Vol.0372  生活編 〜5年の肩越し〜                  2006年1月9日

今から1年半前の移住当初、在住経験の長い方に、
「いくらここがいいって移住してきても、すぐに現実を思い知らされるんですよ。楽しいのはせいぜい1年目だけ。2年目、3年目は我慢の連続。4年目になると我慢も限界になってきて、5年目が正念場。ここで帰るか留まるか。6年目からは妥協と惰性で流すことを覚え、10年も居ればもう完全にキウイ。日本に帰って働けない身になりますよ。でもね、そうしてる人でもここの生活を楽しんでるわけじゃないんです。行くところがないからここにいるんですよ。」
と言われたことがあります。彼なりに新参の私たちを慮ってくれた忠告でした。

その時漠然と、
「5年目が正念場か〜」
と思ったものです。「石の上にも3年」という言葉の意義を信じる私は、何事も3年は続けてきました。職場でいろいろなことがあっても「3年はがんばろう」と思いながらさまざまな状況を乗り越えてきました。3年を乗り越えられればだいたいのことがわかり、自信もつきました。ただし、不思議なもので5年以上1ヶ所で働いたこともありませんでした。夫の転勤、所属部署の閉鎖、会社の合併、最後はSARSによる日本退避という予想外の出来事で退職し、私の在籍は、最長でも1ヶ所で4年数ヶ月でした。5年がひとつの節目となるのであれば、仕事に限っては、私はそれを経験せずに来たことになります。

ここでの生活はたかだか1年半ですが、「この国に移住しよう」と決心した2001年1月からは丸5年が経ちました。突飛もない話に聞こえるかもしれませんが、私の移住は決心と同時にスタートしており、気分的にはすでに5年を経た気分です。その間、ネット経由ながら朝一番でNZのニュースをチェックし、クラーク首相のスピーチを読み、スポーツの結果やお天気にまで目を通していました。手に入る限りNZ産のものを買っては試し、移住後に照準を合わせて職を辞し、お手伝いさん頼みの生活を切り上げ、主婦業見習いを始めました。思い描く将来はすべてNZを舞台にしたもので、住み慣れた香港での生活に感謝しつつも、残された時間を移住準備に向けて費やすことに余念がありませんでした。

今、5年の肩越しに見える6年目とそれ以降の未来。それは私にとって妥協と惰性で流すものとは程遠い、輝かしい時間です。生き生きとした子どもたちの姿に、雄大な夕焼けに、庭で孵った雛鳥に、道ですれ違う知らない人が「ハイ!」と声をかけてくれるのに、まだまだ感動し、こうした現実を生きていけることに感激しています。(何度見ても見飽きることのない美しい夕焼け→)

ここで生きる機会を与えられたことに報い、感謝をかたちに残していくために、私にはまだまだたくさんの時間が必要なのです。そのための未来は輝いて見えるばかりです。そうした中で10年が過ぎ、どこから見てもいっぱしのキウイになっているのであれば望むところです。日本に帰って働けない身になっても、ここでの生活を築き上げる方が遥かに誇らく思えます。

別の友人は学生時代、必死のアルバイトで溜めたお金を握り締めてこの地に向かった時、上空から見えた緑を目にしたとたん、涙があふれて止まらなかったそうです。長年の夢を苦労してかなえた者ならではの、感動の瞬間だったことでしょう。彼は今でもあの時の感動を生きているようです。ワインのグラスを傾けながら、
「このワイン、おいしいんですけど、オーストラリア産っていうのが気に入らないんですよね。」
と断りを入れるところも、思わず笑みがこぼれてしまいます。私もそう思いつつ、買ってしまっていたからです。

彼の口からこの国の悪口を聞いたことはありません。私も普段から苦言を呈しはしません。日常の生活の中で、さまざまな問題に直面するのはどこの国で暮らしていても同じことで、それをいちいち感情の赴くままに口に出し、自分の苦言を自分の耳で聞き、改めて自分の脳裏に刻み込むという後ろ向きな所作を繰り返すことは、ネガティブな感情を溜め込むという意味で、まず自分のためにならず、この国にとっても得るところがないと思っているからです。

忠告してくださった方はとっくに日本に戻り、別の道を歩んでいます。今は彼の行く手に幸あれと祈りつつ、身近な友人たちとグラスを重ね、ラグビーを観戦し、バーベキューやパーティーを楽しみながら、この地で生きていくことにします。いつの日か、「キウイってさ」と語る時、キウイが自分を含めない"彼ら"であることから、ごく自然に、自分も含む"我々"になっているようにとも願ってもいます。

メルマガ「西蘭花通信」の第1号「100年の大計」が世に出たのは2002年1月18日、今からちょうど4年前でした。こちらはこれから5年目の正念場を迎えることになります。発行当初、その存在を知るのは書いている本人と夫のみでしたが、最初の読者数は確か7人だったと記憶しています。これは予想外の"大人数"で、知らないところで知らない方が登録して下さっていたことに感動したものです。おかげさまで今回、第372号を数え、このブログ全盛時代にあっても400人近い読者の方に支えられています。ご高覧に心から感謝しつつ、これからも移住ライフのライブ感をお伝えしていきます。

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「マヨネーズ」 「ジェームス・ボンドだったらなぁ。海から上がったウェットスーツの下にばっちりタキシード着て、靴まで履いてるんだけどな〜」と言いつつ、"ただの人"の夫はラグビージャージをYシャツに着替え、ネクタイを締めてはノロノロ変身。

年末に「仕事の電話がかかってきた時が仕事始め」と宣言していましたが、けっきょく4日から仕事再開。今年も公私ともども楽しみながら、マイペースでやっていきます。

西蘭みこと