Vol.0379  NZ・生活編 〜二都物語 ウェリントン編〜           2006年2月11日

「なんてdecent(ディーセント)な街!」
ニュージーランドの首都ウェリントンで初めて迎えた朝。どこまでも澄み渡る青い空。風もなく「ウィンディー・ウェリントン(風の街ウェリントン)」と称される有名な悪天候の微塵もない好天。濃い青空を背景にくっきりと浮かび上がる、年代を刻んだ重厚な建物。どれも趣のある西洋建築で、ビクトリア調、アールデコ調とその時々の時代を彩った美しいビル群。

端正で、
上品で、
格式があって、
立派で、
こなれていて、
奥ゆかしく、
きれいで、
落ち着いていて、

趣があって、
粋で、
感じのいい、
見苦しさのない、
好感のもてる・・・

英語の"decent"以外、これらの印象を一語で言い表せる形容詞が思い浮かびませんでした。きちんと都市計画をやった近代的な街という秀でたファンダメンタルズの上に、調和のとれた営みが築かれ、海から吹き込んでくる風さえことのほか爽やかで、本当に心地よい、見事な景観。

視界をバスや路面バスが盛んに横切っていく、この国では得がたい眺めもまた、新鮮かつ穏やかで、環境への優しさが人や街への優しさにも映り、何を目にしてもどこに視線を移しても、からだの中に喜びが広がっていくような、不思議な場所でした。
「こんな街があったなんて。」
そう思いながら、私は明らかに後悔していました。移住するまでにNZには4回ほど旅行で来ており、レンタカーで回りながらほとんどの都市は訪れていたつもりでした。ただし、ウェリントンとネルソンを除いて・・・。

「その数少ない例外の街をこんなに気に入ってしまうなんて!深く考えずに始めてしまったオークランド暮らしを悔やむことになるかも。」
とさえ思っていました。移住以来、1年半以上暮らすオークランドはそれなりに快適で、この国随一の大都会だけあって、各種イベントからオールブラックスの試合まで行事には事欠きません。街の至るところには、かなりの大きさを誇る公園があり、海、川、丘が随所にある起伏に富んだ地形は、さまざまな景観を見せてくれます。長い裾野を引く美しくもミステリアスな無人島ランギトトも、街のシンボルの一つです。

しかし、私は自分を「オークランダー」と名乗れるほど街に浸透していませんでした。心のどこかで、
「もっとこぢんまりとした所に住みたい。」
と思いつつ、帰属していることを実感するには日が浅く、街が大きすぎるとも感じていました。せいぜい実際に暮らし、くまなく歩きクルマで走っている東オークランドに限って、やんわりとした住民意識を持っている程度でした。 そんな私に「ウェリントニアン」という言葉は、なんとも堅牢で誇り高く、しっかりと地に足が着いた響きに感じられました。水ぶくれ的に拡大していくオークランダーとは違う、もっと濃く深いなにかを期待させる名称でした。

「いいじゃない、この街。」
と連呼する私に、
「どう、住みたくなった?」
と水を向ける夫。これだけ長く連れ添うと、本当に問答のつぼを外さなくなります。
「うん、いいなぁ。気に入ったわ。」
「仕事のことがあるからな〜。今すぐっていうのは・・・家はオークランドより高いんだろうか?」
と、朝の街を歩きながらなんとも現実的な話をしている私たち。

前夜は10時過ぎにクルマでウェリントン入りし、予約しておいたモーテルを探してチェックインするのが精一杯でした。夜目にも石造りの建物が並ぶ様子は見て取れましたが、この手の街並みは活気とレストレーションと呼ばれる大掛かりな改装を欠くと、古臭いだけの、陰気で時代遅れなものになりがちです。街灯だけではそこまではわからず、モーテルの通りを探すことに気持ちが集中していました。

「南島と北島の間に人工的に作った行政都市だなんて、官僚ばかりが住む子ども向けではない、見るものもない所だろう・・・」
旅行者として来ている頃、ガイドブックのウェリントンを紹介するページが薄いことからも、私たちは完全にこの街を軽んじ、誤解していました。さすがに移住してきてからはいろいろな情報が入ってきて、多少見方を変えていたものの、特に印象深い場所ではありませんでした。

しかし、一夜明けたこの風景。この街らしからぬ晴天でより際立って見えたにしても、本当に美しく、ため息の出るような眺め。一生住むつもりでいる国の首都が、こんなに素晴らしい所であったことを知らずにきたことを恥じつつも、一国の首都として本当に似つかわしい場所を誇りに感じました。 安易に商業主義に身売りせず、古いものに手を入れて使い続けている様子は、行政都市ならではの利点なのかもしれません。古いものが姿を消し、大規模な造成が進み、メインストリートの大木が切り倒される経済の中心地から来た身には、羨望を禁じえない街。もっと早くに訪れているべきでした。(つづく)


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「マヨネーズ」 旅行者の色眼鏡なのかもしれませんが、初日のウェリントンはこんな風に映りました。クルマ社会一辺倒ではない、発達した公共交通機関の円滑な運行振りには舌を巻きました。他の都市がこれに追従しないことを心から残念に思います。

特にオークランドは街の未来と繁栄を本気で考えるなら、高速道路建設よりも交通機関の拡充を最優先にすべきだと思います。これ以上手遅れにならないうちに。バスや路面電車を日常的に使い歩く機会が多いせいか、ウェリントニアンはオークランダーより圧倒的にスリムです!

西蘭みこと