「西蘭花通信」Vol.0467 生活編 〜おいしい朝〜 2008年11月8日 その日はチャリティーショップでのボランティアに行く日でした。朝イチで片付けなくてはいけない仕事がある私は、毎朝かなりバタバタしています。仕事が早く済めば電車(本当は電化されていないのでディーゼル車)で行きますが、押せ押せになってしまったり、夫も出かけるときはクルマで送ってもらいます。その日はギリギリながら電車で行くことにしました。駅は徒歩圏内です。百万人都市といえどもニュージーランドの駅はプラットホームの付いたバス停のようなもので、無人駅なのはもちろん日中など乗客がいないこともしばしばです。 出勤時間を過ぎていだので案の定、ホームには誰もいませんでした。 人目がないのをいいことに鳥のさえずりを聞きながら、軽くヨガのポーズでストレッチをしていると、ブルカ(イスラムのベール)を被った60代と思しき女性がホームにやってきました。目が合ったところで「ハイ」と軽く会釈をすると、 「イッツ・グッド?(それっていいの?)」 といきなり聞かれました。 どうやらストレッチのことを言っているようです。 「イッツ・ベリー・グッド」 と答えながら「血行が良くなるし」と付け加えると、 「ブラッド(血)?」 とやや大仰な反応。 慌てて胸の前で何回か手を回し、 「ブラッド・サーキュレーション(血行)。血が出るんじゃなくて、そのう、血が回ることなんだけど・・・」 と言い添えると、彼女も、 「オー、ブラッド、ブラッド」 と言いながら一緒に胸の前で手を回しています。なんとなく通じた様子。 「ヒア、ペイン(ここ、痛い)」 今後は突然、左手の人差し指の指先を指して痛みを訴えてきました。私の知る限りヨガのポーズで指先の痛みに対処するのは無理なので、ヨガの先生から教わったばかりの仁心術(日本発米国育ちの手技療法、らしいです)の一つで、 「頭痛など軽い痛みには人差し指を引っ張る」 というのがあったのを思い出し、彼女の指に触れ痛いかどうか尋ねてから軽く引っ張ってみました。 バランスをとるために右手の人差し指も引っ張ろうとすると、「ノー・ぺイン」と断られそうになりました。ヨガはなんでも左右とも行い片方だけというものはありません。身体の中の気(エネルギー)の流れを重んじるからです。再び胸の前で手を回し「ブラッド」と言うと、わかってくれました。 ひどい痛みではなさそうだったので(むしろ痺れか?)、親指と人差し指の股も軽く押してみました。ここがパンパンに凝っているようであれば問題ですが、それほどでもなく左右の違いもありませんでした。次に手の甲の4本の骨の間を骨に沿って軽く指圧してみました。彼女は私に左手を預けたまま神妙にしています。まるで医者にでもかかっているかのようです。当然ですが私には何の医療知識もなく知っている方法もここまででした。 そのときゴトゴトと音だけ大きな2両編成の電車がホームに入ってきました。2人とも隣の駅まで行くところだったので一緒に乗り、私はマッサージを続けました。 「指先は心臓から最も遠いところの一つだから血行が悪くなりやすいの。ほら、あなたの手、とても冷たいでしょう?血行が良くなるともっと温かくなるはず。こうやってマッサージをしたり、指を思い切り開いたり閉じたりして、少しでもブラッドの流れを良くしてあげたらどうかしら?」 ごく一般的な話でしたが、彼女には新鮮だったようで、うんうんうなずいています。 電車を降りると、 「テレホンナンバー?」 と電話番号を尋ねられ、差し出されたノートに書くと、 「ワーキング?ホーム?」 と聞かれ、 「ホーム!」 と笑って答えると、 「ミー・ホーム、ホーム」 と自分も家にいると言っているようでした。 「これからどこへ行くの?」 と聞いてみると、 「チャーチ(教会)」 と言うではないですか! 「えぇぇ?クリスチャンなの?」 と驚いて尋ねると、 「アイム・ムスリム」 と憮然とした表情。そりゃ、そうでした。ブルカを被ったクリスチャンって?教会で友だちと待ち合わせているんだそうです。おおらか(笑) 彼女はパキスタンから来たそうで、そういえばブルカを被った若い女性をたまに近所で見かけることを思い出し、 「娘さんがいる?」 と聞いてみると、 「12年」 という答え。 (ブルカの少女たち。カルチュラル・フェスティバルにて→) 彼女に12歳の娘がいるとは思えず一瞬戸惑いましたが、すぐに「移住してきて12年」なのだろうと察しがつきました。これまで幾度となく初対面の人に、「どこから来たの?」の後に「いつ来たの?」と立て続けに聞かれてきたのでしょう。質問はともかく、彼女の中で2回目の答えは「12年」と決まっていたようです。 せいぜい20分ほどながら、なんともほのぼのとしたひと時で、おいしい朝でした。伝えた方法で指先の痛みが和らぐのかどうかはまったくわからないものの、どれも害にはならないでしょうから知っていても悪くはないはず。彼女は並んで歩いているときも盛んに親指と人差し指の股をマッサージしていました。本当に電話があるかどうかはわかりませんが、かかってきたらぜひ聞いてみましょう、娘さんがいるかどうか。 =========================================================================== 「マヨネーズ」 「うぅ〜む、(つづく)にしちゃって大丈夫なんだろうか・・・」と思いつつ(つづく) ・・・にしてしまったのが今年の5月。本人も驚く半年振りのご無沙汰というか放置でした。 本当にすみません。 その間、裏庭に建てていた離れが完成したり、 記録的なサイクロンに襲われたビルマ(ミャンマー)の被災者への支援を始めたり、 香港時代のお手伝いさんジーナが3週間遊びに来たり、 香港と日本に3週間ばかり里帰りしていたり、 大切な友人を失ったりと、 ささやかな毎日といえどもいろいろなことがありました。 世界的な金融危機でこれからは仕事も減っていきそうなので(笑)、ブログの更新ばかりでなく、ぜひ時間を見つけてメルマガの更新も続けていきたいと思っています。大変不定期ではありますが、よろしかったらお付き合いください。 この間にホームーページにあった「掲示板@西蘭家」はこうした事情で閉鎖させていただきました。長い間のご愛顧ありがとうございました。 西蘭みこと ホームへ |