「西蘭花通信」Vol.0419  NZ編 〜今ドキのキウイ世相−Who is who〜   2006年10月18日

(これは連載です。これまでの話は
「今ドキのキウイ世相−0800 SAVE ME」
「今ドキのキウイ世相−MAKEOVER」
「今ドキのキウイ世相−Kiwi Now」
からどうぞ。)


次男(9歳)の通う小学校の卒業公演で、子どもたちの時代を読む洞察力の鋭さにグーの音も出なくなってしまった私。彼らは今のニュージーランドを席巻する見た目重視のメイクオーバーの風潮をしっかり見抜いていました。思い切り外見を変えても、本人が新しい自分をしっかり生きるのであれば意味があることでしょう。変わった後の大人が生き生きと幸せそうであれば、子どもへの申し開きもできそうです。そこまでいかなくても、「いい?世の中、やっぱり第一印象なの。見た目なのよ。」と、真実ではなくとも開き直って渡世術を教える親子関係も、現実としては「アリ」でしょう。

問題は、勧められるままに大金をはたいて漠然と変わってはみたものの、内面が追いつかず、新しい外見とのギャップに戸惑ったり、"いじった"事実を隠し、自分自身を偽るうちに何が真実かを見失ってしまったりする、メイクオーバーに翻弄されてしまうケース。この辺の狼狽、苛立ちも子どもは見抜くことでしょう。 いずれであっても、大人として、親として、他人の目を欺くために変わる以上、決して忘れてはならないのは、「外見で人を判断してはいけない」と教えながら、実際の自分は外見で人を判断し、他人からも判断されていると疑わないことを露呈している、ということです。

「メイクオーバーでイケてる自分になれば他人にアピールできる」、平たく言えば「外見を変えれば他人をその気にさせることができる」ということは、自分もまた他人の外見に惑わされることを白状していることにもなります。本音と建前の使い分けもまた、大人が子どもに教えてしまうものなのでしょう。

これ以外にも思わず唸らされたのが、役柄の設定とそのキャスティングです。次男の話によれば主役級の配役は先生が決めたとのことですが、それにしても見事に「キウイの今」を反映していたように思います。まず、悪役のドクター・フーム。悪の力で世界征服を企む科学者といえば、ベートーベンのような頭をした狂気じみた老齢の男性となりそうですが、ここでは中国系の女性(実際はかわいい女の子)。

"科学者≒頭がいい人≒アジア人≒ついでに言えば女性"という、口には出さなくても社会の風潮として、小学校レベルから根付いているものを、ここまではっきり表に出したのは天晴れです。
(忍者部隊を率いるドクタードクター・フーム。忍者とカンフーファイターがゴッチャになった西洋社会から見たアジアン・ファイターたち→)

このドクター・フーム、その期待を裏切らない完璧さで、とりわけ彼女の英語の美しさは耳を疑うほどでした。クイーンズ・イングリッシュでもアメリカン・イングリッシュでもなく、かといってキウイ・イングリッシュでもない、なんとも不思議に完成された英語なのです。かつて映画「カサブランカ」を観た時、イングリッド・バーグマンの話すアクセントという生活感のない、ヨーロッパ大陸の人の英語に感動したのを髣髴とさせるような響きでした。(彼女のスウェーデン訛りはハリウッドでの人気の秘密の一つでもあったそうですが、当時の私にはとても澄んだ透明な英語に聞こえました
^m^;

ドクター・フームは長い化学記号を含む台詞を浪々と語り、明確な語尾には知性と自信と余裕が感じられました。次男によれば、彼女は学校中に名を馳せる英語や算数の才媛で、オークランド市のスピーチの大会などにも学校代表で出る、みんなが知っている学年を超えた存在なんだそうです。(9歳の子の情報なので不正確だったらご勘弁)

思わず笑わせられたのが、捕らえられた彼女の、
「これから悪の根源の私はどうしたらいいの?」
という質問への、
「税金徴収人になりなさいよ!」
という答え。小学校6年生がどこまで税金の意味を理解しているかはわかりませんが、大人が納税を嫌っていることは、はっきりわかっているようです(笑) 

「じゃ、手下の忍者たちは?」
という問いには、
「掃除機のセールスマンに。」
と。日本人にはピンと来ませんが、掃除機の訪問販売という職業が最近まであったようです。かつての百科事典セールスのようなものでしょうか?

名前だけは「男の中の男」マンリーマンが口だけ達者なナヨナヨなイケメンというのも、実にキウイらしく思わずクスリ。銀行で込み入った話になった時、担当者としてやたらにフレンドリーな若い白人系男性か、ニコリともしない年季の入ったインド系中年女性から選べるとしたら、私はまず後者を選ぶでしょう。これは人種偏見などではなく、経験に基づいた効率重視の確率の問題です。
(具体的な話はメルマガ「銀行チャチャチャ」でもどうぞ)

そして、メイクオーバーでドーンとゴージャスに変わり、ライバルを救出し、悪を倒す主人公のワンダー・ウーマンが元気溌剌な大柄な女の子というのも、これまたとってもキウイです♪ 今のNZ、首相も女性なら、国内最大企業ニュージーランド・テレコムの社長も女性、今でも国家元首であるエリザベス女王の代理となる、いわば対外的な国の象徴である総督もつい最近まで女性、首都ウェリントン市長も女性で、子どもたちがリーダーとして女性を思い浮かべることが何ら不思議ではない世相があります。
(←実はオトコ不在のオンナ同士の戦いだった´▽`?)


ストーリー展開は最終的に、ドクター・フーム対ワンダー・ウーマン率いる「バックアップ団」の戦いで、捕らわれの身となったマンリーマン率いる「スーパー・スカッド」は添え物的存在だったことを考えると、
まさに「男は愛嬌、女は度胸!」 
やっぱり子どもたち、なかなか読んでます!(完)

(オトコは愛嬌?マンリーマンを始め憎めないキャラが目白押し。左は掃除機のセールスマン役。どうします?こんな人が家まで掃除機売りに来たら^m^?→)


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「マヨネーズ」

ドクター・フームの手下の忍者が、
「こんな待遇だなんて、忍者学校では全然聞いてなかったわ。」
とブツブツ言いながら、サラリーマン根性丸出して渋々仕事をしているところも、専門学校や資格コースがもてはやされるNZらしく、思わずニヤニヤ。

(文句を言いつつドクター・フームの秘密兵器を掃除する忍者たち。DIY好きの保護者のお手製なんでしょうが、中にクリスマスに使うような点滅する電球を入れ、なかなか上手くできていました→)

西蘭みこと