Vol.0366  NZ・生活編 〜歯〜                   2005年12月15日

次男・善がここ数日、体調を崩していました。一昨日は学校の保健室から「熱がある」と電話が入り、迎えに行って早退。そこそこ元気そうでしたが、夜になると、「ガム(歯茎)が痛い〜」と言って泣き出し、大粒の涙をポロポロ流していました。昨日は日中こそ元気だったものの微熱があり、夜になると「痛い〜」と口を押さえて再び泣き出しました。その時以外は問題がないので不思議ですが、ともあれ歯を診てもらうことに。

西蘭家では善以外、全員歯が良く、夫と長男は一度も虫歯になったことがないばかりか、歯医者に行ったことすらありません。私も高校時代に小さな虫歯を治療したのと、大人になってから親知らずを抜いたことがあるくらいでした。親といえども、歯の痛みも虫歯がどんな感じがするものか、泣くほど痛がる善に何が起きたのか、見当もつきませんでした。

ニュージーランドの公立校の多くには、歯科専門の保健室が併設されているようで、長男の中学校、次男の小学校にはいずれも立派な歯科室があります。専任の歯科療法士(Dental Therapist、学校での検診・簡単な治療を担当)は全校生徒を定期的に検診している他、診察もしています。予約を入れておけば、親の付き添いなしでも受診でき(治療には親のサインが必要)、診察料は無料です。歯医者の心当たりもないため、取りあえず学校を頼ることにしました。朝一番で午前中の早い時間に予約を入れました。

白い横木が走る、独立したかわいらしい建物にある歯科室は、一歩踏み入るや、
「NZの昭和30年代!」
と、とっさに思ってしまったほどシンプルな造り。診察椅子を含め、調度品すべてがそんな時代を彷彿とさせるような代物です。昨今の消費万能、拝金ムード濃厚なキウイの暮らしぶりとは別世界でした。古き良き時代を垣間見る思いだった一方、
「これだけの器具で治療ができるんだろうか?」
と、やや不安も感じました。
              (善の通う小学校→)

何度か定期健診で来たことがある善は、さっさと診察椅子に座り、脇の鉛筆立てにたくさんささっている子ども用サングラスの中から、スポーティーないかにも善が好みそうなデザインを選んでかけると、仰向けになりました。歯科医ではないので治療には限度がありそうですが、少なくとも電気で動くような機器は見当たりません。脇の机には先端に丸い小さな鏡が付いたもの、先がピンのように尖ったものなど、おなじみの器具やピンセットが4、5本並んでいるばかり。診察だけしているのかもしれません。

初老の女医は非常に威厳があり、ここの主として数え切れないほど多くの子どもたちを診てきた年季が感じられました。簡単な挨拶の後、ライトが付き診察開始。
「この子は前に2回診たことがあるわ。奥歯に虫歯があるって連絡表を書いて渡したでしょう?ご家庭でちゃんと見てますか?」
と突然言われ、焦る私。見たような見なかったような。香港で治療した歯が1本あるものの、虫歯がもう1本あるというのは初耳でした。

まごまごしていると、
「読んでないんですね?」
と鼻眼鏡の老眼鏡の上目遣いでギロリ。大変なプロフェッショナリズムに感動しながらも、記憶にないものはなく、
「うちではその手のものは夫が見ていて・・・」
と情けない白状。これは言い訳ではなく、本当のことでした。
「せっかく連絡表を送っているのに残念ですね。」
おっしゃる通りで、言葉も出ません。しかし、次の言葉を聞いてさらにビックリ。

「虫歯があっても、8歳だし、乳歯だし、じき生え変わるから、詰め物をしてそれ以上広がらないようにしておいたんだけど、ダメだったようね。」
えっ? 
虫歯を放置? 
広がらないように詰め物? 
それがダメだった?(=つまり広がってしまった?)
いくら歯科に疎い私でも、この説明には驚きました。
「詰め物だけで虫歯の進行が食い止められるの?」

「この虫歯は取り除かないとダメね。もしも同意するならこの書類に記入を。」
私もそう思ったので、書類に署名しました。
「しかし、ドリルもなさそうなのにどうやって歯を削るのかしら?」
とキョロキョロしていると、彼女が道具一式を持って戻ってきました。まず、歯茎に太い注射を打ち始めました。麻酔です。見る見る歯茎が膨らんできましたが、善は落ち着いています。3ヶ所に打ち、それぞれを押して感覚の有無を調べています。その間、善はすぐ脇の小さいシンクに、溜まっていく唾液を何度か吐き出させられていました。

次に彼女は先端が変わった形のペンチを取り出し、歯を挟みました。
「これで固定して、他の器具でどうかするのね?」
と思うやいなや、メリメリメリメリというなんとも言えない音がして、歯が抜けました。そうです! 虫歯を取り除くために、歯ごと抜いたのです。これにはさすがに呆気にとられてしまいました。彼女は抜いた歯を洗い、
「これが虫歯、これが詰め物・・・」
と説明してくれ、最後にビニール袋に入れた歯をくれました。簡単な消毒、善が自分でガーゼを噛んで治療終了。あっという間の出来事でした。

「痛がるようだったら家にある痛み止めを飲ませなさい。乳歯は根が浅いから永久歯ほど痛くはないものよ。じゃ、メリークリスマス。」 
手品のような予期せぬ展開でした。歯科室を出ると、外では子どもたちが体育の授業中でした。こんなかたちで、息子の歯が1本抜かれていくのを見て、この国にさらに一歩踏み入ったような気がしていると、向こうで顔見知りのマオリの補助教員が大きく手を振っていました。  

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「マヨネーズ」 「機械の故障と子どもの病気はセットでやってくる」というこの家でのジンクス通り、今回は私のパソコンと善が同時にダウン。相変わらず不思議な家です^^;

西蘭みこと