「西蘭花通信」Vol.0463  生活編  〜離れの完成に寄せて〜      2008年4月22日

西蘭家は昨年8月末に築40年のクルマ2台分のガレージを取り壊して以来、クルマ1台分のガレージに3部屋を付けた離れを建築してきました。それがこの週末、やっと完成しました。3部屋といってもバス・トイレ付きの大きな部屋が1つあるだけで、あとは小部屋で私のクラフトルーム(早くも物置化していますが><;)とランドリールームという構成で、大きさは前のガレージを一回り大きくした程度です。

たったこれだけの工事に8ヶ月近くも費やすなど、他の国では考えられないかもしれませんが、これにはいくつか事情があります。まず、最終的に選んだ中国人の建築士サリー(仮名)がかなり破格で引き受けてくれたので、私は彼女を急かさないことにしました。中華圏に20年もいた身ですから、公私ともに親しくなり彼らが他で抱えている工事、その状況なども明け透けで、
「こういう事情だからワルいけど、あっちの工事を優先させて!」
と誠意を持って言われれば、「没問題(大丈夫よ)」とあっさり答えていました。

その間に愛猫のピッピが亡くなり、サリーの最愛の"おばあちゃん"も100歳で亡くなり、そのたびにお互い肩を抱き合って泣きました。サリーが旅行のお土産に、娘と自分と私と3人お揃いでGUESSのウエストポーチを買ってくるかと思えば、「帰っても食べるものがな〜い!」と言うサリーに焼き立てのパンを持たせて返すなど、業者のような友だちのようなビミョーな関係が続き、工事の進行が彼女の忙しさに左右されたのは事実です。

特に目的があって建設していたわけでもローンがあるわけでもないので、工事の遅れは私たちに大きく影響しませんでした。影響があるとすればむしろサリーの方です。工期の区切りごとに分割で支払いをするため、遅れれば遅れるほど材料費、下請への支払いが彼女の負担になってきます。しかも昨今のこのインフレ。彼女が30万円で見積もりを出したものに対し、数ヶ月後に納品業者から43万円を請求されたこともありました。契約には価格も含まれているので彼女はこれを呑みました。天晴れなプロ根性です。

工事を進めていく過程で私たちの意向が変わったり、予期せぬことが起きたりもしましたが、そのたびにとことん話し合い、お互いへの信頼と友情を信じることにしました。サリーは頭が下がるほど努力してくれ、奔走してくれ、指示してくれました。

「カーペットは絶対純毛。」
「敷石じゃなくてレンガの歩道にしなさい。見栄えが違うから。」
「シンクは必ず陶器で。プラスチックは色が変わるわよ。」
「タイルはイタリア製。シャワーはニュージーランド製。」
「中国製なんか絶対ダメよ〜!」
と中国人の彼女に言われてまさに大笑い。

お勧めは高くつくのですが、実際に建材屋に足を運びあれこれ見ると、違いは歴然でした。
「これからずっと使っていくんだから、良く考えなさい。」
とも言われ、最終的にはすべてお勧めに従いました。ドアだけは最初から、
「ステンドグラスのドアにしよう!」
と意気投合し、けっきょく彼女が探してきた業者から気に入ったものを見つけることができました。それなりに時間と手間をかけただけのことはあったと思っています。

もう1つの遅れた理由は、オークランド市による検査です。ニュージーランドでは過去10年間に建てられた比較的新しい家でたびたび雨漏りが発生し、社会問題化しています。こうした家は「リーキー・ホーム(雨漏り物件)」と呼ばれ、その数は3万軒とも9万軒とも言われ、家主が気づいていない予備軍も含めれば、10万軒は下らないものとみられています。こうした物件を買ってしまった家主は建設会社、設計士、前の家主などを次々に訴えましたが、企業は倒産し、個人には支払い保障能力がなく、最終的に建築認可を出した市が槍玉に上がりました。

無数の訴訟を抱えこんだ各市は一斉に建築基準を厳しくし、うちのような小さな工事でも10回近くも検査が入ります。基礎工事だけでもコンクリートを流す前の配管が見える状態で1回、流し込んでからまた1回というように、各工程ですべて検査があるのです。しかし、検査の予約を希望の日に入れるのは至難の技で、予約が10日後、ひどい時は2週間後ということもあり、その間、工事は先に進めないため止まってしまいます。

市の検査は厳しくなる一方で、厳しさを通り超して、素人目にもナンセンスなことを要求されることもあります。また、検査官が毎回変わるので、前の人から認可が出ていたものにまでNGが出てやり直させられ、挙句に次の人から「なんでやり直したの?」と危うく元に戻せと言われそうになるなど、気が遠くなるような話もありました。私だったら青くなったり赤くなったりしそうなところを、百戦錬磨のサリーはスマイルで押し通し、目を剥くような内容もそのコストもニコニコと呑みこんできました。

検査を厳しくしても雨漏り問題のすべてが解決するとは思えませんが、市としては訴えられた時に防衛できるよう周到に準備をしているようです。

(新築の場合、庭に少しでも段差があるとガーデンウォールという庭専用のブロックを積まされるので、夫と息子が工事で掘り返した土をならしてくれました。まるで古墳です!)

「この国では絶対に新築の家を建てるのはよそう!」

そんな計画もないのですが、いくどとなくそう心に誓いました。サリーの不動の態度は本当に心強く、理不尽な要求を突きつけられるたびに一緒に組めたことに感謝しました。母屋も改築したいところがあるのですが、検査を思うと気も重く、今はちょっとひと休みです。明日に最終検査を控え、サリーとその仲間たちに"謝謝!"

(建設の途中では、こんな話もありました。よろしかったらどうぞ)

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「マヨネーズ」
本当はオークランド市に苦情メラメラなのですが、ここで爆発してみても始まらないのでサリーたちへの感謝に代えて締めくくることにします。この国に限っては家の新築は本当に腹をくくってかからないと。その挙句が雨漏り物件だったりもするので。

(最終検査前後の話はコチラコチラでも。そしてそうとうコチラ!たっ、タイヘンでした@@;;)

西蘭みこと

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