「西蘭花通信」Vol.0422  NZ・経済編 〜キウイ資本主義 V〜        2006年11月5日

「受注を制限して、コストは顧客転嫁?それで商売になるのか?」
と、ここまで読み進まれた多くの方はそう思うでしょう。しかし、ここニュージーランドの場合、かなりのケースでそれが可能のようです。まず、車にしろ家電にしろ家にしろ、およそ修理と名の付くものの工賃は、『所要時間×工賃』で算出されます。つまり、客さえつかんでしまえば、効率が悪くてもその分を顧客転嫁できるので、持ち出しや取りっはぐれがないのです。

そう聞いてはいましたが、にわかには信じられませんでした。移住早々、息子が家のガラス窓を割ってしまい、電話帳で見つけた近場のガラス屋に電話で見積もりを依頼すると、
「どれぐらい時間がかかるかわからないから見積もりは出せない。」
という返事。しかも、見積もりに来て仕事を頼まなかった場合、見積もりは有料とのことでした。本当にどっちに転んでも取りっぱぐれないようになっています(笑)

その家は戦後に建てられた典型的な当時の公団住宅で、窓も最も標準的なタイプでした。はまっているガラスもごく普通の板ガラスで、専門業者なら数限りなく修理してきたはずのものです。その旨を伝え、ガラスのサイズもきっちり言い、他に所要時間を算出するのになにが必要かを尋ねると、渋々値段を出してきました。確か40センチ四方で8千円近い金額でした。高い気がしたので、
「もっと安くならない?」
と率直に尋ねると、相手は電話の向こうで絶句してしまいました。値切られる経験などなかったのでしょう。

2軒目は朴訥でぶっきら棒な受け答えながら、最初から電話での見積もりに応じてくれ、値段も80ドルを切り1軒目より若干安く、すぐできるということで依頼することにしました。若いお兄さんが送り込まれ1時間ちょっとで修理を終え、「84ドル」と請求されました。
「ちょっと待って!見積もりでは80ドルを切ってるんだけど。あなたのボスがそう言ったのよ。」
と言うと、
「この仕事は思ったより難しかった。」
と言い出しました。

「ボスに電話をして。何のための見積もりなの?」
と食い下がると、彼は仕方なく携帯電話を取り出し、話し始めました。そして電話を切ると、
「今回は見積もり通りでいいけれど、普通は仕事をしてみなけりゃ、いくらかわからないんだ。」
と憮然とした表情で言い、小切手を受け取り、レシートを切って帰って行きました。あの10ドル近い上乗せ分が何だったのかはわかりません。何らかのかたちで彼の懐に入るものだったのでしょうか?

しかし、こんな話はかわいいもので、最もよく聞くのが、「工具が必要になったので取りに帰る」「部品が足りないので買いに行く」「サイズが合わないので交換してくる」など、さまざまな理由で一度姿を見せた業者がいなくなり、何時間も経って戻って来ては、いなかった時間分を丸々請求するという腑に落ちない話。なぜ事務所の往復や、よく見かけるネジを探しに行くのに3、4時間もかかるのか? 下見に来て大きさを測っておきながらサイズが合わないとは? 転嫁される顧客にすれば、たまったものではありません。

私たちの経験でもこんなことがありました。数段の外階段の手すりを直すために不動産屋が派遣した大工は、アロハシャツにBMWのピカピカの新車で午前中にやって来ました。普通のセダンのトランクからいろいろな工具が出てくるのは不思議な光景でした。彼は手すりのサイズを測り、「板を買いに行く」と行って出かけ、戻って来たのは昼過ぎでした。そこからのこぎりや金槌の音がして、子どもが学校から戻る3時過ぎには出来上がっていました。彼は、
「これから娘を学校へ迎えに行かなきゃならないから、明日ペンキを塗る。」
と言い、お嬢様学校で有名な私立校に通う娘の話をひとくさりして帰っていきました。

翌日はペンキ塗りにはもって来いの快晴でしたが彼は来ませんでした。その次の日は確か曇り空でしたがやはり来ませんでした。そして彼は二度と姿を見せませんでした。修理自体は終わっていたので私たちはそのままにしておきました。不動産屋も見に来るどころか、確認の電話すらしてきません。これもいつものことでした。1ヶ月以上経った頃、別件で不動産屋に連絡する機会があり、手すりが直ったこと、でもペンキが塗っていないことを伝えると、不動産屋は一言、
「ノーティーボーイ(いたずらっ子ね!)」
と言い、次の日にはいかにも大手業者の契約社員風な制服を着た年配の男性がやってきました。

彼は手すりどころか、階段そのもの、それにつながるコンクリートのたたきまできれいに塗って帰って行きました。手すり以外の場所が不動産屋の依頼なのかどうかわかりませんが、少なくとも私たちの依頼ではありませんでした。費用は不動産屋が大家に手数料を上乗せしてそっくり請求しけりがつくのでしょう。修理業者が2回来た無駄も、テナントが依頼していない仕事もすべて大家持ち、私たちも、業者も、不動産屋も腹は痛みません。

「ふーん。」
思いがけずペンキが塗りかえされた一角を窓から眺めつつ、
「全部塗ればやっぱりきれいね。」
と、嬉しくなりました。大家として賃貸物件をこぎれいに保ち、少しでも価値を保とうとするのであれば、悪い選択ではありません。しかも、彼の支出は賃貸業のコストであり、その大元の売上に当たる賃貸収入は私たちが払う家賃です!最善のコスト効率を追求しない限りにおいて、私たちも、業者も、不動産屋も、そして大家すら腹を痛めることも頭を悩ますこともないのです。

「上手くできてる。お見事!」(つづく)

(きれいに塗られた手すりと外階段。ここはランドリールームの出口で古い家には必ずある出入り口。外のガラスの覆いの付いたひさしは西向きで、夕方になってもいつまでも陽が入り、多少の雨でも洗濯物が干しておけて、本当に上手くできた便利な一角でした。こじゃれた家が多い今どきは流行らないのでしょうが、今の家にもぜひほしい!)


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「マヨネーズ」

派手派手のアロハシャツにブランド物のサングラス、ピカピカのBMWの新車に私立のお嬢様学校、そしてこの仕事ぶり・・・
「この国ではビルダー(大工)ってそんなに儲かるのかしら?」
と、思わず夫と苦笑しつつ首をかしげてしまいました。

西蘭みこと