、
「マクロでは『売り』、テクニカルでは『買い』」
と言うべきところでキウイ・ベアは健在でした。ただし、「見逃すに忍びないほど大きなテクニカルの買い場」だと感じたのです。こういう時の変わり身の速さはディーリングルームで鍛えられた賜物でしょう。返す返すも給料をもらいつつ貴重な体験をさせてもらったものです。

2回目のNZドルの急落は、後に「マクロ要因ではなく3月末の期末要因だった」という見方が定着しました。期末には益が出ているものでも他での損を相殺するために売られることがあります。2001年以降の5年間、事実上どこで買っていても含み益が出ているはずのNZドルは(為替差益だけでなく、もれなく高金利もついて来たわけですから)、海外勢の「益出し」の対象にはピッタリでした。
「となれば、次は6月!」
と、私は見ていました。企業にとってもファンドにとっても四半期末、ましてや上半期末は重要です。

落札失敗後、私たちは新たな家に出会い、購入に向けた交渉でしばらく忙しくしていたため、為替の件は一頓挫していました。しかし、5月に購入を最終決定するやNZドル買いが差し迫った問題になってきました。残金の支払い期日は7月初旬。自分の勘を信じれば6月末を待つことができます。けれどこういう時は安全第一。NZドルが比較的安値での小動きだったこともあり、平均0.62〜0.63米ドルで家一軒分のNZドルを買いました。0.70超で売っていたので13%ほど安く買い戻した計算になります。その上、落札に失敗した家よりさらに気に入った家と出会うことができ、それ以上望む事はありませんでした。

果たしてNZドルは6月末直前に再々度0.60米ドルを割り込みました!そのときには必要額以上の為替が終了しており(残金は後日、庭に建てた離れの建設費用の一部に充当)、3月末の時点で、
「次に0.60を割ったら手持ちの資金全部でNZドルを買おう!」
と心積もりしていたことはほぼ達成されました。3回目の0.60米ドル割れにも旺盛な買いが入り、その後35%上昇し2008年3月に0.82米ドルをつけたところで歴史的な大相場が終焉しました。

そこからは0.52米ドルへとまさに急転直下のきりもみ状態となり、0.60米ドルは単なる通過点でしかありませんでした。3回もかけて防衛したラインですから、NZドルが反転しても簡単には突破できないと見ています。今や天井となったこの水準に、本格的に挑む日は必ずまた来ます。ただし、もっと下値で値固めをしてからの挑戦となり、相当時間がかかるのではないかと現実的に考えています。どんな相場にも必ず周期があります。落日もありますが陽はまた上ります。これもまたディーリングルームで学んだ教訓です。

舛添要一厚労相は12月12日、「失業率が過去最悪の5.5%を上回り、100万人を超す失業者が新たに発生する恐れがある」と発言しました。ほぼ同時期にNZ財務省が発表した見通しによれば、向こう15ヶ月の間に新たに6万8千人が失職し、世界的な景気後退が一段と進めばそれが8万7千人にまで拡大する可能性があるそうです。その結果、2010年の失業率予想は6.4〜7.2%と現在の4.2%から最大で3ポイント悪化する見通しです。人口1.3億人の100万人は0.7%ですが、人口430万人の7、8万人は1.5〜2%に達し痛みのほどが想像されます。

いずれにしてもこの手の数字は政府の"期待値込み"でしょうから、実際は彼らが「最悪」と定めているところをさらに突き抜けた辺りと予想していれば、現実とのブレが少ないのではないかと思います。NZ政府は現在、2010年あたりを最悪期と見据えているようで、NZドルが再び0.60を力強く上抜ける日はもうちょっと先のようです。執筆し終わった時点でのNZドルは0.57米ドルで週末入りしたところです。
皆さまも良い週末を。(完)

(「ビーハイブ」(蜂の巣)の愛称で親しまれる内閣府ビルはすでに豪州資本の手に渡っており、NZ政府は入居している店子です。今回の不況で新たに国の資産が外資に売り渡されないようにと願っています→)

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「マヨネーズ」
連載「キウイ・ベアの冬支度」の時は「経済にご興味のない方にも身近なところで景気悪化の足音(聞こえませんが)に耳を済ませてもらえればな〜」と、モヤシなど登場して一にも二にもわかりやすさを追求したのですが、今回は細かいところはサクット丸めさせていただきました。なので「抵抗線?」「テクニカル?」「それと失業率がどうかした?」という疑問のある方も多いかと思いますが、あいすみません。

私たちの家は米ドル基準で考えれば今年3月時点で約30%値上がりしていて、物件価格自体も若干上昇したので買値に対し4割ぐらいの"含み益"が出ていた計算になりますが、8ヵ月後の現在2割近い"含み損"を抱えています。損益ともに確定しない限りは絵に描いた餅かゴミ!絵に描いたものを現金化してしまい、含み益を担保に一般個人にローンを出すなど金融機関の陰謀に思えるのは私だけでしょうか?

西蘭みこと

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