「西蘭花通信」Vol.0421 NZ・経済編 〜キウイ資本主義 U〜 2006年10月31日 仕事を断る?! 資本主義の常識であれば、企業にしろ個人事業主にしろ、見込み客を門前払いするということは、よほどのこと。たとえ何かの事情で引き受けられなくても、話を聞くなりして好印象を残すよう努めるはずです。そうしなければ、 「あの会社は感じが悪い」 「話も聞かずに断った」 と評判を落としてしまいます。宣伝費をかけて知名度を上げても消費者は往々にして口コミに左右されるものです。 評判や信用を失くすことがどれほど痛手となるのか、資本主義化下の経済先進国と呼ばれている国で商売をする以上、骨身にしみているはず・・・という思い込みは、ここでは通用しない場合もあるようです。技術的にも価格的にも問題がなくても、利益率や規模で判断した時に、仕事としての優先順位が低ければ、あっさり断ってきます。その場合、今後のお付き合いなどということはほとんど考慮されず、名刺すらくれません。 これが資本主義の権化、香港だったらどうなるでしょう?まず、目の前に現れた見込み客をみすみす逃すようなことはまずありえません。顧客開拓がどれほど大変かを考えれば当然でしょう。 「ウォークイン・クローゼットを作りたいって?いいぜ。予算はどれぐらいだ?そっか、ちょっと待ってな。」 こちらを外国人と見てとると、ここからはブロークンな英語から淀みない広東語に切り替え、 「ワイ?凸師傅(シーフ)」(広東語で「もしもし、凸師匠?」棟梁はみな「師傅」) と、目の前で堂々と携帯電話。 「ここにウォークイン・クローゼット作りたいっていう日本人がいるんだけど、オレんとこ今、手いっぱいでよ。そっちはどうだい?そっか、じゃ、7:3でやんないか? えっ?8:2? まぁ、いいぜ。その代わり次は頼むぜ、師傅。」 と、1分で商談成立。 すぐに見積もりの日程が決まり、希望のデザインがあるなら写真でも雑誌の切り抜きでも用意しとけ。ドアや棚の材料が見たかったら、ロックハート・ロード(建材関連の卸街)に行って自分で見て来い。気に入ったのがあったら店の名前と商品番号をメモして来い。オレが後で3割の業者割引で買い付けてきてやる。いいのがなかったら、後日一緒に見に行ってやる――と、話はとんとん拍子。これらは私たちが実際に経験したことです。 下請けに出すことはおくびにも出さず(広東語では堂々と話していても)、さも自分が請け負うように話を進め、材料の買い付け、途中の進み具合、集金など要所はきっちり押さえ、商機を確実にものにします。取り分は2割でもそう悪い話ではないでしょう。断らないことで信用も利益も一挙両得です。客としては注文どおりのものを見積価格で納期までに造ってくれるのであれば誰の施行でもかまわない訳で、プロの仕事に気持ちよく金を払い、友人が業者を探していたら、進んで紹介する――ということになるでしょう。 (師傅がするのは内装ばかりではありません。竹で足場を組んで外壁を直したり、ペンキを塗ったりもお手のもの。足場の美しさと安全さには度肝を抜かれるほど→) こんな環境からやってきた私たちには、業者の方が仕事を断るという現実はなかなか呑み込めないものでした。しかし、ここはニュージーランド。これは現実です。以来、私たちの「消費者心理」はすっかり冷え込んでしまい(笑)、それらしい業者の名前はイエローページでいくらでも拾えるものの、なんとなく気が進まないまま今に至っています。どうして断られるのか、夫と苦笑いしながらあれこれ話し、 1) 仕事が小さく実入りが少ない、 2) 他の仕事が入っていてこれ以上引き受けたくない、 3) 従業員を残業させると手当てが高く儲けがなくなる―― 「まっ、こんなところだろう。」ということになりました。 他社を出し抜き、消費者にカネを使わせてこそナンボの資本主義、その欲望は「無限」のはずなのに、ここでは「有限」のようです。客であるという自負心など何の役にも立たず、「誰が客だと思ってんだ!」という捨て台詞は、本当に打ち捨てられ見向きもされなそうです(笑) ましてや「お客様は神様」だの、どこの世界の話でしょう? こそばゆく消費意欲を煽られ、「やられた〜>_<!」と思いながらついつい財布を開いてしまっていたこれまでの価値観が、とても遠くに感じられます。 他にも資本主義と信じていたものに肩透かしを食わされる経験を何度かし、これは「競争が少なく」「自分の生活を重んじる」キウイならではの資本主義の在り方なのではないかと思うになりました。 利益の追求には限度があり、 そこそこ注文があれば満足し、 できる限り競合せず、 残業や休日出勤など自分の生活を犠牲にしてまで利益を追わず、 コストは顧客に転嫁し、 苦情が来ても受け流す―― と、こんな感じでしょうか? 受注の制限、コストの転嫁など、まさに競争の少なさの反映です。特に建設業界はここ数年の不動産ブームで家を増改築したり建て直したりする人が急増したためどこも人手不足で、移民局が必死になって瓦職人、レンガ職人といった"ガテン系移民"を海外から導入していた時期もあったほどでした。今年に入り需給関係はやや落ち着いてきたとはいえ、現在の受注状況に満足している業者は少なくなさそうです。 「ふーん。これでビジネスとして成り立つなら問題ないわけよね。」 ここで生きていく以上、本当に今までの認識を改めなくてはいけないようです。 (つづく) ****************************************************************************************** 「マヨネーズ」 香港の師傅たちが心底懐かしいです。「タイルを変えたい」「キッチンのガス台とシンクの位置を反対にしたい」とあれこれ注文を付けても、 「女はホントに厄介だよな〜」 と言いながら、細々した注文に付き合いつつ、価格交渉にもそこそこ応じてくれました。 「なんだよ、広東語がわかるんだったら最初からそう言えよ。」 と、くわえタバコの煙に目をしばたかせながらも、職人らしいきっちりした仕事ぶり、清々しい徒弟関係、 「どうだ?問題ないだろ?」 と後日電話をくれる素朴なアフターサービス・・・懐かしいです。 (なにげに窓の外で、上半身裸で作業をしている師傅。支えは自分で組んだ竹の足場だけ。多分、エアコンの修理でしょう。命綱もなにもありません。これで地上9階の高さ@@ 尊敬〜☆→) 西蘭みこと |