Vol.0355  NZ・経済編 〜金利の朝・為替の夜〜            2005年10月29日

"Reserve Bank increases OCR to 7.00 per cent" (準備銀行がオフィシャル・キャッシュ・レートを7%に引き上げ)
メールのタイトルを見ただけで何が起きたのかがわかったので、開いて中を読むことなく、そのまま外出してしまいました。ちらりと目にした受信時間は午前9時3分。ついでに確認したNZドルの対米ドル為替レートは0.7040米ドル台。0.70米ドル以上は、かなりのNZドル高米ドル安です。

準備銀行とはニュージーランド準備銀行のことで、この国の中央銀行(中銀)です。「OCR」と略称で呼ばれるオフィシャル・キャッシュ・レートは政策金利です。日銀が公定歩合を上げ下げしているように、ここでは準備銀行がOCRを上げ下げして短期金利を調節しています。今のように好景気でインフレが進行してくれば、中銀は金利を引き上げて法人や個人の借入コストを押し上げ、借金をしにくくします。逆に景気低迷時には利下げを行い、資金の供給量を増やすようにします。

NZの金利は、朝、動きます。準備銀行が1年に8回、決められた日の朝9時に金利政策を発表するからです。各国の中央銀行は重要な金利政策を発表する際、株式市場が引けた午後遅くやランチタイムなど、金融市場に影響しないタイミングを狙って行うものですが、朝が早いNZらしく、ここでは朝一番に公表されます。(準備銀行の「Eメールサービス」に登録すると、発表がメールで届きます。ご興味のある方はこちらからどうぞ)

利上げが決定した10月27日は、今年7回目の金利政策発表の日でした。9月のインフレ率が3.4%と準備銀行の中期目標である1−3%を越え、なおかつ沈静化の兆しがないことから、市場関係者の間では今回の利上げは必至と見られていました。準備銀行のアラン・ボラード総裁もこれに先駆け強力な警告を発していたため、私の中でも利上げは織り込み済みで、外出前に事実を確認したかっただけでした。

利上げ後に、利上げ期待で買われていたNZドルが利食われてくるようであれば、「利上げによる材料出尽くし感でNZドルが反落」という説明になるでしょうが、大台で踏み留まっているところを見ると、市場は年内最後の金利見直しとなる12月8日にも再利上げがあると見込んでいるようです。実際、ドクター・ボラードも連続利上げに含みを残し、引き続きインフレに目を光らせています。

NZの金利政策の最大要因はインフレ調整です。小規模ながらも経済先進国の一国。好ましい経済環境とは、発展途上国のような目覚しい成長よりも、1−3%以内に抑制された物価上昇という考え方です。経済が成熟している国で高成長を続けていくことは難しく、これは非常に現実的な方針です。その代わり、景気に過熱感が出てくれば経済成長を犠牲にしてでもインフレ抑制に出ることにやぶさかではない、ということにもなります。

今のNZ経済は、"経済成長率1%以下のハードランディングかインフレ退治か"の瀬戸際にいます。2004年1月に反転した金利はその後2年にわたって上昇を続け、とうとう5%から7%にまで上がってしまいました。それでも金利打ち止め感が出てこないのは、インフレ上昇に歯止めがかかっていないからです。原油高という予想外の事態もありましたが、それ以上にインフレを力強く牽引しているもの、まさにボラードが頭を悩ませているもの――不動産バブルが、連続利上げにもビクともせず肥大化しているからです。資産インフレを抑えるために、景気の強硬着陸が決行される危険性は日増しに高まっています。

なぜここまで、不動産バブルとインフレが分かちがたく進んでしまったのでしょう? その一因に住宅抵当ローンがあるようです。マイホームを持っている人たちが価値の上がった自宅を担保に借金をし、投資物件を買ったり、サイドビジネスを始めたり、資産価値を高めるために自宅を改装したり・・・と、さまざまな動きに出ているのです。この辺のキウイの"不動産財テク"には目を見張るものがあり、狭い場所ゆえの"土地本位制"の中、骨の髄から不動産マニアだった香港人以上に果敢ではないかと思います。
     (これだけ不動産が売れていても持ち家率は低下しており、投資物件が増加中→)

「なぜ、お世辞にも金融ノウハウが発達しているとは言えないNZで、ノウハウでは行くところまで行ってしまっている香港以上に、投資家とは呼びがたい普通の人がこれほどのリスクを取っているんだろう?」
それがずっと不思議でなりませんでした。1年暮らしてみて思うことは、
「個人も銀行も、果ては準備銀行も不動産リスクへの認識が驚くほど甘い。」
ということでした。リスクをリスクと認識していなければ、恐れる理由はありません。

香港には洗練された金融ノウハウがあった分、リスク管理も中銀レベルから市中銀行まで徹底していました。それでこそ97年のアジア金融危機では、他国のように銀行が潰れたり、IMF(国際通貨基金)が乗り込んで来たりすることもなく、70〜80%にも達した不動産の大暴落を耐えしのぶことができました。あれだけ銀行と不動産業界が手に手を取っていたはずなのに、いざという時の金融システムの強靭さは目を剥くものでした。

万が一の時、ここではどうなるでしょう? 状況は当時のアジアとは違いますが、似ている点も多数あります。その中でも、金利の引き上げだけではインフレに対応できない――その手詰まり感は当時を髣髴とさせるものがあります。これこそがボラードの憂鬱と苦悩の種ではないでしょうか? 彼でなくても心配になってきます。(つづく)

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「マヨネーズ」 久々のキウイ・ベア復活か^^? こんなことを考えているから、いつまでたってもマイホームを買って引っ越せないはずです(笑)
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キウイ・ベアの冬支度−牛から熊へ
キウイ・ベアの冬支度U−モヤシ・ショック
キウイ・ベアの冬支度V−スタグフレーション
キウイ・ベアの冬支度W−30年前の冬
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西蘭みこと