「西蘭花通信」Vol.0401  NZ・生活編 〜二都物語 コスプレ編〜     2006年6月15日

今度は絶対最後まで!(誓)・・・と誓ったはいいものの、当初3話のつもりだったのに限りなく6話となりそうで、今回は第4話をお届けします。これまでの話は下のリンクからどうぞ。
「二都物語 ウェリントン編」 
「二都物語 ホスピタリティー編」
 
「二都物語 ホームシック編」


「どうしてこの街をもっと早く知っておかなかったんだろう?」
移住後初めて感じた香港への強い郷愁。一目惚れしたウェリントンは山を背後に海に開けた地形から、重厚な英国式建物、ひっきりなしに行き交うバスやケーブルカーまで、香港にそっくりでした。それもそのはず、ウェリントンがそれまでの首都だったオークランドから正式にニュージーランド(当時はイギリス植民地)の首都になったのは1865年。香港がアヘン戦争の結果、中国からイギリスに割譲されたのが1842年、その後のアロー戦争で九龍半島の一部も割譲されたのが1860年。

2つの都市は大英帝国が栄華を誇る時代の申し子として、ほぼ時を同じくして誕生していたのです。どちらにあっても急斜面の山肌を上り下りするピカピカに磨きこまれたケーブルカーや、調度品やステンドグラスまで本国から運び込んで造り上げた歴史的建物の数々は、街の景観をガラリと変え、宗主国の圧倒的な権勢を見せつけるものだったことでしょう。

今やウェリントンのケーブルカーも香港のピークトラムも昔を懐かしむ観光スポットの目玉でしかありません。数少なくなった古い建物も政府関連のもの以外は、外見を留めこそすれ、当初の目的からは想像もつかないようなものに生まれ変わっています。これも両都市に共通した変遷で、その間には150年という絶対的な時間が流れたのです。地球の北と南、飛行機でまっすぐ飛んでも10時間以上もかかる場所で、同じ親を持つ良く似た兄弟はそれぞれに成長し、繁栄し、今に至っています。

「移住前からこの街を知っていたら、どうしていただろう?」
今さら考えても仕方のない問い。仕方がなくても答えられない逡巡。暮れなずむウェリントンの夕刻に、香港の摩天楼に降りる夜の帳が重なり、私は次第に言葉少なになっていました。帰りのケーブルカーの乗客は私たち以外はほんの数人で、そのうちの2人は職員風でした。こんなところもピークトラムにそっくりで、夜景を観た帰りの終電で何度も目にした光景。私は完全に口をつぐんでしまいました。

7人制ラグビーの国際大会「ウェリントン・セブンス」初日の翌朝も、抜けるような青空でした。
「暑くなりそう。」
吸い込まれそうな深い空を見上げると、直視できないほどの眩しさでした。前日同様、バスで街の中心部に出ると、
「うわー、いるいる!」
と家族全員、窓の外に目が釘付けでした。

ラグビー観戦に行くのが一目瞭然のコスプレ集団たち!朝早くからかなりの数です。「香港セブンス」ではスタジアム周辺がぐるりと交通規制を受けるため、奇妙奇天烈な集団といえばゾロゾロ歩いているものでしたが、ウェリントンではその格好でフツーにバスに乗っているではないですか!お堅いビジネススーツの紳士の前に、完全着ぐるみでかろうじて出ている顔も思い切りフェイスペイントしたチーターやライオンが大人しく座っていたりします!

「スゴい、ウェリントン!!香港以上じゃない!」
朝の官庁街に忽然と現れた彼らの目立つこと、目立つこと。
「コスプレ度は試合へのフィーバーの反映!」
と信じて疑わなかった私には、鳥肌が立つくらいウレシい光景でした。

ボロ布を巻いただけの原始人カップル、ヘルメットをかぶった交通標識まで持って歩く道路工事人の一群、白いバスタオルを巻いただけの若い女性の一群、囚人&ポリス、ドクター&ナースという人気キャラ系、インディアンや中東ルックなどの民族衣装系、ムキムキマッチョの女装、下着か水着の18禁系、着ぐるみや頭に大きなキウイを載せた動物系など、ついニマニマしてしまうものばかり。

見慣れない人には、
「大の大人がここまでやる?」
と度肝を抜かれそうなコスチュームの群れが古色蒼然とした街並みを抜け、続々とスタジアムに向かっていきます。
「アイデア」
「準備」
「気合」
の3拍子が揃わないと、ここまではやれないかと思うと、こちらの期待も否が応でも高まってくるというもの。
「さぞや盛り上がるんだろな。ますます楽しみ。ずっと"セブンスは香港!"と思ってきたけど、実はウェリントンだったのね!」

この街に入って以来、何度目かの嬉しい裏切りにすっかりシャッポを脱ぐと、すぐ脇の歩道に面したカフェでは、全身これ映画「トイ・ストーリー」のバズなりきり組の数人がその姿のまま腹ごしらえの真っ最中でした。大笑いしながら写真を撮らせてもらいつつ、前日にウェリントン市長が誇らしげに言っていた、
"We are event people.(我々はイベント好き)"
という言葉を思い起こしていました。
(←3人でお食事中のバズたち)

行政都市というハードの硬さとウェリントニアンというソフトの柔軟さ――。
この見事な対比に三度の飯より好きなラグビーがからんで、目がくらみそうでした。
「スゴい2日間になりそう!」
カラフルな人たちに混じって、熱い期待を目いっぱい膨らませた私たちも、足取り軽くスタジアムへと向かいました。
(つづく)


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「マヨネーズ」
メルマガ「西蘭花通信」は400号となりましたぁ〜と、書いたとたん、また一頓挫。すっ、すいません(伏) 

その間、オークランドでは平日の日中に突然8時間もの大停電があったり、今日からジュニアドクター(研修医のことですが実際は公立病院の第一線の人たち)が初の全国一斉ストに入ったり(出産か救急車で担ぎこまれない限り診療は受けられません!)と、移住2年目の身にはビックリなことが立て続けに起きています。
深いです@@、ニュージーランド!

西蘭みこと